2021年4月に結成、初めて世に出した楽曲“Cynical City”が話題を呼び、瞬く間に注目のニューカマーとなった4人組・新東京。さまざまな音楽を混ぜ合わせて生まれるユニークなサウンドと、ボーカル・杉田春音が書く歌詞が醸し出すアーティスティックでどこか陰鬱なムード。その世界観はすでに高い完成度を誇っている。音楽のみならずミュージックビデオやアートワークもすべて自分たちで作り上げるクリエイティビティ、全員大学生でありながら休学してバンドに懸けるその情熱、バンドを会社組織化して運営するというビジョン。すべてがこれまでのバンド像とはまったく違う感性と思考で形作られている新東京とは何者なのか? メンバー全員インタビューでその正体に迫る。
インタビュー=小川智宏
楽曲を作る時は、最初にテーマを話し合うんです(田中)
――結成が2021年の4月ということで、ちょうど1年になるんですが。バンドを始めてから今までの変化とか、成長とか、そういう部分についてはどう感じていますか?⽥中利幸(Key) むしろ成長しないようにしてますね。やっぱり、こう(視野が狭く)なりすぎちゃうと、どんどん人に理解されない音楽になっちゃいそうだから、いろんな音楽を聴きつつ、殻に入り込まないようにはしてます。
――杉田くんはこのバンドを始めてから歌詞を書くようになったんですよね。もともと言葉に対する興味はあったんですか?
杉⽥春⾳(Vo) 文章の構成とか、作文とかは好きで。高校生の時に作文コンクールで優秀賞をもらって、なんか日本の代表として台湾に行ったりしたんです。
――え、すごい。作文の日本代表?
杉田 わかんないけど、日本と台湾の友好プロジェクトみたいなやつに選ばれて、台湾総統と対談したり、みたいな。だから文章を書くのは得意だったんですけど、そういう芸術的な言葉遣いとか、言葉選びみたいなものは全然、経験してこなくて。で、新東京を結成した時に初めて書いてよって言われて。最初は結構「いや、こんなんじゃない」とか言われたりしたけど、だんだん確立されてきたかな。
――“Cynical City”はわりと歌詞っぽい歌詞だと思うんですよ。でも最近の、“濡溶”とかはもはや詩じゃないですか。
杉田 そうですね。ちょっとやりすぎちゃいました(笑)。
――今回のEP『新東京 #2』に入っている曲たちを聴いても、明らかに歌詞の表現力が広がっている感じがするんですよね。
杉田 “Cynical City”を作った時は、最初に「Cynical City」っていう単語が決まっていて。それを軸として歌詞を構築するっていうテーマがあったんです。1曲目だし結構歌詞っぽくなったんですけど、“濡溶”はメロディと言葉を融合させた時に、言葉数とか音とかの制約をとっぱらったほうが伝わるケースもあるなと思って。それを1回実験的にやってみたくて、朗読と曲を融合させるみたいな提案をしたら、メンバーが受け入れてくれたんです。
――曲ができるプロセスは、言葉と音、どっちが先とかはあるんですか?
田中 楽曲を作る時は、最初にテーマを話し合うんです。それで次はこういう方向性で行くよっていうのを春音に共有しながら、歌詞のアイディアをたくさんもらって。そこからメロディを作っていって……サビのメロディとかが先に決まっている場合もありますけど。で、1番と2番でメロディが同じだったりする場合は、最初の歌詞につけたメロディに合わせて2番の歌詞を書いていくっていう。
杉田 だから一応歌詞先行ではあるんですけど、そこからブラッシュアップしていく過程があるんですよね。
――アレンジはどういうふうにできていくんですか?
田中 アレンジは基本的に僕と(保田)優真でやっている感じですね。まずメロディとコードと同時進行でドラムはこんな感じっていうのを優真に伝えて。で、優真がPCで作ったものを送ってもらって、それを編集していくっていう。ベースは基本的に僕が作ってるんですけど、ソロとか、曲によっては彼(大倉)が作ってくれたりとか。
⼤倉倫太郎(B) (頷く)
――じゃあそこでもそれぞれの感覚とかイメージと逐一擦り合わせながら、溶け合わせながら作っていってるんですね。バンドとしてのテーマがすごくはっきりしていて、歌詞もサウンドも一人称の主観だけじゃない感じがして。常にこの4人でのバランス感の中で曲ができていってるというか。
田中 うん。そうですね。
大体同じ人間が4人、見た目がちょっと違うだけで全部一緒ですね(杉田)
――なるほど。この4人って、ものの見方というか、たとえば何かニュースに触れた時に感じることとか、そういう部分は似通っていると思いますか?
