【インタビュー】Mega Shinnosuke、“愛とU”が大ヒット中。ミュージシャンとしていちばん大事な信念を今こそ語り尽くす!

Mega Shinnosukeの“愛とU”が今、すごいことになっている。SNS総再生回数が5.5億回を超えていて、“愛とU(Sped Up Ver.)”はBillboard Japanの「TikTok Weekly Top 20」で6週連続1位を獲得(記事公開時)。ストリーミング再生数も急増中で、Mega Shinnosuke最大のヒットとなりそうな勢いだ。そしてそんな絶好のタイミングに、その作家性を突き詰めたフルアルバム『君にモテたいっ!!』を届けてくれた。

Mega Shinnosukeのインタビューを追っている人たちはよく知っていると思うが、彼は、数字を狙った打算的なものづくりに対して「好きなことやってますと言えないのはだせえ」とはっきり言うタイプのアーティストだ。そんなスタンスの彼が作詞作曲編曲、さらにはMVの監督まで務めた楽曲がこれほど広まっている現象は、人を楽しませるクリエイティブとは「狙い」ではなく「熱狂」から生まれたものである、ということを証明してくれている。このインタビューの最後で語ってくれた言葉も頼もしく、すべてのミュージシャンや音楽を愛する人に届いてほしいと思っている。

インタビュー=矢島由佳子 撮影=renzo masuda


前よりも他人のことが気にならなくなって、自分の作家性と向き合って、自分が好きなことや、やれることを見つめる時間が増えたなと思います

──“愛とU”がすごいことになってますけど、ご自身の実感としてはどうですか?

毎日TikTokで見すぎていて、自分の曲じゃないみたいになってます。「最近人気の曲」というか。別に流行っても流行らなくても曲のよさは変わらないしなと思って。

──今の勢いからすると、まだまだ再生されていく気がしますね。

そうですよね。こういう曲って、ないんですよ。丸ノ内進行(椎名林檎の“丸ノ内サディスティック”で使われているコード進行)で、UKインディーロックみたいな曲は、多分世界的にもないと思う。丸ノ内進行だとR&Bで、エレピで、っていう曲が多いけど、日本人とか今の若者がみんな好きなコード進行をギターで弾いて、軽やかなビートで、踊らせにきてないけど踊っちゃう、みたいな感じの楽曲がないんですよ。だから1回聴いて好きになった人はずっと聴くのかなって、僕も思ってます。


──「踊らせにきてないけど踊っちゃう」はキーワードですね。Megaさんは、たくさんの人に聴いてもらうことを狙ってものづくりをすることからは距離を置いて、「自分が面白いと思う作品を自分が作りたいから作ることがミュージシャンにとっていちばん大事である」という精神性を貫いてきた人だと思っていて。そうやって作った曲がこんなにたくさんの人を楽しませている現象を見ると、改めて「クリエイティブってそういうことだよね」と思わせてくれるというか。

“愛とU(Sped Up Ver.)”も、狙っていたら逆に恥ずかしくて出せないですね。ナイトコアというカルチャーが好きだし、TikTokとかInstagramのリールでちょっと変な動画を作るのも好きで、その時に早送りの音源のほうが使いやすいから、俺が動画につけるために出しました。聴いてても面白いし。前よりも他人のことが気にならなくなって、自分の作家性と向き合って、自分が好きなこと、やれることを見つめる時間が増えたなと思います。

──突っ込んで訊いちゃうと、アルバム『ロックはか゛わ゛い゛い゛』の時はもっと自由になりたいという気持ちがあったからこそ、「ミュージシャンは好きなことをやらないと意味ない」というようなことを強く発していたところもあったのでしょうか?

というよりは、「まだない音楽を生みたい」という考えが強くて。でもいろいろやってみた結果、歌詞に等身大のバックボーンがあって、歌が歌えて、ムードを作るのが上手いから音数を増やさなくてもよくて、ネットミュージックとしてTikTokとかリールで聴ける軽やかさもあって、でもちゃんと楽曲としていいものに成立させられる──っていう、クオリティの部分で人と違うことができるなって気づきだしたんです。そうなると、他のことはあまり気にならなくなったし、自分の好きな楽曲に向き合うことが増えました。あと大きかったのは、Spotifyだけじゃなくて‎Apple Musicにも入ったことですね。

──どういうことですか?

