日本マドンナ@新宿紅布

日本マドンナ、2作目のミニ・アルバム『月経前症候群~PMS~』のリリース・パーティ。会場は新作のリリース・レーベル=red recにおいても縁深い新宿紅布。開演時間を迎える頃にはオリエンタルな趣のフロアは大盛況である。今回の企画はヘンリーヘンリーズ、そしてred recではレーベル・メイトにあたるTHE 抱きしめるズがゲストに招かれ、青いリビドーと赤く熱い業とが全面衝突する濃密な一夜になった。それはもう、日本のロック・シーンの将来には希望しか感じられないというぐらいの、本当に素晴らしい企画だった。

メンバー全員が未だ16歳という、若いにもほどがあるヘンリーヘンリーズからパフォーマンスがスタート。日本マドンナとの対バンは1月の『スプートニクラボ新年会2011』(スプートニクラボはred recなどのレーベルや紅布を運営している会社)以来である。4ピースのバンドだが、まずは何より村瀬みなと(Vo./G.)のあどけない風貌からは想像もつかないようなソウル・シャウターぶりに惹かれる。決して声が似通っているわけではないが、節回しというかボーカルによるグルーヴのこねくり回し方が忌野清志郎を彷彿とさせる文系ソウル・マンだ。村瀬は楽曲によっては林大夢(G.)と豊かなギター・サウンドの交錯を聴かせるのだけれど、やはり「歌のグルーヴ」という点ではマイクに専念したときがとりわけ凄い。ゆったりしたロック・ナンバーでもオーディエンスをなぎ倒せるボーカル。将来が楽しみ、というか実に末恐ろしい。

続いては、こちらも昨年11月にred recからセカンド・アルバム『I wanna be your boyfriend』を発表したTHE 抱きしめるズ。しばらく見ないうちに髪型やら服装やらがずいぶんロッカー然としてしまっている4人だけれど、それでもやはり大柄な体躯に真っ赤なギターを乗せた篠崎大河(G.)が目立ってしまうのはやむを得ないというか何というか。甘酸っぱい恋のメロディを全速プロト・パンク・スタイルで、しかももの凄く楽しそうにぶっ放す4人の姿に、オーディエンスが沸き返る。でも、明らかにかっ飛ばしているのだけれど、曲がブレイクしまた気持ちよく転がり出す瞬間のコンビネーションがドンピシャリで決まるなど、ライブ・バンドとしての地力がとても高くなっている。目をひん剥いて歌を浴びせかける渡辺ヒロユキがフロア中央に躍り出てくるクライマックスまで、一貫して熱くエモーショナルなショウだった。

さて、日本マドンナである。THE 抱きしめるズの篠崎は「さっき、顔見て話せなかったー。眩し過ぎて。チョコ貰えなかったし……」とステージでぼやいて笑わせてくれていたが、確かに会場の入り口で入場するオーディエンスを出迎えていた日本マドンナの3人は、ビシッとメイクを決めたすっかり華やかなお姉さんの風貌で、それであんな歌とかこんな曲とかやるのかよ、と痛快な気分にさせてくれていた。が、いざステージで準備を始める段になると、別人か! というぐらいに顔つきが変わっているのがわかる。目に見えて、もの凄い勢いでロックのスイッチがONになっている。日本マドンナはそういうバンドである。

オープニング・ナンバー。後に載せたセットリストでは“ラップ~月経前症候群ヴァージョン~”と記してあるが、これは作品のリリックのとおりにそのまま披露されるのではなくて、あんな(Vo./B.)が《音楽は娯楽と言われることもあるけれど 私たちの音楽は爆弾 爆弾バンドです》とフリースタイルのラップを浴びせかけていった。そしてこの3人が、この3人の呼吸においてのみ超一流、という唯一無比のパンク・アンサンブルを轟かせて、あんなはフロアのオーディエンス一人一人を順ぐりに睨めつけるようにしながら“徴兵制度”を歌う。日本マドンナはとても「曲がいい」バンドだ。口当たりの良い、流麗なメロディを書くという意味ではなくて、剥き出しの荒々しい、隙間だらけのギターと、ベースと、ドラム。そこから立ち上がる最も効果的なサウンドの、最も効果的なタイム感の音を選びとって、数学的に楽曲を組み上げている印象がある。だから音の感触はガレージ・パンクそのものなのだけれど、彼女たちの言葉の呼吸と抑揚と緊迫感でしかありえない歌になってしまう。

