2 many djs vs ヴィタリック @ Zepp Tokyo

ヴィタリック
ヴィタリック
Zepp Tokyoでのオールナイト・イベントというのはかなり珍しいことだし、このRO69のライブレポートなんかだとZepp Tokyoに行くのはほぼ間違いなくライブなわけで、オープンは21:00、つまり普通ならライブが終わるくらいの時間にZepp Tokyoへ向かうというのは何だかとても奇妙な感覚だ。『2manydjs vs ヴィタリック』と銘打たれた今宵のイベントは、メイン・ステージにヴィタリックと2manydjs、そしてセカンド・ステージにabc-disksystem、YATT、THE LOWBROWS、SHINICHI OSAWA、☆Taku Takahashiという日本勢5組が脇を固めるという布陣。客入りはヴィタリックの時点で明らかにキャパ・オーバー。パンパンである。

まずメイン・ステージに登場したヴィタリックは、意外にもシンセ1台にラップトップというシンプルなセット。底を支えるのはやはりバキッと立ったライブ感の強いエレクトロ・ビートなのだけど、曲によっては1トラックの長さが倍くらい引き伸ばされ、打楽器乱れうちのパーカッションやマーチング・ビートを始めとした音ネタが次々と放り込まれていく。1stでよく見られた大ぶりなギター・サンプリングも今の彼にとっては音ネタの1つに過ぎないようで、全体的にも“フラッシュ・モブ”や“ターミネーター・ベネルクス”のようなテクノ的なアプローチをエレクトリックに再現した2nd中心の選曲だったし、以前観たライブよりもぐっとテクノやテック・ハウスにシフトしていくようなセットだった。

かといって、彼がコアなテクノ・クリエイターになってしまったのかと言われればもちろんそんなことはない。ジャスティスの“D.A.N.C.E”やダフト・パンクの“ワン・モア・タイム”と肩を並べる必殺のフロア・アンセム“マイ・フレンド・ダリオ”を持っているからだ。しかも今宵は、ラスト直前、“セカンド・ライブス”のデカダンなムードの後にスピンされたこともあり、メタル顔負けにドライヴするへヴィ・ギターは、これまでの流れをすべて破壊しつくしてしまうような文字通り圧倒的なものがあり、このアンセムの持つ求心力は、5年たった今でも全く失われていないことを証明した瞬間だった。

ヴィタリックはマッシュアップの使用こそ少ないが、曲をカットアップし、複雑な順列組み合わせによるライブ用のミックスによって、新たなトラックを完成させるという点では、同じフランス出身のダフト・パンクとも似ている。ライブを観た後だと、これまでのアルバムが最早「ライブ向けの素材集」と思えてしまうくらいだ。今回は1stからの2曲以外はほぼ2ndのトラックで構成されたライブだったが、割と縦ノリ偏重、エレクトロ・クラッシュ全開だった1stと、メランコリックなシンセ使いでレイヴ的な祝祭感を演出した2ndは同じダンス・ミュージックでも毛色がまるで違う。この2つがマッシュアップ、クロスオーバーした時にどのようなライブになるのか、今から楽しみで仕方がない。
2manydjs
2manydjs/pic by Masanori Naruse
そして昨年のサマーソニック09以来、約半年ぶりという短いスパンでの来日となった(ほんとこの人たちはフットワーク軽すぎ)2manydjs。地割れのような大歓声とともにステージの幕が開き、背景幕には「RAdio SOULWAX」の大きな文字が! これを見るだけでこちらのテンションはぶち上がってしまうのだが、ステージを見ると誰もいない、DJブースもない。すると、上下黒のセット・アップでドレッシーにキメたステファンが「呼んだ?」みたいな表情でひょっこり登場。手にしたオールド・ラジオで「ザーッ、ザザザーッ」というノイズを撒き散らし、「RAdio SOULWAX」のチャンネル合わせのパフォーマンスで煽っていると、きました、デイヴィットが乗ったDJブースが運ばれてきて場内大爆笑&大興奮! 茶目っ気たっぷりのパフォーマンスでフロアのハートをロック・オンすると、今宵のパーティーはケミカル・ブラザーズの“ヘイ・ボーイ・ヘイ・ガール”で幕を開けるのだった。