Spotifyは、ずっと触っていられるのがいいところで。新しい情報がいっぱい入ってくるし、プレイリストも自分がいいねしてる楽曲もいっぱいあるんですけど、自分の聴きたい音楽がわからなくなっちゃうんですよ。Apple Musicにはそれがない。Apple Musicだと情報が少ないから、朝起きた時に自分で「ブラー」って検索してブラーを聴くんですよ。そういうのが本当に聴きたい音楽なんだなってわかってきたというか。最新の音楽とかアンダーグラウンドで人気が出てきている音楽をキャッチすることよりも、自分が本当に好きなものを再認識しないと、自分が作りたいポップスは見えないなと思った。それでかなり変わったところがあると思います。

──Apple Musicに入ったのはいつ頃ですか? 3月に出したEP『hello.wav』はサウンドでいえばエレクトロ、ハイパーホップの方向性でしたけど、Megaさんのモードはまだ今話してくれたようなものではなかった?

EPの時はApple Musicじゃないですね。そのあとです。あとSpotifyって、いい意味で音がギュッとなるから、抜け感のいい音楽を作ろうという発想にならなかったのかな。今回のアルバムのほうがカチャカチャした、ポップな音が多くて。そういうポップ性を違うところで表現しようとするのが、Spotifyの発想なんですよね。そのことに、Apple Musicに入って気づきました。今思っているのは、マーヴィン・ゲイの曲とかめっちゃいいなって。スライ、坂本慎太郎、ピクシーズの“Where Is My Mind?”とか、あの感じ。なんて言うんですかね? あの適当さというか……福岡っぽいですね。

──福岡っぽい? それは音楽シーンとしての話? 福岡の人のこと?

福岡人がそんな感じ(Mega Shinnosukeは福岡育ち)。説明が難しいんですけど、初期衝動的なものとか、抜け感というか、映画『シング・ストリート 未来へのうた』の「みんなでやってみようよ」みたいな感じ。今は周りもみんなプロだから、クオリティの高いものを求めちゃったり、派手な楽器をぶち込んですごいものを作りたくなっちゃったりするんですけど、僕が指揮をとって、意図的に初期衝動的なものを作ることを大事にしてるかもしれないです。

時代へのアンチテーゼでいうと、初期衝動感があるけど歌詞をちゃんと書いてることですかね

──音数を削ぎ落として、リズムがヨレてもそのまま残して、歌も超人的には聴かせない──みたいに、ラフさを残したまま楽曲として聴かせられるものに仕上げるのって実は難しいことで。最近アーティストにインタビューしてると「世の中に整いすぎているものが多いから、ラフ感を残した音楽を作りたい」という話がよく出てくるんですけど、大きく言ってしまえば、時代へのアンチテーゼ的な意識もありますか?

時代へのアンチテーゼでいうと、初期衝動感があるけど歌詞をちゃんと書いてることですかね。これくらいちゃんと内容が伝わる曲のほうがよくね?っていうことを、ちゃんと曲を作って聴かせることがアンチテーゼかもしれないです。しかも「自分のことを歌わないと」みたいに思って作るというよりも、自分の中に流れてるエッセンスを直感的に入れていく感じになったことが、作品がよくなった理由かもしれないですね。

──“愛とU”の歌詞に関しては、どういう内容を書きたいと思ってましたか?

人間的な……なんて言うんですかね。こういうのが愛で、こういうのが立派な大人で、こういうのがいい人で、っていうことに従おうとする理性と、ちょっとやらかしたいみたいな欲求のどっちを取るか、みたいな感じです。

──正しくありたいから理性で考えちゃう、でもそういうのはもう息苦しい。恋人がほしい、でもいろんな理由で躊躇しちゃう──みたいな今の人たちの心をすごく汲み取ってるなと思って。だからこの曲はまさに今の時代のラブソングですよね。サウンドもそうだし、この内容だからこそ、これだけみんなの心を掴んでいるのだろうなと思う。

……そうかも(笑)。

──まあ「今っぽいラブソングを書こう」みたいな意図も意識もないということですよね。

全然ないです、普通に生きてるだけです(笑)。

バンドサウンドなんですけど、打ち込み音楽に近い発想のポップスを作ってます。“桃源郷とタクシー”の時からそれがいちばん向いてたんだなって気づきました

──普通に生きてる感じをそのまま作品にしてこうなるのは、時代を汲み取るソングライターやクリエイターとして最高のあり方じゃないですか。アルバムとしてはどういうものができたと実感していますか?

