「のん、KAIWA フェス Vol.1 ~音楽があれば会話が出来る!~」/恵比寿ガーデンホール

All photo by 三浦憲治(Kenji Miura)
「堀込泰行さん、銀杏BOYZさん、サンボマスターさん――と、のん。不思議な並びですね(笑)」。この日の錚々たるラインナップが勢揃いしたアンコールの場面で、舞台を見回して発した「主催者」のんの言葉はおそらく、この場に集まった誰もが内心思っていたことでもあるだろう。
が、そんなマジカルなラインナップを実現し得たこと、そしてこの日のイベント自体が「音楽の素晴らしさ」への天真爛漫な情熱に満ちていたことも、他でもないのん自身の想いが中心となった一夜であるがゆえのものだ――ということも、この日の参加者の誰もが感じていたはずだ。

今年8月に自主レーベル「KAIWA(RE)CORD」を立ち上げ「WORLD HAPPINESS 2017」に出演、11月には1stシングル『スーパーヒーローになりたい』をリリース、と本格的に音楽活動をスタートさせた、女優・創作あーちすと:のん。そんな彼女が主催するライブイベント「のん、KAIWA フェス Vol.1 ~音楽があれば会話が出来る!~」に、銀杏BOYZ、サンボマスター、堀込泰行が集結。年の瀬の夜に、それぞれの形で最高のアクトを見せてくれた。

ライブアクトの行われるメインステージに加え、舞台下手には「KAIWA RADIO」と銘打ったブースが設置され、まずはここにのんが登場。「本日は、堀込泰行さん、銀杏BOYZさん、サンボマスターさんのファンの方々がたくさんいらっしゃっていると思います。のんのファンの方も――いらっしゃったら嬉しいです」とラジオDJ風に語りつつ、「あれ、どこいった?」と台本を探したりする微笑ましい場面にも、歓声と笑いが広がる。

そのトークからの流れで舞台にゲスト:堀込泰行が登場。のん出演CMの楽曲として、キリンジ時代からの堀込の代表曲“エイリアンズ”が起用されたことに触れ、「共演した気になってた」と語っていた堀込。“エイリアンズ”の「のん歌唱バージョン」の裏話トークを披露――しているところへ、進行を急かすようにSEのムチの音が鳴り渡り、アコギを構えた堀込とふたりで歌い上げたのは“デイ・ドリーム・ビリーバー”の忌野清志郎訳詞バージョン。堀込からのんへ歌をリレーし、絶妙のハモりを聴かせていく。そして、実際にライブでの「共演」が実現した“エイリアンズ”。シンプルにして濃密な憂いと切なさを秘めたメロディが、ふたりの心温まるハーモニーとともに美しく解き放たれていった。

転換時間になると、のんによる「KAIWA RADIO」トーク(「東京都にお住いの『のんさん』からのお便り」多め)が展開される、というパターンで進行していくらしい「のん、KAIWA フェス」。そして――銀杏BOYZの登場の瞬間、フロアの熱気とテンションが一段も二段も上がる。
「銀杏BOYZは今年、たくさんのことがありました。僕個人的にもいろんなことがありましたけども、2017年12月28日、今日で今年最後のライブになります。一生懸命やります!」という峯田和伸(Vo・G)の言葉の通り、1曲目の“光”をアコギ弾き語りで歌い始めた時から、その歌と気迫で会場を瞬時に支配し、曲の途中から加わったサポート陣とともに、凄絶なるノイズオーケストラ状態へと突入していく。
ギターをリッケンバッカーに持ち替えて繰り出した峯田は、“NO FUTURE NO CRY”の最後に勢いよくリッケンを放り投げたかと思うと、舞台に叩きつけて真っ二つにへし折ってみせる。衝動のままにマイクを額にぶつけたかと思うと、“BABY BABY”で熱いシンガロングを呼び起こし――すべてが魂の決定的瞬間の如きステージで、圧巻の熱気と歓喜を巻き起こしていった。

「ひとりバンド」状態ながら初の日本武道館ワンマンを成功させた2017年の銀杏BOYZ。「来年もこのバンドはいっぱい予定があるみたいで……」という言葉に高らかな拍手が広がっていた。ライブ直後の「KAIWA RADIO」コーナーで「汗の匂いがする!」と驚きの声を上げたのんの言葉が、その熱演ぶりを如実に物語っていた。
このコーナーではさっき舞台を降りたばかりの峯田が「今日、もうあの人たち(サンボマスター)いいんじゃないっすか?」と意気揚々とトークに参加。先ほどの激烈アクトとは一転して「俺、汗臭くないっすか?」と恐縮していたのに対して「みなさんキラキラしていて綺麗です」と答えるのんの言葉が、さらに熱気を熱く煽り立てていた。