そして幸せなカップルに対してクソミソに当たり散らしたり、村上春樹に噛み付いたり、日本マドンナの歌は衝動的な感情の瞬発力を起点にしているものが多い。実はすこぶる知的なバンドだから、歌詞の言葉選びも考え抜かれているのだろう。タイトル一発で、どんな内容の歌を歌っているのか分かる。沸き上がる衝動の瞬発力を音楽に落とし込むことを優先しているから、「言ってもいいこと/言ってはいけないこと」という物差しよりも「言うべきこと/言わなくていいこと」の基準の方が重要になってくる。結果として、知的で奥深いのにドン臭くはならず、核心だけをズバンと狙い撃ちした歌詞になる。そういうメカニズムがなければ、いくらなんでもこんなふうに「あれもこれも全部凄いロック・ソング」などということにはならない。

「爆弾がチョコだと思ってください」と、THE 抱きしめるズ・篠崎の発言を受けてか、あんなはそんなふうに言ってのける。さとこはドラム・セットの中でくり返し飛び上がるようにしながら、華奢な体の全体重を乗せるようにしてスティックを振り下ろし続けていた。僕が日本マドンナのライブを初めて観たのは09年の年末、COUNTDOWN JAPAN 09/10でのことだったが、声を涸らしながらひたすら喚くように歌っていたあんなの喉はずいぶん強くなって、堂々たる迫力のボーカルを聴かせてくれるようになった。ギターを掻きむしるような姿さえ知らなければ今どきのカワイイ系お姉ちゃんにしか見えないまりなは、ステージ上ではまるで若い頃のロイヤル・トラックス(現・RTX)のジェニファー・ヘレマみたいだ。これ、俺の「かっこいい女性ロッカー像」最大級の賛辞だと思って頂ければ。ジェニファーはボーカルだけど。

あんなは“死ねと言われて安心した”のときに「Theピーズの“シニタイヤツハシネ”という曲を聴いて出来た曲です」と語ったり(いわゆるハチロク・ビートのエモーショナルな一曲で《神様はあんまり信じてないし/人を信じるのも精一杯になってきた》というような切実な思いが歌い込まれていた)、“アンチポリス”では「新宿でまりなと弾き語りしていたときに、わたしまだ歌いたいのに警官に止められて指紋まで取られた」といちいち楽曲の衝動の出発点を解説してくれるのが嬉しい。ユーチューブでの“生理”のPVを観た同世代の女子が「下品」とコメントしたことに触れては「ていうかそっちが下品だよ!」と当たり散らしていた。「上の世代が敵で同世代は仲間」とかそういう線引きじゃないのだ。イラッときたら全部敵なのだ。皆殺しだな。でも凄く率直だし、リアルだし、本当に孤独で悲しい。彼女がロックを選んでくれて、彼女のそばにロックがあって良かった。

“アンチポリス”から間を置かず“汚したい”へと傾れ込む。ロックは、厳密に言えばまったく汚れを知らないで済む子供のものではなくて、汚れた世界を知り、そこに足を踏み入れてゆく思春期の表現だ。だから痛いし、悲しいし、大きな叫びになる。この曲の最後にあんなとまりなはステージ中央でキスをして、さとこはそれを見て笑っていた。そして本編ラストは“田舎に暮らしたい”を泣き叫ぶように歌いながら、「終わっちゃうよォ~!!」と想いを漏らすあんなであった。当然、フロアにはアンコールの催促が沸き上がって再び3人をステージに迎え入れる。あんなはこのときばかりはロック・アーティストではなく普通の女の子の顔になって「恥ずかしー!」と本気で照れていた。アンコールで1曲だけ、「バンドが出来てからずっとある曲です。日本マドンナの[骨]の曲です」と披露されたのは、出た。我流カバー“レット・イット・ビー”、“あるがままに”だ。轟音の中から《生き心地が悪いよ》という叫びが突き抜けてくる。これが日本マドンナだ。彼女たちはきっと、もっともっと凄いバンドになる。(小池宏和)


日本マドンナ セットリスト

1:ラップ~月経前症候群ヴァージョン~
2:徴兵制度
3:幸せカップルファッキンシット
4:クツガエス
5:アンチ大人
6:死ねと言われて安心した
7:村上春樹つまらない
8:生理
9:お前を墓場にぶちこみたい
10:アンチポリス
11:汚したい
12:田舎に暮らしたい
EN:あるがままに