歌ってて楽しくなる、疲れないで聴けるアルバムだなって。ハウスミュージックにずっとハマっていたんですけど、ハウスミュージックみたいな、海外のミックスエンジニアやプロデューサーが作って、音圧があって、削ぎ落とされていてノれるだけっていう音楽が好きな自分にとって、ポップスにはなんの価値や意味があるんだろう?って考えたんですよね。その結果、ポップスはみんなが歌えるっていうのがデカいなと思って。当たり前の答えなんですけど。ポップスのよさと、ハウスミュージックみたいに聴き流せるけどずっと音にノれるような安心感が両立しているといいなと思って。「派手でしょ」「盛り上がりそうでしょ」みたいな感じよりも、ずっと聴けることを大事にしてました。だからロックミュージックなんですけど、ポップミュージックであり、俺的にはハウスミュージックでもあるんですよね。バンドサウンドなんですけど、打ち込み音楽に近い発想のポップスを作ってます。“愛とU”にも、その感じがあるというか。いろいろな音楽をやったけど、“桃源郷とタクシー”の時からそれがいちばん向いてたんだなって気づきました。

──いろんなサウンドを貪欲にやったからこそ、一周まわって強くなって戻ってきた感じがあるなと思いました。アルバムには、以前の取材でも仲のいい友達として話にあがった崎山蒼志さんと、chelmicoが参加しています。そういえば、今年の「SONICMANIA」で崎山さんとMegaさんのふたりが一緒にいるところを見かけましたよ(笑)。

あ、マジっすか(笑)。

──なぜこのタイミングで崎山さんを迎えて曲をやりたいと思ったんですか?

ずっと一緒にいるし、1曲くらいあったほうがいいかなと思って。

──ずっと一緒にいる感じなんですか?

週に2、3回くらい一緒にいます。「最近聴いたこれがめっちゃいい」とか、今自分がやってることとか、いろいろ話すんですけど……同じ音楽が好きで、酒飲んでるだけですね。彼は聴いたことのある音楽を作りたがらないんですよ。その感じ、いいなと思って。

──そんな仲で、いざ一緒にやろうってなって、どういう曲を作ろうって話しました?

もともとは違う曲を作ろうとしていて。もうちょっとトラックっぽいフォーキーな曲を作ろうとしていたんですけど、その曲を一緒にやってみたら、ちょっとダメだってなって。その時、俺と崎山が出会ったばかりの頃に朝方ベロベロになりながら「曲作ろう〜」みたいなことを言ってて、俺が《海をみにいこう》って繰り返し歌っていたことを思い出して、それを曲にしようって言って。崎山が歌詞を書くって言ってたから、「(これを元に)書いてもらっていいですか?」って一旦投げたら、「これでいいと思います」とか言ってきて、結局、俺が作詞作曲になっちゃいました。

──(笑)。1回曲を捨てて、ベロベロな時に作った曲を採用したというのも、初期衝動的なものがいい音楽になると信じていることの証ですよね。chelmicoに関しては、どういう想いからオファーしたんですか?

僕は2015年くらいのシティポップブームのヘッズなので、そういう人たちとやってみたいという気持ちがあって。もともとRachelさんとは仲よくて、年越しもRachelさん家で崎山と過ごしたりしてて──という時にこの曲ができて。楽曲的に“今夜はブギー・バック”っぽいというか、シティポップ、渋谷系の雰囲気があるからchelmicoが合うなと思ってお願いしました。


ちゃんといい曲を書いていいクリエイティブをやれば、ちゃんと届くっていうことを自分にも証明できたから、またいい曲を作ろうと思います

──『君にモテたいっ!!』は出会いから別れまでのストーリーとも捉えられる8曲が並んでいると思うんですけど、最後の“ao”、“ふたりの映画”の2曲がまた、Megaさんのメロディと詞のよさが際立ついい曲で。

僕の過去作でいうと『2100年』の感じですよね。“甲州街道をとばして”っぽい感じでもある。日本のロックっぽくもあり、ちょっとドリーミーポップでもあるというか。“ao”を作り始めた時は自分っぽくないなと思って、最初は「サンクラRADWIMPS」って呼んでたんですよ。RADWIMPSがSoundCloudアーティストだったからこういう感じかな、みたいな。最後はちゃんと自分の楽曲に仕上げていくことができるから、そういうことも言っちゃえるようになったんですよね。邪念がなくなって、普通に「いい曲ですね」っていう曲を作れるようになりました。


──これまで以上に周りのことも気にせず、自分の作家性と向き合って、いい曲を作ることに専念できるようになったということですよね。Megaさん自身、より生きやすく、楽しいなって思えるようになってる感じですか?

あ、そうです。やっぱりちょっとバカにならないと楽しめないですよね。あと、前より酒に弱くなったから、酔っ払ってるかもしれないです(笑)。考え性なので、酒を飲んで脳を萎縮させて、感覚を磨いていくことで、社会人からちょっとずつ離脱して、芸術家として生きていくことに専念するっていうタームです、このアルバムは。

──酒で脳を萎縮させるのは気をつけてほしいけど(笑)。社会の縛りや邪念から離れて芸術家としての感覚を磨きたいというマインドは前作の時もあったと思いますが、それがより進んでいる感じ?

