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日本の9月が夏なのはもう当たり前で、2023年は11月でも半袖で過ごせる日が続いた。と思えば急に冷え込んで世の中はあっという間に冬支度。いつから秋という季節は、小さいままで見つけられなくなってしまったのだろう。だが我々には、夏よりも高く澄んだ青空や、静かに輝く月に自分の感傷を重ねて思考に浸る時間が必要なのだ。今作のコンセプトは「秋」。和風のメロディと細やかな情景描写で恋心を描く“月が綺麗ですね”のようにこの季節特有の旨味を引き出すだけでなく、結婚行進曲のメロディをサビに用いた“Wedding Wish”や《まっさらな旅に出よう》と呼びかける“空っぽ”では新しいスタートを描く。思い返せば、いつも「時は過ぎ去るものである」と痛烈なまでに、だけど優しく教えてくれるのは、切なさと心地よさを含んだ秋の風だ。この先の自分はどんな日々を過ごすのだろう――まっすぐ突き抜ける彼女の歌声は、風に乗って新しい季節を迎えに行くように凛としていて、隅々まで潔い。(沖さやこ)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年1月号より抜粋)
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