続いてはサンボマスター。「お前らな、前から後ろからひとり残らずかかってこいや!」の山口隆(唄とギター)の絶叫から、“オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで”で恵比寿ガーデンホールをロックンロール爆心地へと塗り替えていく。決してアッパーなライブ慣れしているとは言えない雰囲気の会場をしかし、「お前らそんなもんか!」、「このクソ年末をぶち壊しに来た!」といった山口の名調子アジテーションでもってじりじりと狂騒の頂へと誘い、“ミラクルをキミとおこしたいんです”でフロアを激しいクラップの嵐へと導き、会場をがっつり揺さぶってみせる。

“できっこないを やらなくちゃ”でさらにホールの温度を高めた後、スロウ&メロウな名曲“ラブソング”を挟んで、「2018年も死なないでくれ!」のコールから“ロックンロール イズ ノットデッド”、そして“世界はそれを愛と呼ぶんだぜ”が炸裂!「また2018年、クソみたいな毎日があんたのことを打ちのめしたり、悲しい想いをさせたりすることがあるかもしれない。だけど忘れんなよ! ここで今起こってる奇跡みたいな空気と、外のクソみたいな毎日、……こっちが本当だからな!」――速射砲のように呼びかける山口の切迫したメッセージとともに奏でられた“YES”が、ひときわ深く胸に響いた。

サンボマスターの3人はライブ後「KAIWA RADIO」コーナーにも登場。まさに今月行われたばかりのサンボマスター武道館公演にのんが訪れたことに触れ、「銀杏BOYZの武道館には行かなかったの?」(山口)、「あ……行ってないです」(のん)と先ほど峯田にいじられた意趣返し(?)をしてみせる場面が、会場の爆笑を誘っていた。

この日のトリを務めたのは、主催者=のん率いるガールズバンド「のんシガレッツ」。ヒグチケイ(G)/岩崎なおみ(B)/若森さちこ(Dr)という実力派メンバーとともに、シングル『スーパーヒーローになりたい』のジャケットでもお馴染みの全身ゴールド&マントという出で立ちで登場したのん(ゴールドの衣装は全身タイツらしく、後に「暑くても脱げない」とボヤいていた)。赤のテレキャスターを軽快なストロークでかき鳴らしながら、“スーパーヒーローになりたい”を溌剌と歌い上げていく。

続けて“あることないこと”、“正直者はゆく”とのん自身が手掛けた未発表曲を立て続けに披露、さらに1月1日(月)リリースの2ndシングル『RUN!!!』のカップリングに収録される“ストレート街道”へ――。コードワークやメロディ含め痛快なポップ王道感を備えつつも、常道からは明確にねじれや揺れを感じさせるセンスが、自由闊達なのんワールドの存在感を1曲また1曲と鮮烈に描き出していくのがわかる。
「このバンド気に入ってて、ずっとやっていきたいなって思ってます!」と語っていたのん。RCサクセション“I LIKE YOU”のカバーでチャボこと仲井戸"CHABO"麗市のギターとともに歌ったことを振り返り、「『キヨシ(忌野清志郎)に言っとくよ』って言ってくださって。曲作ったやつは、歌ってもらうのが一番嬉しいから」という言葉とともに“I LIKE YOU”を披露。ロック史に残る名曲の旋律が、弾むようなのんの歌声と渾然一体となって、会場の高揚感と響き合っていた。

ラス前の“へーんなのっ”も含め、本編7曲中4曲を自身の作詞作曲ナンバーで構成していたのん。「みなさん、のんやのんシガレッツのファンじゃなかったりするかもしれませんが……私は堀込さんも銀杏さんもサンボさんもファンなので、みんな仲間です。ぜひのんシガレッツのファンになって帰っていただけたら嬉しいです!」という言葉に一面の拍手がわき起こったところで、ロック疾走モード全開の2ndシングル表題曲“RUN!!!”で熱く本編を締め括ってみせた。

アンコールでは冒頭にも記した通り、のんシガレッツに加えて堀込/銀杏BOYZ(峯田&サポートギター加藤綾太)/サンボマスター(山口&近藤洋一)の全出演アクトがステージに勢揃い。サディスティック・ミカ・バンド“タイムマシンにおねがい”のカバー(『スーパーヒーローになりたい』カップリングに収録)を9人編成でパワフルに披露していった。
この顔ぶれが一堂に会する、しかもひとつの舞台で共演というレアさもさることながら、その原動力となったのんの無垢な音楽愛/バンド愛を、このフィナーレの場面は確かに伝えていた。(高橋智樹)



●セットリスト
のん+堀込泰行
1.デイ・ドリーム・ビリーバー
2.エイリアンズ

銀杏BOYZ
1.光
2.NO FUTURE NO CRY
3.恋は永遠
4.夢で逢えたら
5.BABY BABY
6.ぽあだむ

サンボマスター
1.オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで
2.ミラクルをキミとおこしたいんです
3.できっこないを やらなくちゃ
4.ラブソング
5.ロックンロール イズ ノットデッド
6.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
7.YES

のんシガレッツ
1.スーパーヒーローになりたい
2.あることないこと
3.正直者はゆく
4.ストレート街道
5.I LIKE YOU
6.へーんなのっ
7.RUN!!!

出演者全員
EN1.タイムマシンにおねがい



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