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ライヴが始まる前に「みんなは映画『コクリコ坂から』は観た? 今から葵ちゃんのコンサートを始めるからね!」と、ステージで挨拶してくれたのは、何とスタジオジブリ作品のプロデューサー・鈴木敏夫氏。その後、長めの丈の上品なワンピースで登場した手嶌 葵はアコースティック・ギターの伴奏と共にカヴァー曲“上を向いて歩こう”を披露。他の誰にも、どんな楽器にも似ていない、儚げだけれど情感豊かで深みを帯びたその歌声。超満員のオーディエンスもうっとりだ。ワン・コーラスを歌い終わった間奏の途中で控えめにおじぎをすると、大きな拍手が起こった。デビューした直後はとても人見知りだった彼女がこんなにみんなの前で堂々と歌っているのは感慨深い。
「ありがとうございます。私はROCK IN JAPANは初めてです。こんなに暑いとは、そしてこんなに集まってもらえるとは!」と挨拶。そして「私の人生の中で一番、愛する歌です」と、ベット・ミドラーの名曲“The Rose”をカヴァー。中学時代から彼女の心の支えとなってきた歌であり、デビューのきっかけとなったこの歌を、大切に歌ってくれた。その深い想いと愛情が繊細な声の表情となってしみじみと伝わってくる。
更に映画『ゲド戦記』の主題歌“テルーの唄”では《心を何にたとえよう》の名フレーズが清涼感いっぱいの風になってWING TENTに吹き抜けた。ラストには「すごく切ないメロディですが、今日は来てくれたみなさまのために優しく歌えたらなと思います」と映画『コクリコ坂から』の主題歌“さよならの夏~コクリコ坂から~”を。息をたっぷりと使うファルセットの美しい歌声が最後の一音まで丁寧に響くと、盛大な拍手が場内に響きわたった。手嶌はみんなにも拍手、そして小さなガッツポーズのような愛らしい仕草で(もちろんおじぎも忘れずに)ステージを去った。ROCK IN JAPANが素敵な歌姫との出会いを果たした貴重なワン・シーンだった。(上野三樹)