こちらとしては『ファンファーレと熱狂』の、世界と向き合う姿勢が格段にクリアになったandymoriのステージを見届けるつもりで来てしまったのだが、バンドとしてはそれほど肩肘張った風でもなく、ゆったりと“遠くへ行きたい”の染み渡る歌でツアー・ファイナルの幕を切って落とした。そして小山田壮平のクリスピーな速射砲ボーカルが弾けるアップ・テンポなナンバーの数々で、満場のオーディエンスに火を点ける。心と体が温まったところに満を持して“クレイジークレイマー”や“ずっとグルーピー”といった『ファンファーレと熱狂』の楽曲が投下されていった。新作収録曲のうち幾つかは昨年末からステージで披露されていたけれども、とにかく今回は小山田の歌がキレまくっている。
静謐で美しい曲、サイケデリックでドリーミーな曲、パンキッシュに疾走する曲と、andymoriの作風の引き出しの多さで抑揚をつけていくステージングもいい。藤原のモータウンなベース・ラインで始まる“ビューティフルセレブリティー”では、自然とオーディエンスもハンド・クラップで調子を取る。ほとんどMCらしいMCもないが、あっという間に10曲を越えてしまった。決して、演奏技術に秀でた3ピースではない。しかし、まるで小山田の言葉尻からロックンロールのすべてが始まってしまうような、そういう一本筋の通ったスタイルがandymoriにはある。それは、揺るぎないロックンロールとはむしろこういうものなのではないか、と思わされてしまうほどなのだ。
「恵比寿でやろうと思って。昨日作った曲を。」と小山田がステージ上で一人、弾き語りを始める。新作ツアーのファイナルなのに、アルバム未収の新曲をやってしまうのである。エレクトリックで「東京」をテーマにした一曲と、アコースティックで「渋谷」をテーマにした一曲。どちらも小山田らしい辛辣なメッセージが漂いながら、美しさの印象が強く残る素晴らしい曲であった。『ファンファーレと熱狂』の、個人的な好みで言えば《飼い馴らされてぶくぶくになった犬》を引く美しい女性に惹かれてしまう“ビューティフルセレブリティー”や、《人身事故》よりもそれによって《君に会えない》ことが重要な“オレンジトレイン”など、矛盾や理不尽さを踏み越えて具体的な愛情の形を手に入れてゆく小山田の歌は、とても眩しく、強い。ある意味においては傍若無人だが、完璧な共感を得てしまう。フォーキーな響きであろうが、バンドとして演奏が拙かろうが、ロック/ポップ・ミュージックとして突き抜けて優れている。小山田が一人で披露した新曲群にも、確かにそういう感触があった。
“僕が白人だったら”“僕がハクビシンだったら”“SAWASDEECLAP YOUR HANDS”といったアッパーな曲群を畳み掛けた後で、小山田が語る。「名古屋で、店長にハチミツを貰って。マライア・キャリーも愛用してるってやつ。喉にこう、ハチミツが這いずりまわってさ、今日、調子いいよ」。喉を痛めているそうだが、この時点ですでに20曲を歌っている。「みんなが今日、一番聴きたい歌を」と自信満々に”オレンジトレイン”を披露した後も、“ハッピーエンド”でファルセットを聴かせたりしつつ、本編ラストの“すごい速さで”までを駆け抜けてしまった。
そしてアンコールでは、3人のハーモニーが届けられる美曲“1984”に始まり、独特のリフ回しで聴かせるくるりの“ロックンロール”カバー、新しい旅立ちを告げるような『ファンファーレと熱狂』の最終トラック“グロリアス軽トラ”では歌詞を《恵比寿の空の下》と変えて歌っていた。ダブルアンコールでの本公演2度目となる“CITY LIGHTS”は、小山田が無言で突き上げたピース・サイ
ンと共にフロア一面のピース・サインが舞い、すべてが終わってみれば演奏曲は30曲を越えていた。『ファンファーレと熱狂』モードをとっくに終えて今のandymoriをすべて見せつけるような、もの凄
いステージであった。サービス精神が旺盛なのは結構だし(ちなみに、前回のリキッドルーム・ワンマンはDJやついいちろうのパフォーマンスを挟む二部構成ライブだった)、ハチミツの効力も絶大だったようだが、9月には大阪・なんばHatchと東京・日比谷野外大音楽堂でのワンマン決定も告知されたということで、頼むから喉は大事にしてくれ。(小池宏和)