sumika、新たなスタートを刻みつけた『Unmei e.p.』徹底レビュー! 怒り、別れ、葛藤、希望──すべての「運命」を乗り越え未来に進む

『Unmei e.p.』
発売中
 Unmei e.p. - 通常盤/初回生産限定盤『Unmei e.p』5月15日発売通常盤/初回生産限定盤『Unmei e.p』5月15日発売
『Unmei e.p』に収録された4曲は、それぞれに今こそリリースされる必然を孕むものだ。sumikaが12年目に向けて走り出す、そのバンドの現在地をしっかりと刻みつけた作品になっている。表題曲“運命”は、TVアニメ『ダンジョン飯』のオープニング主題歌として書き下ろしたものだとしても、この究極的に強いタイトルを冠して、それが多義的に説得力を持つ楽曲たり得るのは、やはり今のsumikaのなせる業だ。始まりから引き込まれるようなアップテンポのリズムに耳を惹かれ、そのあとに続くトリッキーな展開は、明日は何が起こるかわからない、予測不能な「人生そのもの」を表現しているようでもある。にぎやかなストリングスサウンドもこの狂想曲にさらなる色を添え、それをわくわくするような期待感と捉えるか先行き不透明な不安と受け取るか、自分の心持ちやコンディション次第でサウンドの受け取り方が日々変わりそうなところも面白い。待ち受ける運命は避けられないものだとしても、《ミステイクもユーモアさ》と進んでいけたなら、きっと最後は笑えるはずで、ラストの不穏なピアノの和音さえ、すぐさま蹴散らして前に進むようなエンディングが頼もしい。この大胆な「攻め」のアレンジを、盟友、宮田'レフティ'リョウとともに突き詰めていったというのが興味深い。sumikaはバンドの枠を超えて、様々なゲストを迎えては、ファンを含め関わる人をすべて引っくるめ、大きな屋根の下に集うsumikaとして、自由に音楽を表現してきたバンドだ。中でも宮田とは、もはや「ゲスト」と呼ぶことさえ憚られるほど濃密な関係性が築かれている。その宮田との制作だからこそ、sumikaの新曲はきれいにまとまることなく、思い切り弾けたものになったのだと思う。バンドに新風を巻き起こす楽曲が必ずしも正式メンバー発である必要もない。そんなさらなるフレキシブルさを印象づける曲が、今、12周年に向けての第一歩として放たれたことに大きな意味を感じる。sumikaの表現する音楽世界は、この先さらに固定観念を打ち破っていくことを予感させるものでもあった。

さらに今作は、昨年の『Starting Over』以来約1年ぶりのフィジカル作品ということもあり、片岡、荒井、小川──核となるこの3人の在り方や楽曲制作の方法を更新して見せてくれる作品でもある。それぞれのインタビューでも語られていると思うが、たとえば“Poker Joker”の成り立ちはとてもユニーク。小川が「怒り」をテーマにした曲を書きたいと思い、歌詞のイメージを片岡に伝えながら制作したというこの楽曲。その不穏なサウンドに片岡が歌詞を綴ったものだが、片岡のフィルターを通すことによって、「怒り」は切迫し爆発するようなものではなく、どこかユーモラスなアイロニーを含んだものとして響く。片岡のボーカルはところどころでザクッと刺すような鋭い怒りを感じさせるが、何か特定のものに憤っているというよりも、sumikaならではの言葉遊びとして成立していて、なおかつ、安全な場所から悪意を撒き散らす人間や、冷笑を浴びせるだけの有象無象へのカウンターとしても痛快な一撃となっているのが見事だ。小川の「怒り」の本質を片岡が俯瞰的に受け止め相対化した結果、どこか風通しのいいポップミュージックとして楽しめるものにもなった。荒井のドラムも遠慮なくその「怒り」を楽しんでいるかのように鳴り、メンバー間でのさらなる信頼感の深まりというか、ますます自由な雰囲気を感じ取る。

さらにもう1曲、小川が曲を作り、片岡が歌詞をつけた、小川のリードボーカル曲 “いつかの化け物”にも驚く。小川のボーカリストとしての存在感がこれまで以上に前面に出た楽曲となっていて、そこには遠慮のかけらもない。sumikaらしいダイナミズムとエモーショナルさを携えたサウンドに乗せ、片岡は《変わる準備はできているんだ》と冒頭に歌詞をつけた。小川の中にある「歌心」「表現欲求」に、片岡はあえて火をつけるような歌詞を書いたのではないかと思う。昨年、片岡が声帯の不調で歌えなかった時期、荒井と小川はsumika[roof session]として、sumikaとして出演予定だった数々のイベントやフェスに出演してきた。それを経たことで、片岡が感じた心強さもあっただろう。そしてボーカリストとしての小川の秘めた熱い思いを、片岡はこの曲の歌詞で思い切り引き出そうとしたのではないか。これを受けての小川の歌唱は実に力強く、sumikaのボーカリストとして新たに芽生えた矜持が滾っているように感じられる。これもまさに、今のsumikaだからこそ完成した楽曲であり、片岡が体調不調に見舞われるという「運命」を、sumikaが乗り越えてきたからこそのものだ。つまりこの『Unmei e.p』は、訪れた運命を自らが切り拓き辿り着いた、「その先」を描くものだとも言えるだろう。

卒業ソングはポップシーンのセオリー的には3月にリリースするのが一般的だが、sumikaが描いた“卒業”は、その約2ヶ月後のリリースだからこそ「効いて」くる。穏やかに語るような片岡の歌い出しが、友と家族以上の親密さを育んだ学校生活をやさしく振り返る。そんな友といつしか疎遠になることなどは、卒業式当日には想像もつかないだろう。もちろん卒業後もずっと続く関係性もあるが、その答え合わせは少しあとになる。だからこそここでは《さよなら》であり、この別れは誰にでも訪れる「運命」なのだが、“卒業”もまた「その先」を見据えて書かれた物語だと言える。卒業してもう会えなくなったとしても、《出逢えた》ことの尊さは大人になるたび深く思い出されるものだ。それを実感するには卒業から少し時間を要する。「卒業」のその日だけにフォーカスするのではない、むしろ時を経るごとに深く問いかけてくる、新たな卒業ソングの誕生である。これは、とうの昔に「卒業」を経験した大人たちにも、いつまでもあたたかく、切なく響く歌だ。

sumikaのこの新作EPには様々な運命の物語が描かれている。怒りも葛藤も別れも希望も受け入れ、乗り越えながら進んでいく、その覚悟と祝福に満ちた1枚となった。(杉浦美恵)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年6月号より抜粋)


『ROCKIN'ON JAPAN』6月号別冊にsumikaが登場!
【JAPAN最新号】sumika、3人の絆は運命を越える──11年目を乗り越え、たどり着いた新作『Unmei e.p』。強くにじんだ新たな覚悟に迫る3人それぞれのインタビュー特集!
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