杉田 なんかその、友達がいないから(笑)。4人でしか基本的にいないんですよ。下手したら週7とかで会っていることもあって。オフでも一緒に遊びに行くし、そうなると使う言葉とか、考え方、思想が一体化してきちゃうんですよ。大体同じ人間が4人、見た目がちょっと違うだけで全部一緒ですね。
大倉 僕だけちょっと髪が短いぐらい、ですね。
――(笑)。それはだんだん似てきたってこと?
杉田 だんだん似てきたよね、俺ら。
大倉 中身まで似てきてるの? マジで? 非常に危険な状態だ、それは(笑)。
田中 4人でしか話さないから、どんどん会話の仕方とかが変な方向にガラパゴス化しているっていう。今ギリギリ、外部の人間と話せてるんですけど。
保⽥優真(Dr) そろそろ怪しい。
田中 そうそう。
――友達がいないって言っていましたけど、それは望んでそうなっているところもあるんですか?
田中 時間がない、友達を作る。バンドを始める前は結構いたんですけどね。本気でぶつかったらこうなるじゃないですか。音楽活動を始めてから出会う人も変な人ばっかりなので。おかしい感じに刺激を受けながら奇妙になっていってる。
――なるほど。新東京の音楽を聴いていると、ポップだしキャッチーな曲たちだと思うんですけども、同時にすごくいびつだなっていう感じもして。こんなに音符刻む必要ある?とか、不協和音ギリギリみたいな重なりがあったりとか。絶妙なアンバランスさ、不安定さがありますよね。
田中 キャッチーなだけだと……キャッチーと耳に残るって違うものだと思うんです。キャッチーって別に誰でも作れるんですよ。使い古されたメロディ、普通のコード進行を使えば。でもそれだと耳に残らない。他と違う部分がなきゃいけない。それにはコード進行なりメロディなり編曲なりで、他と違う部分を意識的に入れて。その独特さとキャッチーさがあればいいなって。そこをできるだけ融合させて作っています。
――精神的な部分でも、たとえば世の中の流行とか、メインストリームになっているものに対して、ちょっと外側から見ているような感覚がある感じもしているんですが。
田中 そうですね。もちろんメインストリームにある音楽にはその理由があるし、いろんな良さがあるとは思うんですけど、ただそれじゃつまらないっていう意識がやっぱあって。いろんなことを実験的にやりつつ、でも自分たちはメインストリームのリスナーにも聴かれるようになればいいなと思ってます。
世間から見たら、自分たちがやってることってマイノリティだと思うんです。でも自分たちはそこをオアシスだと感じている(杉田)
――“Metro”で、原宿だと思うんですけど、東京の風景を描いていますよね。杉田 お、そうです。なんでわかったんですか?
――まあ、よく行くので(笑)。でもそこにいるわけじゃなくて、そこから逃げるように《ビードロの扉を開けたら》って歌う。嫌なんでしょうね、そこにいるのが。
杉田 ああ、そうですね……どうだろう。あんまり深く考えすぎてはいないと思っていて、踊りに行くっていうことなんですけど、喧噪みたいなものから逃げて、その人のオアシスに逃げ込むような。そういう空気感。後付けかもしれないですけど、それこそここで言ってる《音楽》っていうのは、メインストリームに流れている音楽とは真逆の場所にある。世間から見たら、自分たちがやってることってマイノリティだと思うんです。でも自分たちはそこをオアシスだと感じている。皮肉じゃないですけど、そういうのはちょっとあったりしますね。
――新東京の音楽はまさにそっち側なんですよね。だけど、そこからいろいろな人に聴かれるというところを目指す。バンドをやるというのも同じような意味がある? つまり、大学を休学してバンドに打ち込むとか、その選択にはある種の逃避みたいな部分もある?
杉田 ああ。でも実際、みんな大学辞めたがってる(笑)。ラジオとかで言って、毎回親に怒られるんですけど。辞めたいね。でも意外と堅実なんですよ、みんな。
――保田さんも大学辞めたいですか?
保田 俺は卒業します。
杉田 はははは!
大倉 僕はもう辞めたいですね(笑)。
杉田 いちばん辞めたがってる。
大倉 勉強が嫌いなんで。なんで大学行っちゃったのかもわかんないし、辞められるならもう明日にでもっていう。だから逆に、バンドがどうにかなってくれないと、僕の人生がどうにかなっちゃう。どっちかなんで。お願いしますっていう感じです。
杉田 でも正直、絶対いけると思って休学していますからね。不安要素があったらしてないメンバーなんですよ。世間から見たら休学して気合い入ってるねとか言われるんですけど、全然、いちばん合理的だよって。正直、そんなに話題になってなかったら(バンドを)絶対やってない。もうやってないでしょ? うんともすんとも言わなかったら。
田中 どうだろう……俺はずっとやってたと思う、結局。この形じゃないかもしれないけど、趣味でも音楽はやってたかな。でもたぶん、すごい自信家なんですよ。だから周りが思ってるよりも、大丈夫だと思ってる。
杉田 「大丈夫?」って聞かれても、意味がわかんないよね。
田中 親にもめちゃくちゃ心配されるけどね。でも今の状態だと1年で大学に戻りなさいって言われちゃうから、もっと頑張らないと。休学は9月までなんで、もうすぐなんです。そこまでに親を説得できるような結果を残さないと。
EPという空間の中で揺さぶってみるっていう感じをやりたくて。その中で、ひとつの色にまとまるようにっていうのはちょっと意識していました(田中)
――その中で新東京2枚目のEPが出るわけですけど、前回まとめた4曲(1st EP『新東京 #1』)と、今回の4曲、どういう違いを感じますか?
