たどり着いた自分だけの場所――パフューム・ジーニアス、「栄光」を冠した新作が完成


パフューム・ジーニアスことマイク・ハドレアスの表現はかつて、痛ましさを含んだ生々しいセルフポートレイトだった。ゲイとしてのセクシュアリティの葛藤、家庭内の不和、虐待、依存、自身の身体に対する嫌悪。そうしたヘヴィなモチーフを赤裸々に並べたバラードは、それが彼の内側から絞り出した真実であったがゆえに、聴き手ひとりひとりの胸を衝くものであった。壊れそうな歌が、それでも世界に向けて懸命に放たれていたのだ。

だがそれ以上に感動的だったのは、マイクが作品を重ねるなかで世界に対して自身を解き放っていったことだ。それはテーマもさることながら、何よりもサウンドをビルドアップすることで実現されることとなった。展開はダイナミックに、アレンジは華麗に、歌は力強く。とくに3作目『Too Bright』(2014年)以降のミュージシャンとしての飛躍には目を見張るものがあり、クィアアンセムと称された美麗なポップソング“Queen”に代表されるマイクの自己受容の過程は、多くのクィアの聴き手を鼓舞するものだった。いや、クィアだけではない。パフューム・ジーニアスの歌はあらゆる傷つきやすい心に向けて、優しいシンパシーとたしかな勇気を届けるものに成長したのだ。

3月28日のリリースがアナウンスされた7作目『Glory』は、まさにその続きでさらなる飛翔を見せる一枚だ。共同作業を続けてきたプロデューサーのブレイク・ミルズだけでなく、独自の美学を追求するニュージーランドのシンガーソングライターであるオルダス・ハーディングらコラボレーターとの共同作業を通して、もっとも他者に開かれた作品に仕上がっている。アンサンブルとメロディの開放感が見事に連動する“It's a Mirror”をはじめ、多彩なアレンジがそのまま豊かなエモーションと結びつく楽曲が並ぶ。美しく、パワフルなアルバムだ。

マイク自身が「もっとも率直な告白」だという『Glory』には、もちろん痛みや傷も刻まれている。それでもこのアルバムを、彼は「栄光」だと名づけた。そこにこめられた想いは何なのか、新たな名作の核心を引き続き探求したい。(木津毅)


パフューム・ジーニアスの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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