ビリー・アイリッシュ、『Mステ SUPER LIVE』でLAの自宅のソファから超自然体のパフォーマンス! その「胸に迫りくるリアル」は、コロナの1年を生きた私たちへの至高のプレゼントになった


日本のファンにとって最高の、そしてちょっとシュールなクリスマス・プレゼントになったのが、ビリー・アイリッシュの『ミュージックステーション ウルトラ SUPER LIVE 2020』出演だった。

今年も6時間以上にわたって60組以上のアーティストが出演した『MステSUPER LIVE』は年末恒例の音楽特番であり、この番組が始まると、ああもう1年も終わりだなあ……としみじみしてしまう日本の風物詩的イベントでもあって、そんな超ドメスティックなお茶の間ノリの番組で果たしてビリーはどんなパフォーマンスを見せてくれるのか全く予想がつかなったのだけれど、蓋を開けてみればビリーがどこまでもビリーらしく、クリスマスの茶の間を魅了した数分間になった。

もちろん『Mステ』自体は海外アーティストの出演は珍しくないし、年末の『MステSUPER LIVE』も震災の年にレディー・ガガが出演して感動的なパフォーマンスを見せてくれたのを覚えている方も多いはず。

ただし、新型コロナ・ウィルスに見舞われた今年は例年とは全く異なる無観客&NO密が徹底された番組構成で、ビリーももちろんLAからのリモート出演だ。

夕方5時から始まった同番組の中で、ビリーの出演予定は3時間後の8時台という長丁場。
無観客のコロナ・シフトとはいえ、クリスマスに合わせてどのアーティストも華やかで凝ったセットや衣装でパフォーマンスを繰り広げている。そんなお祭りムードの年末特番に、ビリーは一体どんなモードで登場するのか。
彼女にとって初の日本の歌番組出演、それでなくてもシュールなパフォーマンスになりがちな海外アーティストのMステだが、「コロナ・年末SP・リモート」と異例づくしの今回はさらに読めない。

『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』(2019)ジャケット写真

8時を過ぎ、Kinki KidsV6のパフォーマンスからCMを挟んで、いよいよビリーの出番がやってくる。

冒頭でいきなり8歳の彼女がギターを弾いている映像が流れるあたりがMステっぽいフォローで、そこからグラミー受賞の話や“Therefore I Am”までうまくコンパクトにまとまった紹介映像だ。

ビリーとフィニアスは、LAの自宅の部屋のソファに並んで座っていて、むちゃくちゃ素!!

直前までのキラキラしたステージとのギャップがすごいことになっているが、2人はすごくリラックスしていて「ハローJAPAN&タモリサン、コンバンハ!ビリー・アイリッシュです」と日本語で挨拶。
「タモリサン、自分自身のことを“Bad Guy”だと思った瞬間を教えてください」と訊かれたタモリが、「いやいっぱいあるな俺…」と言いつつ赤面するなんていう微笑ましい一コマも。今回のリモートは事前収録で、スタジオ・トークのぎこちない間が生じなかったのも結果オーライだ。

スタジオ・ジブリやセーラームーンをはじめ、日本のアニメや漫画好きとしても知られるビリーは、この日もこめかみに銃を突きつけた女の子(twitterでは「『ペルソナ3』の岳羽ゆかりでは?」と話題に)が描かれた物騒でキュートなアニメ・シャツを着ていて、日本をさらっとオマージュしているのがニクい。

曲は“Bad Guy”で、フィニアスのアコギ1本でのシンプルなセットだ。
小さく咳払いしておもむろに歌い出したビリーは全く気負わず、気ままにフェイクを効かせてみたり、思いついたようにハンドクラップしてみたり、かと思えば兄と寄り添うような美しいハモりを響かせてみたりと自由自在で、表情もくるくると変わる。おどけた表情で唇を鳴らしての「Duh!」も最高だ。

その生き生きとした、伸び伸びとした姿がとにかく愛おしかったし、あぐらをかいて鼻歌でもしているような自然体に、ビリーと“Bad Guy”という曲の本質が全部入っていると確信できるパフォーマンスだった。

そして何よりも、そこにあったのは、胸に迫りくるリアルだった。

「ビリー・アイリッシュ」が一気にトレンドに躍り出るなど、Twitter実況も大盛り上がりだったが、LAのビリー&フィニアスの自宅と日本のファンの自宅がひととき繋がるパーソナルな感覚が確かにあったし、それが『MステSUPER LIVE』という究極の一般性を介して行われたのは画期的だったと思う。

日本の何処かでやっている無観客ステージ以上に、はるか遠い異国の小さな部屋のソファで歌う彼女のほうが近くに感じる、貴重なお茶の間体験だった。

それを可能にしたものは何よりもビリーの歌と歌声の訴求力なのだが、もう一つ可能にしたものは、日常が非日常化した2020年、「繋がり」や「距離」の意味が激変したコロナの年を生きた私たち自身の感性だったのかもしれない。(粉川しの)



『ロッキング・オン』最新号のご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。


『rockin'on』2021年1月号
rockinon.com洋楽ブログの最新記事