ボブ・ディランの作品世界をどこまでもわからせてくれる、ラブ・ソング集『フィール・マイ・ラヴ』を聴いて


2月1日に公開される映画『七つの会議』の主題歌に起用されたボブ・ディランの“Make You Feel My Love”だが、この機会にボブの傑出したラブ・ソングを揃えた日本独自企画のコンピレーション『フィール・マイ・ラヴ』がリリースされた。

たとえば、“Make You Feel My Love”はボブの現在の活動まで繋がる1997年の大復活作『タイム・アウト・オブ・マインド』に収録されたバラードだ。この曲の歌詞は「きみにぼくの愛を感じてもらうためならどんなことだってやってみせる」という、言葉だけみていくとどこまでも献身的で情熱的なラブ・ソングのように思える。

しかし、『タイム・アウト・オブ・マインド』は全体的に愛や人生についての諦めや苦悩を綴ったアルバムになっていて、その文脈の中で聴くと、まるで曲のテーマが変わってしまうのだ。つまり、すでに失われた愛をどんなことをしてでも取り戻したいという、絶望的なまでの渇望として響く曲になっており、いかようにでも意味合いが成り立つ、ボブの曲作りの凄味をみせつける作品になっているのだ。



今回のコンピレーションは、そんなボブが手がけたラブ・ソングの数々が収録されており、ふと脳裏に過ぎる別れた相手への思いを綴る1964年の“Mama, You've Been On My Mind”から、2009年のサントラ曲“From Here Lies Nothin’”までと、キャリアを万遍なくなぞるものにもなっている。特に見過されがちなカントリーに傾倒した60年代末の名曲群もよく映える選曲で、普段のしゃがれたボーカルとはまるで違う、伸びのある低音を聴かせる“Lay Lady Lay”や“Girl from the North Country”などは、この流れだとどこまでもその魅力を堪能できるように思う。


また、「ブートレグ・シリーズ」に収録されたバージョンの“Born In Time”も、ボブの本来の意図に沿った素晴らしい音源なので嬉しいところだし、この曲のたゆたうような調べとともに綴られる「ぼくたちが一緒に生まれたその場所に」という不思議な関係と、そのつかみどころのなさはどこまでも想像力をそそるもので、ボブの作品世界の真骨頂ともいえるものだ。

ブルース演奏とともに相手との一蓮托生の心境を歌い上げる“From Here Lies Nothin’”、そして40年代のポピュラー・スタンダード曲風の響きとともに相手への揺るぎない絆を歌う“When the Deal Goes Down”と続く終盤の流れは、まさに現在のボブの活動の様相をわかりやすく伝える内容になっており、彼のキャリアを端的に抽出した、本当に的を得た選曲になっている。企画盤でありながら、ボブの表現の本質に迫る、素晴らしいコンピレーションだ。(高見展)



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