シンガーソングライターとして活動しながら芸能活動をすることは今の時代珍しくない。現に彼女もグループとソロの活動を並行させていた。バラエティ番組などで活躍する彼女の姿を観たい人々や、そこから彼女の音楽に興味を持つ人も多いだろうから、露出の場が増えることはプラスになることが多いはずだ。だが彼女はそれをしない。考えられる理由としては、世間からいちシンガーソングライターとして認められるべく、日々鍛錬を重ねているからではないだろうか。彼女はいつの時代も実直にたゆみなく、強い意志でもって自分自身を突き動かしているのだ。
2ndシングル『棘』は、彼女の根幹にあるタフネスと新しい挑戦が感じられる充実のシングル。まず表題曲には、歌詞の一つひとつが彼女の怒りや葛藤、反骨心や痛み、ポリシーが露になっている。そのなかで彼女が訴えているのは「自分らしくいたい」という願いだ。それは自分のことだけではなく、窮屈な思いをしながら生きている我々リスナーにも投げかけられた言葉だ。その視野の広さや思慮深さはグループ時代に磨き上げられたものだろう。第一線で活躍するなかで育まれてきた強い想いが、彼女自身が作詞作曲した楽曲で、そして彼女の歌と演奏で届けられるのは、とても意味深い。ひとりの人間の歩みがひとつの楽曲になったと言っていい。ふつふつと煮えたぎるような激しさをじっくりと感じさせつつ、どこかクールな印象を持たせるサウンドも、それを強く印象付けている。
カップリングの“feel the night”ではLUCKY TAPESのKai Takahashiをフィーチャリングし、ブラックミュージックの香りを取り入れたチルアウト感が心地いいポップソングを制作。“unreachable”ではライブのサポートメンバーも多く参加したことで、今の彼女のライブの鮮やかなバンド感が表現されている。どの楽曲も方向性は異なりながらも、彼女の逞しさや凛々しさが曲の根幹であるのが共通項だ。
“棘”でここまで自分自身をさらけ出すことに踏み切れたのも、カップリング曲で新しいチャレンジに挑戦できたのも、ソロアーティストとして本格的なスタートを切ってから得た充実感が大きいからだと推測する。春に行った全国ライブハウスツアー「I'm ready」でも、エッジーかつ度量も感じさせる硬派なステージを繰り広げていたが、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019ではその精度がさらにパワーアップ。この夏、ステージの上で生き様を刻み付けるように演奏と歌に没頭する姿には、彼女のルーツであるロックやパンクのスピリットが高揚とともに溢れだしており、それを強く物語っていた。隠していたわけではないが人目につきにくかった彼女の本性、そしてソングライター/アーティストとしての可能性――それらを『棘』から感じてほしい。(沖さやこ)