ジャンル、世代、国籍のすべてがボーダーレスに 交差したサマーソニック2025 その全貌を完全レポート


現在発売中のロッキング・オン10月号では、サマーソニック2025の現場レポートを掲載!
以下、本レポートの冒頭部分より。



ソニックマニア新章ヘ――ブレイクピーツの伝説プロデイジ一、テクノの化身フローティング・ポインツが加速させたエレクトロの疾走

文=伏見瞬

海浜幕張駅から歩いて、年始のrockin’on sonic以来の、久々の幕張メッセ。荷物を入り口右のロッカーにしまい、コモンのステージへと向かう。ヒップホップの歴史を、映像演出と自らのステージングで体現していくような、そんなライブ。痛みを多く含んだ自らの内面をみせつつ、リラックスしたパーティ感も同時に感じさせる。札幌の雄、THA BLUE HERBのライブとも近い感触のある、芯の通ったパフォーマンスに信頼の念を覚えた。

マウンテンステージでPerfumeのパフォーマンスをみて、すでにキャリアの長くなった彼女たちの安定感に凄みを覚える。音はソニックステージよりマウンテンステージの方が良く出ているかな? そんな感触を抱いたのは、その後に2hollisのライブをソニックステージで観たからか。長い金髪を振り回しながら叫びラップするホリス・フレイジャー・ハーンドンの姿は多分に魅力的なのだが、音がどうにも薄い。アンダーワールド、ジャスティス、スクリレックスなど、ダンスミュージックの先人達からの影響を示したサウンドも不完全燃焼。提示したいイメージと実際の出力の間に隙間がある印象。期待していた分、肩すかしを喰らった感じは否めない。とはいえ、映像表現にも楽曲にも力はあるので、別のタイミングで改めてパフォーマンスを観たいと思う。

2hollisの途中でマウンテンへ移動。電気グルーヴ。やはり音の出方が違う。ぶっといサウンドに自然と体が動く。これは会場の音の良さだけでなく、本人達の鍛錬と工夫の賜物であるはず。電気グルーヴのライブは毎回音がアップデートされていて、“Shangri-La”など往年の楽曲のビートも現代的なマッシブなものに変わっている。VJではAI技術が導入されていて、石野卓球とピエール瀧の顔がリアルタイムで複数の絵柄のキャラクターに変わる。この映像処理によってドラッギーな感覚がもたらされ、音の力をさらに倍加させる。更新を続けられるから、彼等は今も現役感を持って存在しているのだろう。まりんを含む5人でのステージ。健在を思い切りアピールしていた。

そして、フローティング・ポインツ。ソニックは音が小さいかもと思っていたが、とにかく別格だった。音の粒の細かさ、繊細さが段違い。なおかつキックもハットもはっきりとした存在感がある。電子音楽に関する叡知が存分に発揮されたサウンドで、ミニマムな四つ打ちが展開される。それだけで、言い知れぬ心地よさが訪れる。2024年のアルバム『Cascade』の楽曲を中心にしたセットには、物語もなければ、言語で表せるような意味もない。映像も音もひたすら抽象的。意味合いを欠いた音の流れだけで、力強い表現たろうとする。音楽の形式の力で他の表現分野にはできないことを実現する。原理的な形式にこだわる点において正しく「モダン」なダンスミュージック。

宇多田ヒカルが登場して会場を沸かせた“Somewhere Near Marseilles —マルセイユ辺りー”に関しても、重なっていくシンセやパーカッションの音の一つ一つが異様に心地よい。リラックスして歌い踊る宇多田ヒカルの姿と相まって、比喩ではなく本当に夢の中にいるような錯覚に陥った。その後の“Key103”や“Afflecks Palace”でもモジュラーシンセを活かした音の変化、潮流や砂粒を想起させる中山晃子の映像の変化が絡まって、多層的な魅力が持続する。大げさな表現だが、音色そのものに込められた力を具現化したという意味において、ソニックマニアの歴史的名演にふさわしいパフォーマンスだった。まるで音楽と出会い直すようなライブだった。

フローティング・ポインツのライブによってゾーンに入った感の私は、しばらく無敵状態。MFSによる、ドラムンベースのリズムの上で連なるラップによってさらなる心地よさを味わい、途中で食べたご飯もやたらうまい。そして、ザ・プロディジーの轟音ライブを大いに楽しむ。とにかく、今夜のアクトの中でも圧倒的に音がデカい(付言すれば、その後のサマーソニックと合わせても一番デカかった)。1990年代にセールスと人気において頂点を迎え、2019年にはカルトヒーローとして知られるフロントマン、キース・フリントを亡くしてしまった彼ら。しかし今回のライブはトラップやレイジのファンにも、ヘヴィロックやパンクロックのファンにも、EDMやドラムンベースのファンにも刺さる暴力的なサウンドを展開している。現役感バリバリ。ビームの量も凄く、“ファイアスターター”も“スマック・マイ・ビッチ・アップ”も今の表現として響いてくる。暴力的すぎて後半はさすがに耳が疲れてしまったが(耳栓をしてちょうど良かった)、再びの上昇を迎えたプロディジーの熱演には胸が熱くなった。

(以下、本誌記事へ続く)



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