田中 結構、楽器隊がより複雑化しちゃったかも。ドラムもベースも難しいし。
大倉 でも、それがやりたくてやってるんで、何も問題はないですけどね。
田中 そのぶん、たとえば“濡溶”とかで変な方向に走っちゃわないように、“Gerbera”で戻したりとか、そういう調整をしながら、独りよがりにならないようにしました。
保田 ドラムは打ち込みなんですけど、ライブではもちろん叩くので。難易度としては難しいですね。ドラムってフレーズ作る時に結構手ぐせが出ると思うんですよ。でも打ち込みで作ると、手ぐせじゃなくて自分にない引き出しからもフレーズを持ってこれたり、思いついたりするんで。演奏はすごいしにくいけど、音的にはかっこいいからこっちを使うってことは普通なんで、えらい難しさになります。
杉田 なんかいつも自分で難しいフレーズ作って、このライブまでに仕上げなきゃいけないって病んでるんです。自分でめちゃくちゃでかい壁を作ってそれを越えられないっていう。
――でも曲にとってはそっちのほうがいいっていうことなんですよね。
保田 そう。そこは妥協すべきじゃないですからね。
田中 まあ、もともと4曲の塊でやってくっていうのはずっとあったから、そのバランスを大事に考えて作っていきました。1曲1曲もちろんやりたいことをやるんですけど、できればEPの順番で聴いてほしいなって思いますね。EPというひとつの空間の中で揺さぶってみるっていう感じをやりたくて。“濡溶”があり“Gerbera”があり、いろいろある中で、ひとつの色にまとまるようにっていうのはちょっと意識していました。
――その全体の色みたいなものを言葉にするんだったら、どういうイメージですか?
田中 表現しにくいんですけど、前回の『新東京 #1』はジャケ写とかも黒に対してグロめの色があるっていうイメージで。音も、言葉で表現しにくいんですけど、グロめの音? 俺はそういう感じだったんです。今回ジャケ写は全部ポラロイドで撮って、ふわふわとした感じで。“Metro”とか“Morning”の音像もリバーブが深めでちょっとはっきりしない感じ。
――ちょっとドリーミーというか。そのへんが共通イメージとしてあったんですね。ちなみに、今回歌詞で「溶ける」とか「溶け合う」っていうモチーフが何度も出てくるんですけど、これはどういうイメージなんですか?
杉田 それ、この間言われて気づいたんですけど、なんで溶けたがるんですかね。表現としてすごい好きだし、たとえば自分の輪郭みたいなものがよくわからなくなると「溶けてるな」って思うんです。たぶん「溶ける」って言葉がすごくいろんな意味を孕んでいるんだと思う。たとえば“濡溶”は彼女と別れた時に書いたんです。めちゃくちゃうまくいってた時期とかって、相手が自分の生活の一部で、ふたりセットでいろんなものが完成していたと思うんですけど、そのセットだったものが分裂した時に、アイデンティティが崩壊した気分になって。彼女ありきの自分だったんじゃないかって。自分ってどういう人間だったの?って。大げさですけど。
――いや、わかります。その、ふたりで溶け合っていた時間や状態というのは、居心地がいいわけですよね。でもそれがなくなったって気づいた瞬間に、自分がなくなっちゃったような感じがする。
杉田 うん、すごい路頭に迷う気分でした。本来あるべき姿はなんだったのか。それがなくなったら自分も変わっていかなきゃいけないし、もともとあった自分というものも突き詰めていかなきゃいけないのに、それが本当にわからない。そういうことを書きました。
――そこもだから、今杉田くんが言ってることと、田中くんのちょっとふわっとしているっていうイメージとの距離感がすごく近い。やっぱり新東京、溶け合ってますね。
杉田 いや、本当にそうなっちゃっているね。もう溶け合っちゃってるから、いいか(笑)。
“Gerbera”
8thデジタルシングル『Metro』
2nd デジタルEP『新東京 #2』
1.Metro
2.Morning
3.濡溶
4.Gerbera
「J-WAVE & Roppongi Hills present TOKYO M.A.P.S Yaffle EDITION」
日程:5/3(火・祝) 出演予定会場:六本木ヒルズアリーナ
提供:ArtLed/NexTone
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部