現在発売中のロッキング・オン10月号では、フジロックフェスティバルの現場レポートを掲載!
以下、本レポートの冒頭部分より。
ヨーロッパ、アジア、さらにはアフリカまで、世界中の最注目アクトで幕を開ける! そして、フレッド・アゲインの「アンビエント」サウンドが静かに爆発
文=伏見瞬
若干の寝不足のまま越後湯沢行きの新幹線に乗る。晴れている。越後湯沢駅で友人と合流し、友人の車で苗場スキー場まで向かう。車の中では、フレッド・アゲインやザ・ハイヴスの曲が流れている。
会場近くの宿に着き、すぐに準備する。スーツケースをおき、日焼け止めを塗りなおす。10時の苗場はすでに十分暑い。11時ちょうどにグリーンステージに着く。フィンランド出身のロックンロールバンド、アスが快活な音を鳴らしている。音の分離がよく、特にドラムが心地よい。〝Black Sheep〟、〝Snowball Season〟と、ハーモニカの響くガレージロックが小気味よく連なっていく。今年5月に渋谷クラブクアトロで観たライブも熱がこもっていてよかったが、今回は音の気持ちよさが伝わってくる。フジロックの音響のよさを、1年ぶりに確認する。
最初のご飯はオアシスで。グリーンカレーを食べる。レッドマーキーでkurayamisaka、ホワイトステージでおとぼけビ〜バ〜、フィールドオブヘヴンでKIRINJIを少しずつ観る。自分のペースで、通りすがりで質の高いライブを観られるのが、フジのいいところだと思う。遅い昼食を食べて、木陰で持ち運び椅子に座りながら少し休む。まだまだ暑さの残る夕方のホワイトでエムドゥ・モクターを観る。ニジェール共和国出身の4人編成バンドは、全員が大きめのストールを羽織り、乾いた砂に少しだけ水を混ぜたような、粘り気のある演奏を示す。ドラムスがつんのめりながらビートを転がし、ベースとギターがミニマルなフレーズを繰り返す中、エムドゥ・モクター(Vo/G)の「砂漠のジミヘン」とも評される左利きギターから独特の音階のソロが流れていく。その音階自体が、呪文のような気配を纏っている。
グリーンステージで17時から、HYUKOHとSunset Rollercoasterのコラボレーションプロジェクト「AAA」を観る。韓国と台湾のバンドによるコラボレーションは、2バンドのメンバー全員が一緒に演奏するスタイル。ドラムも2台なら、ベースも2人。しかし、演奏はタイト。ドビュッシーやビートルズの引用らしきフレーズを用いつつ、不思議なフィーリングを伝える。そのフィーリングは、アンビエント的なたゆたいとロック的な熱量が同時に発生する、かつて感じたことのない類のものだ。脳みそや怪物の被り物を頭にのせるユーモアと、不機嫌な表情で歌い上げる怒りの感覚が同居する。シンプルなギターリフと多幸的な電子音にのせて《僕らは若者、永遠のお恵みを》と高らかに合唱する〝Young Man〟の、侘しい美しさ。少しずつ日が落ちるなかで観た彼らのステージは、今回のフジで最も印象に残ったものの1つだ。
レッドマーキーに移り、パフューム・ジーニアスを観る。青を強調した色彩演出とヘヴィサイケな音が特徴で、サステインを活かしたギターの音と、綿飴のような青い布と戯れるマイク・ハドレアスの姿が頭に残っている。次のティコは、清涼感漂うダンスミュージックをバンド編成で聞かせる。レッドマーキーの外に出ると、あたりはすっかり暗くなっている。
その後、グリーンで友人に会い、談笑しながらフレッド・アゲインの出番を待つ。と思いきや、機材トラブルで大幅に出番が遅れるとの情報が入り、サッとホワイトへ移動。ホワイトステージのトリ、再出発したSuchmosを観る。1曲目は映像なしでゆったりとした曲から入り、2曲目の新曲”Eye to Eye”が始まるとともに映像が入り、モヒカンヘアーに髪をそろえたYONCE(Vo)が映る。この時間差の演出がかっこいい。どの曲もテンポの上げ下げが激しく、とにかくタイム感がゆれるゆれる。新しいグルーヴを獲得しようとする意気込みが伝わってくる。強烈な反骨気質に基づくYONCEのユーモアも相変わらずで、この精神のまま変わらずに、アーティストとしてのキャリアを突き抜けてほしいと願った。
そして、結局2時間近く遅れて22時45分にスタートしたフレッド・アゲイン。機材を操るフレデリック・ギブソンがモニターに映り、そこに彼が発したメッセージが英語と日本語で映される。ピアノやサンプルボーカルがメロディアスなフレーズを繰り返し、その中で四つ打ちのビートが持続する。〝Kyle(i found you)〟、〝places to be〟、〝adore u〟といった楽曲はダンスミュージックの様式を持ちながら、観客それぞれに配慮する優しさの気配を漂わせる。会場は大きく、人はたくさんいる。けれども、全体で大いに盛り上がるというより、親密な空間を作っているような印象がある。2017年のグリーンステージで観たThe xxのライブもそうだった。親密な空気のまま、スケールを広げている。ベッドルームで作られるポップミュージックの、1つの理想形態ではないかと考える。フレデリックのメンターでもあるブライアン・イーノのアンビエント概念を、より大きな会場向けに再構築したような時空間だと思う。
(以下、本誌記事へ続く)
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