MO'SOME TONEBENDER @ 恵比寿リキッドルーム

pics by yosuke torii
最初は、「ついてこれないやつは振り落としてでもロックの彼方へ突っ走る」というスピード狂的なロックンロール博覧会かと思った。それくらい、高下駄風のミニ竹馬に乗った武井靖典が暗黒アジテーターとしてフロアを煽り倒した冒頭の“To Hell With Poverty”から、音とビートの密度を格段に増したハイ・テンション・バージョンの“go around my head”、ハード・エッジなカオスの極致のような“Young Lust”……とかっ飛ばすMO'SOME TONEBENDERの、疾走感を通り越した光速トリップ感は戦慄必至のスリルと畏怖に満ちたものだったからだ。が、そんなスピード感に満ちたステージが「観る者すべてを問答無用のトリップ感で包み込みながら、一緒に[その先]の風景を切り開く一大ロックンロール・アドベンチャー」であることが、2時間のアクトを通してヴィヴィッドに伝わってくる。そんな最高のロックンロールが、この日のリキッドルームには確かにあった。

10月14日の仙台MACANAからスタートした全国5公演の『阿鼻叫喚ツアー』最終日、恵比寿リキッドルーム公演。約2年間の潜伏実験期間を経た最終決戦的アルバム『STRUGGLE』(昨年10月)とそのリリース・ツアー(今年1月)、初のUSツアー敢行(3月)、ベスト盤『BEST OF WORST』リリース(4月)……と突き進んできたモーサムだが、今回のライブは『STRUGGLE』とも『BEST OF WORST』ともモードの異なる、いやそれらのアーカイブすら自らの「断片」の1つとして完全消化してさらにエクストリームなロックの刃の切っ先を研ぎ澄ませるものだった。ということが、新旧の楽曲のあらゆる文脈をぶった切って結合させたような以下のセットリストからもわかると思う。

01.To Hell With Poverty(GANG OF FOURカバー)
02.go around my head
03.Young Lust
04.flying get(新曲)
05.youth
06.未来は今
07.シンクロニシティ
08.カクカクシカジカ
09.マカロニ
10.ONE STAR
11.WINDOW PAIN
12.メタルカ
13.Lost in the City
14.Bad Summer Day Blues
15.Hammmmer
16.BIG-S(FRICTIONカバー)
17.GREEN & GOLD

EC1.shining(新曲)
EC2.HigH

 完全に2011年型モーサムのスタンダードとなった、SPANK PAGE・水野雅昭をサポート・ドラムに迎えた4人編成……なのだが、この日は武井をセンターに配し、百々和宏が下手(向かって左)、上手に藤田勇、というフォーメーション。百々の一撃必殺ディストーション・サウンドが満場のオーディエンスの視界を焦燥感で塗り潰した“YOUTH”。ほぼ原曲通りのアレンジながら、当初のグランジ的な退廃感ではなく魂を燃やすようなダイナミズムに満ちて響いた初期名曲“WINDOW PAIN”……といった「ソリッドなロックンロール・バンド」としてのモーサムの側面も、『STRUGGLE』という作品を巡るモーサム解体&再構成を通して格段に威力を増しているし、「やー、恵比寿! 阿鼻叫喚? 阿鼻叫喚!」とがなり上げ“Lost in the City”で藤田ともどもライトセイバーを振り回してオーディエンスをダンスと歓喜と混沌の渦へと叩き込む武井も、黒光りするほどの堂々たる存在感を放っていた。が、この日のアクトで最も異彩を放ちつつ、モーサムという音楽に異次元のヴァイブとジャンク感を与えていたのはやはり藤田勇だろう。

 長身の体躯にはアンバランスなほどコンパクトなスタインバーガーのギターを操りながら、不穏なアルペジオで新曲“flying get”の幕を開け、超初期からのアンセム“未来は今”にアナログ・シンセ風の音色で新たなフレーズを加え、珠玉のバラード“ONE STAR”ではスペイシーなバッキングからディストーションかかったソロまで鍵盤を駆使してサイケデリックの彼方へと満場のリキッドルームを誘ってみせ、“BIG-S”のソリッドなビートをパーカッション乱れ打ちで爆裂させてみせる……終演後に藤田は「まあ、大道芸みたいなもんっすからね」と笑っていたが、ワイルドなロックンロールからハイブリッドな電子音まで自らの衝動の赴くままに弾き鳴らし叩き回る藤田の雑食でジャンクな佇まいは、いわゆるロックンロールのストイシズムとは対極のものだ。が、「サウンドに彩りを加える」とか「アレンジの幅を広げる」といった視点とは真逆の、むしろ稀代のロックンロール・アイコンたるフロントマン=百々のエッジを極限まで研ぎ澄まし磨き上げるツールとして、藤田の変幻自在な音とプレイはこれ以上ないくらい高性能なものだ。かつてROCKIN'ON JAPAN誌の楽器連載「これが名器だ!!」で取材した2007年の時点でも、「ドラマーっていう気持ちは……今でもそんなにないんですけど」と語っていた藤田。「ドラマーにしてソングライターでもありつつマニピュレーターも担当していた藤田勇が、パーカッションを叩きながらギターを弾きシンセを弾くようになった」というよりは、藤田勇という音のテロリストがドラマーという制約から解き放たれてその獰猛なクリエイティビティを剥き出しにした、というほうが正しいのだろう。そしてそれによって、ほぼ全曲がブラッシュアップ&リアレンジされ、もう10年以上モーサムを見続けてきた自分にとっても未体験のスピード感を体感させてくれるロックンロールへと到達してしまったのである。

 アンダーワールドとレッチリとコールドプレイを同時再生したような“Bad Summer Day Blues”の全身震撼の恍惚感! 「レッツ・《神経を研ぎ澄ます》!」という百々のコールから《神経を研ぎ澄ます》の連呼とともに赤黒いロックの深淵へダイブする“Hammmmer”!……といった狂騒の風景の最後を飾ったのは“GREEN & GOLD”! 水野&藤田のWドラム(水野のバスドラの反対側に藤田がペダルとスネアをセッティングして、1つのバスドラを2人で共用)編成で、リキッドルームの外の夜空丸ごと真っ白に染め上げるような荘厳な轟音の嵐を巻き起こして……本編終了。1曲の中にロックンロール衝撃映像集を詰め込んだような「MO'SOME TONEBENDER・この夏のテーマ」こと“メタルカ”も、そしてアンコールで披露された目映くもハード・エッジな新曲“shining”も、「鳴るだけで衝撃」なモーサムの「今」を祝福する凱歌のように思えて嬉しかった。最後は“HigH”の身体中が痺れるほどの激烈ギター・サウンドで完全燃焼! 「まだまだ新しいの作って動きますけん」(武井)、「『KESEN ROCK TOKYO』もう1回やるっていうんで、11月7日、やります。新代田FEVER」(百々)とさらなる「これから」へのアクションと闘志を覗かせていたモーサム。彼らにしか鳴らせない/描き出せないロックンロールの極点を目撃した、貴重な一夜だった。(高橋智樹)