そうかもしれないです。自分で言うのはアレですけど、子どもの頃から器用でいろいろ考えるタイプで、「考え方がお兄さんだね」って言われることにコンプレックスを持っていて、ちゃんと周りの人間とセッションしたいと思っていたんですよ。ただ、音楽をやっていくと、音楽が楽しいし、音楽を作ることに集中したほうがいいなと思って。音楽に本気になっていくと、ガチで人に興味がなくなっていくんですよ。(『ドラゴンボール』の)フリーザでいう「第四形態」になって、削ぎ落とされたんです。「周りとは違うぞ」っていう裏をかいた自信みたいなものがあったんですけど、今は自信とも違う確固たるものができあがって、人に突っかかったりもしなくなって。でも別に「いいやつ」ではないんですよね。基本、存在として、人間として、ギャグでもあるんです。ギャグだからこそ何やってもいいという感じになってきたというか。映画の『デッドプール』みたいな人生観になってきました。

──(笑)。その表現者としての佇まいを感じますよ。“愛とU”のテーマと同じように、社会の通例に縛られずに感覚を大事にしよう、もっと楽しめばいいじゃん、っていうメッセージを今の「理性時代」に発してくれているなと。

社会に対して影響を与えるとか、全然何も思ってないし、そういうことを背負いたくはないんですけどね。

──そうですよね。そういうことから距離を置きたいと思ってるのはわかってる(笑)。

できるだけ距離置きたい(笑)。

──今作のツアーでは12月に自身最大キャパのZepp Shinjukuでのワンマンが控えています。ライブに関しても「動員を増やすために何かをやる」とかからは距離を置いて、同志を巻き込んで熱狂を作ることを大事にされていると感じますが、今どんなことを思いますか?

ステージに立たないとわかんないですね。DJ的な発想ですけど、盛り上がる箇所を用意した構成を作ったうえで、自分のやりたい音楽を自由にのびのびやりたいなって思います。ヒットソングもその要因のひとつになるから、(“愛とU”があることで)セトリが組みやすくなりました。しかも変にアゲる曲でもないし、どの間に挟んでもいけるので。

──確かに、バラードのあとにも、エンディングにも使えそうな曲ですよね。そういう意味でも、“愛とU”がここまで大きくなったことはMegaさんの活動にいい影響を与えてくれそうですね。

面白いですね。だってギリギリですよ。“桃源郷とタクシー”がもう5年前ですよね。そこからよくヒット曲が出たなと自分でも思います。ヒット曲って、そうそう出ないじゃないですか。タイアップもない中で。あと、“桃源郷とタクシー”のMVはプロの映像ディレクターに任せたんですけど、自分でディレクターをやったMVをたくさん観てもらえる曲を作りたくて、“愛とU”でそれが実現できたことが嬉しいですね。作詞、作曲、編曲、監督、全部やってるから。

──映像まで自分でディレクションできると伝えたい内容の強度が強まるし、しかも今はみんな映像を作れちゃう時代だから、そこまでできるクリエイターがリスペクトされるのだろうなと思います。

アー写も証明写真に変えたし。17万円かけてちゃんとしたアー写を撮ったんですけど、アー写はやっぱり証明写真がいいかもなと思って、その日に撮りに行って、これでいいやって。1100円。アー写って、難しいんですよ。草むらに入って撮ってる写真とか見ても、どんな音楽なのかがわからないじゃないですか。

──ちゃんと撮ったあとに「やっぱり証明写真でいいじゃん」っていう感覚を持てて、行動までできるのがすごいです。

ものづくりにルールが多いとダメなんですよ。柔軟性を持ってないといいものはできない。「シーンの中に入らないといけない」「1回流行ったら落ちるばかり」「アニメタイアップやらなきゃ」「アイドル的な人しか集客できない」とかいろいろあると思うんですけど、ちゃんといい曲を書いていいクリエイティブをやれば、ちゃんと届くっていうことを自分にも証明できたから、またいい曲を作ろうと思います。

アルバム『ロックはか゛わ゛い゛い゛』のインタビューはこちら
【インタビュー】Mega Shinnosukeが問いかける、今の時代にアーティストをやる意義。衝動まみれの新作『ロックはか゛わ゛い゛い゛』完成[PR]
クレバーじゃなくていい。計算ではなくパッションこそが、人を動かす音楽たらしめる。Mega Shinnosukeの近年の作品が特に気持ちいいのは、そのマインドがどんどん研ぎ澄まされているからだ。「衝動に忠実」とか「音楽は楽しいからやる」とか、当たり前のものが社会の構造や人間臭い邪念によって遠…

●MV

“愛とU” MV


“18才の夏休み” MV


“あの子とダンス feat.chelmico” MV


“ふたりの映画” MV


●リリース情報

『君にモテたいっ!!』

配信中

●ツアー情報

Mega Shinnosuke ONEMAN TOUR 2024「君にモテたいっ!!」


提供:Mega Shinnosuke
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部