Dragon Ash @ SHIBUYA-AX

all pics by 橋本塁(SOUND SHOOTER)
 感動的な時間だった。「こういう形でライブやるのは初めてだし、もう二度とやりたくないってのもあるし……でも、俺らが『活動しなきゃいけないな』って思えたのはみんなのおかげなんで。本当に感謝してます。ありがとうございます!」という桜井誠のMCに応える満場のオーディエンスの熱い拍手喝采が、Dragon Ashには珍しくオール・キャリアを網羅した選曲が、そして何より、悲しみを振り切って勢いよく前進することを選んだDragon Ashの6人の雄姿が熱く胸に迫る、最高の一夜だった。4月21日に急逝したベーシスト:IKUZONEこと馬場育三への追悼の想いをこめて、ここSHIBUYA-AXを皮切りに7/19:Zepp Nagoya、7/20:Zepp Namba、8/14:仙台Rensa、8/17:Zepp Fukuokaを回るライブ・シリーズ『REST IN PEACE IKUZONE』。「やるからには、馬場さんとずっと歩んできた歴史を、『今一度噛み締める』じゃないけど、いつもやらないような曲もいっぱいやってくんで」と桜井も語っていた通り、96年のバンド結成以降のDragon Ashのヒストリーを、その楽曲のみならずIKUZONEの映像や写真も通して1500人のファンと改めて分かち合う場所ーーそれは僕らにとって重要なライブであったのと同時に、誰よりDragon Ash自身にとって必要不可欠な場所であるということが、そのタフな包容力にあふれた音の1つ1つから痛いほど伝わってきた。

 19:05。開演に先立って、ステージ背後のヴィジョンに浮かび上がるIKUZONEの写真の数々。「1996年5月 Dragon Ash結成」の文字。そして、彼の映像が次々に映し出されていく。フロアから思わず「かわいい!」の声も上がった、デビューに向けたレコーディング中の表情。96年8月5日、川崎クラブチッタでの初ライブ。97年“Rainy day and day”PV撮影。99年『Freedom of Expression』ツアー・ファイナル:横浜アリーナでの熱演……といった懐かしい映像とともに時系列を「今」へと辿っていく。2011年の年頭に「今年の抱負」を意気揚々と語るIKUZONE。そして、2012年4月19日、彼の生前最後のステージだった、ROTTENGRAFFTYツアー・ファイナルでの対バンへ向けたリハーサル……最高のベーシストとして、「永遠の先輩」としてDragon Ashを導いてきた彼の姿に誰もが見入っているうちに、あっという間に30分以上が過ぎていた。そしていよいよ、Kj、桜井、BOTS、HIROKI、ATSUSHI、DRI-Vがオン・ステージ!


 前述の通り『REST IN PEACE IKUZONE』は8月まで続くので、ここではセットリストの全掲載は控えさせていただくが、超初期の衝動剥き出しの名曲“The day dragged on”をはじめ、“Let yourself go, Let myself go”“Fantasista”から最新アルバム『MIXTURE』の“Fire Song”“AMBITIOUS”、さらにこのライブ当日に配信リリースされた新曲“Walk with dreams”までを約1時間半の演奏の中に凝縮して、デビュー以降15年史をがっつり総括してみせる意欲的なアクトだった。夏フェスではサポート・ベーシストとしてRIZE・KenKenの参加が決定しているが、公式サイトでも「このライブツアーはIKUZONE本人の演奏音源とメンバー6人でのパフォーマンスとなります」と告知されていた通り、この日のライブはあくまで「6人」でのステージ。ステージ上にはこれまで通り、IKUZONEの機材(とぬいぐるみ)とベースがセットされ、過去のベースのトラックとバンドの演奏をステージ上でリンクさせる形で進行する、というものだった。IKUZONEのベース・ラインをそのダイナミックなミクスチャー・アンサンブルとともに堪能しながら、その一方で彼の「不在」が1曲また1曲と現実として頭と心に染み込んでいく……という、実にヘヴィな意味合いを持ったライブでもあった。が、ウェットな感傷に足を取られて立ち止まってしまうような場面や、場内の空気が悲しみで満たされてしまうような場面は、少なくともライブ中には1秒たりとも存在しなかった。

 ただでさえ並々ならぬ気迫で臨んだオーディエンスのシンガロングとジャンプを「飛び跳ねろ!」とさらに壮絶なテンションで煽り倒し、「悲しむために来たんじゃないでしょ、別に!」と歓喜の彼方へと誘い、クラウドサーフでステージに辿り着いたキッズと拳を合わせていくKj。ハンドマイクで「ミクスチャー・ロックが好きな人! 飛んでこい!」と絶叫するKjの傍らで、“Fantasista”の全身震撼レベルの覚醒感に満ちたディストーション・サウンドをぶん回すHIROKI。“Let yourself go, Let myself go”のトラックで会場の空気を一気に99年の色に塗り替えてみせるなど、DJ/マルチ・プレイヤーとしてDragon Ash唯一無二のヴァイブを加えていくBOTS。“The day dragged on”など初期曲を格段にパワフル&タイトなビートでドライブさせる桜井……そんなアンサンブルの1つ1つを、時にDRI-V:青&ATSUSHI:赤のシャツでIKUZONEカラーを再現したり、時に青赤2色に染め抜かれた布を身体にまとったATSUSHIが炎の如きダンスで観る者すべての魂を燃え上がらせたり、といったダンサー・チームのパフォーマンスが、高揚感のクライマックスへぐいぐいと押し上げていく。


 そして……IKUZONEの生前にレコーディングされた新曲“Walk with dreams”。ザ・ポリス“見つめていたい”すら彷彿とさせるような穏やかで凛としたイントロから、やがて目映いくらいに熱く優しい轟音の地平へと至る、Dragon Ashの新たなアンセムとなり得る名曲。《日々は短く早い 黙って死んだように生きたくはない だから人は夢を語り 感じてたいんだ胸の高鳴り》……IKUZONEと歩んだ日々を大事に思うからこそ、今を懸命に生き、明日を想う。真っ直ぐに「その先」を見据えて真摯に歌い上げるKjの力強い言葉が、この日AXに集まった僕らの何よりの希望だった。IKUZONEの演奏をフィーチャーしたもう1つの新曲もこの日初披露されたが、こちらはがらりと趣の異なる、灼熱のエモーションとブリザードの如きギター・サウンドがせめぎ合いながら疾走するような熾烈な楽曲。こちらも1日も早いリリースを期待したい。

 あたかも通常の楽器交換のように、IKUZONEアンプ前に立てかけてあるベースを取り替え、Dragon Ash史を彩った変形ベースが何本もステージに登場したこの日のライブ。本編が終了し、暗転した舞台の上で彼のベースがスポットライトに照らし出される中、再びIKUZONEの映像が映し出される。彼の最後のライブとなったROTTENGRAFFTYとの対バンでの、ロックの喜びと充実感そのもののような演奏風景。そして……ヴィジョンに流れた「同志たちよ、共に歩もう」のメッセージ。IKUZONE生前から準備が進んでいたデビュー15周年のアニバーサリー・アルバム『LOUD&PEACE』も、改めて8月22日にリリースが決定。誰よりも日本のロックの現実と闘い状況を切り開いてきたDragon Ashは、再び前へ、先へと歩き出した。そんな彼らの「今」の想いを、この先のライブで/フェスで、1人でも多くの人に目撃し体感してほしい。切に願う。(高橋智樹)