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 ときおりさわやかな風が吹き抜けてはいくけれど、まだまだ頭のてっぺんに居座っている太陽のお陰で、今日一番というくらいの暑い時間。SEASIDE STAGEに登場したのは、ROCK IN JAPAN初登場のNIKIIE。真っ赤なワンピース姿で登場すると、静かに鍵盤の前に座って鍵盤でぽろぽろと弾きはじめたのは、昨年末リリースされたデビュー・マキシシングルのタイトル曲“春夏秋冬”。その歌声は、繊細で、しかし手入れの行き届いた弦楽器のようなしなやかな強さがある。耳にやさしく、ことばひとつひとつをとてもクリアに聴かせてくれる歌声。吸引力のある声に、SEASIDE STAGEにも人が集まってくる。
「ひたちなかのみなさん、初めまして NIKIIEです。暑いのに遠いところまでよく来たなあ。短い時間ですが、どこよりも爽やかにやります」。そしてアップビートでパワフルな、“NAME”や、“HIDE&SEEK”へ。疾走感たっぷりのビートに、おのずと手拍子が沸き起こって、そんなオーディエンスを見て、NIKIIEも「ひたちなか~」と呼びかけ、ついには立ち上がってアグレッシヴにプレイ。さわやかで、心温まるやりとりだったけれど、そのじつ、「たぶん今、このキーボードの上で目玉焼きが焼けます(笑)」というくらい、彼女の指先はカンカンに熱せられていたよう。
 茨城県出身で、このひたち海浜公園には、小学校の遠足で来たり、よく遊びに来ていたという。もちろん、このフェスにも遊びに来ていた。「まさか自分が出るとは思わなかったですけど。そんな、大事な大事な故郷にみんなを迎えたので、この曲を歌います」。そう言って弾き語りで披露されたのは、“紫陽花”。かけがえのない大事な人を想って歌ったこの曲は、震災後、各地でCDを無料配布した曲でもある。じんわりと心に沁みこんで、幼いころの懐かしい光景や、たくさんの人の顔が思い浮かんでくる。うっとりとしたように聴き入るオーディエンスの多くも、きっとそんな体験をしただろう。歌を通して、聴き手の内にあるストーリーをするするとひっぱりだすのが、このNIKIIEというアーティストだ。
「日々感じている、表には出せない感情をここに置いていってほしい。秋になるとコスモスがたくさん咲くので、それで浄化されるかも」。地元っ子らしい素敵な情報で、ほっこりと癒してくれたNIKIIEだった。(吉羽さおり)