ただし、最初のMCなどで椎木知仁も触れていたが、11月12日の水戸ライトハウスが、メンバーの体調不良で延期。振替公演が1月20日(月)になったため、厳密に言うとあと1本残っている。が、My Hair is Badのさいたまスーパーアリーナでのワンマンは4年ぶりであること、アリーナ部分をスタンディングにして大会場でワンマンを行うのは、コロナ禍前以来だったことなど、いろんな意味でメモリアルなライブになった。
『ghosts』収録の13曲は、すべて演奏された。1曲目2曲目が“一母八花”“鳩かもめ”で、アルバムの冒頭と一緒。7曲目と8曲目が“悲劇のヒロイン”“自由とヒステリー”、14曲目と15曲目が“ペガサス”“ぶっこむ.com”、というように、アルバムと同じ順番で2曲が配置されたところもあれば、そうでなく、1曲が単体で歌われる箇所もあった。
そして、“ドラマみたいだ”や“真赤”“告白”や“フロムナウオン”“歓声をさがして”などの歴代の代表曲が、それらの間に演奏されていく。
一度目のアンコールの1曲目に披露された“愛着”は、このさいたまスーパーアリーナ2デイズの会場限定でCDが販売された新曲。というサプライズもあった。
が、その5曲の次に、同じく椎木のボーカルとギターだけで始まる“味方”を歌い終えたところで、椎木、「僕が曲を飛ばしました」。「びっくりしたー。ごめんごめん」と、山本大樹と山田淳に謝る椎木。「もう“結婚しようよ”でグッとなっててさ、このあと“味方”を歌えると思ったら楽しみでしょうがなくて。熱くなっちゃった」。山本大樹と山田淳、「マジでびっくりした!」などと、それに応える。というやりとりに続いて、椎木が話したことが、特に印象的だった。こんなふうに俺は、夢中になったり思い込んだりすることが得意で、こういう失敗も犯す。正直に言うと、俺は、音楽が向いているとは思えない。でも俺は、これが好きなの。あの頃聴いてた、日本のロックが好きだった。だから、諦めたくない。いや、「諦めたくない」は、かっこつけちゃったかも。諦められないんだよね。でもそれでよくない? ほかに向いてることがあったとしても、俺はこれがやりたいから、これを頑張ります──。
そんなような話だった。1月1日放送のテレビ東京『マジ歌選手権』で、東京03角田晃広&ASH&D大竹マネージャーが歌ったのが、「俺芸人向いてない」「僕マネージャー向いてない」「夢見て進んだその道が全然向いてない」「でもやめたくないんだ、向いてなくても」という歌で、爆笑しつつも妙にグッと来てしまったのを、思い出した。椎木が向いてないとはまったく思えない、というのはあるが。
ともあれ、というアクシデントを経て「頑張る人の歌を歌わせて」と始まった“あかり”は、そんなふうに一度飛ばされたことによって、却って聴き手に深く伝わる仕上がりになったように感じた。
ただ、歌い終わったあとに椎木が話した、今日会場入りしたら、イヤモニをホテルに忘れて来たことに気がついてパニックになった、でもスタッフもメンバーも落ち着き払っていて、飛び跳ねて慌てているのは自分だけだった──というエピソードを聞いて、椎木的には、そういう時の自分のことも、その「向いてない」に入っているのかな、と、思ったりもした。
サビ以外はすべて椎木の語り、だから年によって・ツアーによって、内容がまったく変わる。なので初期から存在する曲でありながら、椎木の最新の気持ちや最新の感情を乗せることができる曲である。
今日の椎木は「いろんなところが抜けてる、情けない恥ずかしい、でも俺は俺が好き、自分に酔ってると言われてもいい」とスタートを切り、畳みかけるように自己言及し、果ては目の前の他者にも言及して、最後にまた自己言及に戻る、というやり方で、聴く者を巻き込んでいった。
歌う前に椎木、「俺は本当の意味で赦されたいのかなって、さっき歌いながら思ったよ」で始まり、「最後に、全部ひっくるめて人生面白かったな、って思いたい。そんな一生思い出せるような1日に、今日がなりますように」で終わるMCをする。
“思い出をかけぬけて”を歌い終え、ツアーでの思い出を振り返るMC(椎木が泥酔して朝起きたら泥だらけだった話など)をはさんでからの、本編ラストは、“時代”“歓声をさがして”“アフターアワー”。「3曲あるんだけど、今夜ここにいる人のためだけに歌います」と言ってから、椎木は“時代”を歌い始めた。
それを椎木が締め、このツアーに関わったスタッフたちに感謝を伝えてから、先に書いた通り、前日とこの日に会場限定で発売された新曲“愛着”を、まず聴かせる。
それに応えて再々登場した3人は、“宿り”“夏が過ぎてく”“ペガサス”の3曲を、オーディエンスにプレゼントした。
点きっぱなしで白一色の照明の下、おそらくその場で曲を決めながら演奏される、小さなライブハウスそのままのような勢いに満ちた3人のパフォーマンスに、オーディエンスは大きな歓声を贈った。(兵庫慎司)
●セットリスト
「ファイヤーホームランツアー ファイナル」
2025.1.5 さいたまスーパーアリーナ(day2)
01. 一母八花
02. 鳩かもめ
03. ドラマみたいだ
04. 虜
05. 太陽
06. 星に願いを
07. 悲劇のヒロイン
08. 自由とヒステリー
09. 結婚しようよ
10. 味方
11. あかり
12. 真赤
13. 告白
14. ペガサス
15. ぶっこむ.com
16. フロムナウオン
17. 猫の耳
18. 白春夢
19. 思い出をかけぬけて
20. 時代
21. 歓声をさがして
22. アフターアワー
Encore
23. 愛着
24. 熱狂を終え
25. 噂
Double Encore
26. 宿り
27. 夏が過ぎてく
28. ベガサス
●ライブ情報
「シンパシーホームランツアー」
4/26(土) 栃木・栃木県総合文化センター メインホール
5/6(火・祝) 北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
5/8(木) 青森・SG GROUP ホールはちのへ(八戸市公会堂)
5/10(土) 山形・希望ホール(酒田市民会館)
5/25(日) 島根・島根県民会館 大ホール
5/27(火) 兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
6/6(金) 愛媛・今治市公会堂
6/8(日) 徳島・あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)
6/21(土) 石川・本多の森 北電ホール
6/26(木) 長崎・長崎市民会館 文化ホール
6/28(土) 宮崎・宮崎市民文化ホール
7/9(水) 大阪・オリックス劇場
7/10(木) 大阪・オリックス劇場
7/24(木) 東京・国際フォーラム ホールA
7/25(金) 東京・国際フォーラム ホールA
8/2(土) 岐阜・岐阜市民会館 大ホール
8/3(日) 岐阜・岐阜市民会館 大ホール
8/9(土) 新潟・上越文化会館 大ホール
8/10(日) 新潟・上越文化会館 大ホール