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yanokamiが4年ぶりにひたちなかに帰ってきた! 当初それは、多くのファンに喜びの声で迎えられるはずだった。しかし去る7月27日、レイ・ハラカミが脳出血により突然の逝去。出演辞退も想定された状況下、矢野顕子が一人ステージに立つ形で、ここWING TENTで予定通りライブが執り行われることとなった。いわばこれは、天国のレイ・ハラカミに向けた追悼公演だ。
あたたかい拍手に迎えられて矢野がゆっくりと登壇すると、WING TENTに厳かな空気が満ちていく。しかし"終わりの季節"の静謐な電子音が鳴り響き、スタンド・マイクの前に立った矢野が透き通った透明な歌声を解き放った瞬間、「これは決して哀しい別れのステージではないのでは?」という思いに駆られた。なぜならステージ上の矢野は、本当に楽しそうだから。ゆらゆらと身体を揺らしてダンスする矢野の姿があまりにも躍動的で、彼がすぐそばでビートを刻んでいるような錯覚に陥ってしまった。
その後は、後方に用意されたキーボードの席について"Too Good to be True"を披露。胸にズシンと響くビート、ボロロンと紡がれるピアノの音色、浮遊する歌声が溶け合うサウンドが、本当に心地よい。ここで「えー、yanokamiです。いつもはもう一名相方がいるんですけど、今日は都合が悪くて来られませんでした。これからもyanokamiの歌を、もっと多くの人に聴いてほしいと思います」と矢野。この挨拶で、先ほど私の胸を襲った思いが確信に変わったのは言うまでもない。「次は新曲をやります。この曲を作ったのはちょっと前なんですけど、ハラカミさんにそれを渡してトラックが出来たあたりで震災が起きまして。私は遠いところに住んでいるのでなかなか実感が沸かなかったんですけど、ハラカミさんは大変心を痛めておりましたので、彼のためにも曲を完成させました」という前説に続いて、3曲目の"Don't Speculate"へ。矢野のピアノと歌声のみによる楽曲だが、たった10本の指から紡がれているとは思えない音色豊かなサウンドと、聴く者の心を力強く鼓舞するようなパワフルな歌声から凄まじいエナジーが放たれる。ここにレイ・ハラカミの電子音が重なったときの快感を想像するとやはり残念でならないが、この生々しくも崇高な魂の叫びは、天国にいるレイ・ハラカミに確実に届いたはずだ。
1982年に坂本龍一とデヴィット・シルヴィアンのコラボ名義で発表された"Bamboo Music"のカヴァーを経て、「ハラカミさんを一番はじめに知ったときの曲をやります。21世紀の名曲のひとつに数えられる曲です」という紹介に続いてラストを飾ったのは、レイ・ハラカミがリミックスを手がけた、くるりの"ばらの花"。繊細かつ刺激に満ちたエレクトロニカと矢野の清らかな歌声が、WING TENTの屋根を突き破らんばかりに天上へと高く高く昇っていった。(齋藤美穂)