今年、リリースから10年を迎えた1stアルバム『アストロ・コースト』が再発され、時を経ても色あせない│それどころか今なお新しさにワクワクし、同時に甘美なほど感傷的な気分も味わわせる、音楽が持つマジカルな魅力に気づかせたサーファー・ブラッド。ベスト・コーストやガールズなど、2010年はサーフ・ロックの香り漂うバンドが作品をリリースしたが、サーファー・ブラッドはそのなかでもビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』の魅力とジャングリーなインディ・ロックがせめぎ合った、まばゆいエネルギーを迸らせていた。そこからレーベルの移籍やメンバー・チェンジ、オリジナル・メンバーを病で亡くす経験もしたバンドは、再び拠点をフロリダに移し、5作目となるこの『ケアフリー・シアター』を、1stアルバムを発表した古巣KANINE RECORDSからリリースする。タイトルは実際にある会場で、フロントマンのジョン・ポール・ピッツが子ども時代から音楽やバンドに触れ、多くの時間を過ごした場所。今作はそんな、美しい思い出やルーツ、心突き動かされることを磨き上げて、真空パックしたようなアルバムになっている。
“Karen”など、ジャカジャカとコードをかき鳴らすブライトなバンド・サウンドと爽やかなコーラスが、メロディに染みる切なさを際立たせる曲が並ぶ。彼らのルーツとなる90年代インディ・ロックが色濃く反映され(ブリーダーズ等をカバーした17年の『Covers』も併せて聴きたい)、無邪気さと円熟のふたつのタッチで、心を撫でる。次々と新しい、でもどこか馴染みあるフレンドリーな曲が飛び出してくるワクワク感は、あの1stアルバムのフレッシュな勢いを思い起こさせてくれる。また愛すべき宝物が増えた、そんなアルバムだ。 (吉羽さおり)
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