ほぼ情報がない状態で、急遽リリースされたトゥー・ドア・シネマ・クラブの7曲入りEP。とは言え、今作は新作ではなく、バンド初期の未発表曲やBサイド曲を集めた、いわゆるレア曲集である。まず、とにかくみずみずしい! 昨年リリースされた4thアルバム『フォールス・アラーム』までアップデートを繰り返してきて、今や風格さえ感じられるようになった彼らの原点を思い出すことができる。しかし彼らは、今作が懐かしさ以上の意味を含んでいるからこそ、リリースを決めたのだろう。
インディ・ロック、エレクトロ・ポップの新鋭として颯爽と現れ、2010年リリースのデビュー・アルバム『ツーリスト・ヒストリー』はプラチナ・セールスを記録。今作は、その時期の楽曲で構成されており、“Something Good Can Work”のオリジナル・デモも収録されている。「キツネ」に夢中になった世代としては、デモならではの質感と、デモを超越したセンスに、キュンキュンしながら聴いていたのだが……ふと考えてみると、「キツネ」から飛躍して、現在までサバイブしているバンドって、本当に少なくないか? そんな「TDCCの今が何故あるのか」というところも、今作からは見えるのだ。それは「ポップ」から軸足をぶらさない姿勢。ギター・バンドの概念さえも変わった時代の中で、小さなライブハウスからアリーナに至るまで、彼らの姿勢は変わらなかった。その静かな凄みが伝わってくる。
未発表曲としては“Tiptoes”を収録。『ツーリスト・ヒストリー』でフィーチャーされる予定だった楽曲のようだが、それが頷けるくらい、ライブ映え必至のキャッチーさを誇っている。この楽曲のみならず、全体を通して家でも踊れる軽やかさがある。つまり、今の生活にもぴったりな一枚なのだ。 (高橋美穂)
詳細はBIG NOTHINGの公式サイトよりご確認ください。
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。