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 SEは特になく、ふらりとリラックスした様子で登場した4人を、お客さんの温かい拍手が迎えた。そして、ギターの柔らかなアルペジオを軸に、バンド全体で突然広げた残響音。それはいつしかノイジーな熱量を帯び、“ひとり乗り”へと転じていった。歌声が魔法のように我々をうっとり酔わせる出戸学(G・Vo)、流麗なフレーズを一心に奏でる馬渕啓(G)、波の音のように自然かつ力強いフレーズを放つ平出規人(B)、絶妙に表情を変化させながら曲にドラマを注入する勝浦隆嗣(Dr)。4人の音色が融け合いながら生まれる世界の奥行きの深さ、色鮮やかさは、息を呑んで聴き入るほかない美しさであった。
 ハネたリズムがお囃子のような素朴な高揚感を引き出してくれた“タンカティーラ”。穏やかな横揺れを示していたお客さん達が、いつの間にか夢中になって曲に身を任せてゆく様がドラマチックだった“バランス”。イントロの時点でお客さんの歓声が上がり、歯切れの良いダンスサウンドを堪能させてくれた“コインランドリー”。終盤で一気にスピードアップし、突然幕切れを迎える展開にワクワクした“アドバンテージ”。ここまではほとんどMCを挟まず、ひたすら曲を奏で続けたOGRE YOU ASSHOLEだったが、彼らのサウンドをドップリ浴びた我々は、完全に時を忘れてのめり込んでしまっていた。
 ふと気づくと、いつの間にやら夕暮れ時。涼しい風が吹き始めていた。「最後の曲です。ありがとうございました」と出戸が挨拶し、ラストに披露されたのは“ワイパー”。馬渕が静かに爪弾いたギター、簡素な平出のベースのみでまずは幕開けたが、勝浦のドラムが合流したのをきっかけに、一気に劇的な様相を帯びた。そして、バンド全体で醸し出す温かい躍動感から、何処かノスタルジックなメロディが滴り落ちていく。実にスリリングな演奏であった。  他の3人よりも少し遅れてステージ袖へと向かった平出に向かってお客さんが歓声を届けると、彼はちょっと照れくさそうにタオルを持っていた手を振り、頭を下げた。先日発表があった通り、今日のこのライヴをもって彼はバンドを脱退する。そのことについてライヴ中には特に触れられなかったが、4人で奏でた素晴らしい演奏が、平出に向けての何よりものはなむけになっていたと思う。(田中大)