2度と同じ映画が観られない、そんな革命的なブライアン・イーノのドキュメンタリー映画『Eno』が、とうとう日本で公開されることが決定した。予告編はこちら。
この映画については、以前もこちらで紹介したけど
https://rockinon.com/blog/nakamura/210195
『Eno』は、2024年のサンダンス映画祭でプレミア上映された。ギャリー・ハストウィット監督によるこの作品の最大の特徴は「同じ映画が2度と上映されない」ということ。アルゴリズムによりソフトウェアを監督とエンジニアが開発して、シーンをランダムに構成する、史上初の「ジェネレーティブ(生成型)」映画なのだ。
映画は500時間分もの映像素材があり、しかも公開が延長されるたびに、新たな映像も追加されていく。そこからコンピューターやAIが自動的にシーンを組み立て、上映ごとに異なる映画体験を生み出す。まさに前代未聞の試みなのだ。
〈日本版に向けて、『Brain One』を開発!〉
そんな革新的な仕組みゆえ、500時間分すべて日本語字幕を付けるのは不可能では? と思ったいたら監督からこんなメッセージが届いた。
「映画に複数のユニークな日本語字幕バージョンを作成するため、私たちは特別にジェネレーティブ・ソフトウェアシステム『Brain One』の日本版を開発しました。
これは非常に大きなプロジェクトでしたが、日本の皆さんに新たな『Eno』をお届けできるのが待ちきれません」とのこと。
つまり、あらかじめ一定の範囲で映像を絞り込んだということだと思う。いずれにしても、日本での上映期間中も、毎日違う『Eno』体験ができることには変わりない。
〈実際に観た感想〉
私もNYの劇場で観たけど、数分ごとにAIが新たなシーンをその場でシャッフルしながら進んでいくスタイルは、まるでサイコロを振っているようでもあり、またはガチャガチャを回すような感覚。次に何が出てくるのか分からないドキドキ感と、「他にどんな映像があるんだろう?」という好奇心が入り交じり、結局劇場では3回、さらにストリーミングでも3回観てしまった。
気づいたことは、映画の始まりと終わりにはある程度の流れが設計されていること。監督のQ&Aでも、「なんとなく始まりと終わりがあるように設計している」と語っていた。
また、このどんな映像が続くのか分からないという映画の形式自体が、イーノ自身がこの映画の中でも語っている、音楽についてのテーマ、偶然性や予期せぬ展開の魅力とも見事に重なっている。
さらにもう1つ、共通して登場するシーンがある。それは、イーノが作成した「オブリーク・ストラテジーズ」のカードを誰かが引くシーン。めくる人も、引き当てるカードの内容も毎回異なり、こちらも密かな楽しみのポイントになっている。
もちろん、ドキュメタリーそのものも圧倒的に面白い。
若き日のイーノの貴重な映像、デヴィット・ボウイやU2とのレコーディング風景などがふんだんに登場。また、私が観た時は、時々しか出てこなくてだから何度も観に行ってしまった+超貴重なのは、ロキシー・ミュージック時代の映像だ。
さらに、イーノは非常にシンプルな言葉で深い哲学を語る。
「人はなぜ音楽に惹かれるのか?」などの問いに、思わずメモを取りたくなるような言葉で答えていくのだ。
〈イーノ自身が語っていたこと〉
上のサイトでも掲載したけど、イーノは、サンダンス映画祭でこんな風に語っていた。
「今ちょうど、ヒップホップ・プロデューサーJ. Dillaについて、Dan Charnasが書いた伝記『Dilla Time』を読んでいたんだ。すごくよくできた本なんだけど、やはり本って、限界があるんだよね。例えば、どうしても1つの時系列に沿って話を進めていかなくちゃいけないとか。
でもこの映画は、そうじゃない。
映画の題材はもちろん僕自身だけど(笑)、観るたびに違う角度からそれを体験できるんだ。それって、実際の記憶とすごく似ている気がする。僕たちは生きている間、ずっと自分の記憶を整理し直している。過去って、1つのものじゃなくて、何度も何度も、少しずつ変わっていくものだと思う。例えば、昔はそんな大事に思えなかったことが、時間が経つとすごく重要に感じられたり、逆にすごく大事だと思っていたことが、だんだんどうでもよくなったりもする。
だから、伝記映画って考えた時に、この『Eno』はすごくオリジナルだし、しかも本当にパワフルな作品になったと思うんだ」
〈日本上映について〉
日本の上映に関する情報はこちら。
https://enofilm.jp/
【プレミアイベント】
6月21日(土)東京にて開催(上映+監督トーク)
【通常上映】
7月11日〜17日(東京)
【上映パターンについて】
プレミアイベント2回はそれぞれ内容が違う。
7月11日以降は1日2回上映だが、同じ日の上映内容は同一。
つまり東京では合計9パターン(プレミア2種+通常7日間)上映される。
【名古屋、大阪】
それぞれ2回上映(東京プレミアの2パターンと同内容)
この世界初の映画体験を絶対にお観逃しなく。というより、できれば何度でも観ることをお勧めする。