2曲目にスピンされた808ステイト“キュービック”の終盤でデイヴィットが勢いよく「RAdio SOULWAX」の背景幕を引き剥がし、待ってましたといつもの巨大なスクリーンが姿を現す。映し出されたTHE KLFの『DAS HANDBUCH』のジャケとともに、スピンされたのは“ホワット・タイム・イズ・ラブ”。オープニング3曲は時代を遡るようにアシッド寄りにミックスされている。最高の流れだ。そこからはもう、マッシュアップの嵐!ゴシップの“スタンディング・イン・ザ・ウェイ・オブ・コントロール”やゾンビ・ネイションの“Kernkaraft 400”で盛大にシンガロングを誘い、そこにバスタードされるのはMGMT“キッズ”である。他にもディジー・ラスカル、スパークス、クラッシュ、ヤー・ヤー・ヤーズ、ポール・チェンバース、プロキシー、YMO、ジャスティス、ニュー・オーダー、はては前アクトのヴィタリックまで、挙げ出すとキリがないくらい大ネタを次々とブッこんでいく2人。もちろんスクリーンにはスピンされているトラックのジャケが表示され、ガンズのスカル・ヘッドが、Mr Oizo『positif』のジャケの軍人にムチでシバき倒されていくなどの爆笑VJも満載。映像がビートにしっかりとシンクロしているのもまたよくて、視覚と聴覚の両方から入ってくる情報すべてが高揚とダンスのために機能しているDJアクトは、やはり2manydjsがダントツである。

終盤には、マックス・ロメオ&ジ・アップセッターズのレゲエ・アンセム“アイ・チェイズ・ザ・デビル”のチルアウトからプロディジーの“アウト・オブ・スペース”へ流れるマッシュアップもあり、王道すぎるけどこれがまた格別。元ネタだけあってプロディジーの高速ブレイクビーツにマックス・ロメオの気だるいボーカルは相性ピッタリで、身悶えするほどに気持ちよかった。そしてVJにはプロディジーのジャケから、宇宙空間にUFOの文字が現れるものだから「ああ、次はUFOかLFOね」と思っていたが、繰り出されたトラックはピンク・レディーの“UFO”。しかし、笑い転げるオーディエンスのどてっ腹をさらにぶち抜いた真のラスト・トラックは、ニルヴァーナの“ブリード”である。(“スメルズ~”じゃなくて“ブリード”というのがいかにもディワーラ兄弟らしい)フロアはクラウド・サーフやらモッシュやらヘッドバンキングやらポゴ・ダンスが至る所で起こり歓喜のカオスと化したが、2人がプレイを終えると、この日のアクトを讃える惜しみない拍手と大歓声がいつまでも響き渡っていた。

2manydjsが出てきた当時、ジャンルレスに超ド級の人気トラックを次々にミックスしていく手法は、ネタ元に無許可で行っていたこともあって少なからずバッシングを受けていた。そのバッシングをねじ伏せることができたのは、言うまでもなく圧倒的なVJ技術と規格外のミックスワーク、つまりマッシュアップのクオリティーの高さからである。デイヴィットが、「RAdio SOULWAX」の背景幕を引き剥がした瞬間、THE KLFのジャケがスクリーンに映し出された。彼らのことをDJ版KLF、あるいはTHE JAMsだというのは言い過ぎだが(KLFほど人騒せでも過激でもないし)、バッシングを受けた手法をとことん突き詰めることで、巨大なポピュラリティーとエンターテインメントを獲得するというそのアティチュードは、どこか通じるものがあるのかもしれない。(古川純基)