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テリー・ボジオ(フランク・ザッパなど)
公式Facebookで公開された「360度キット」のようなビッグ・ドラム・セットに象徴される通り、どちらかと言えば自らのドラム道を極める方向に情熱を注いできたテリー・ボジオのキャリアが、ロックの潮流と交錯して表舞台で脚光を浴びた瞬間は、実はそう多くない。それでも、あたかも流体の如く滑らかな辣腕ドラミングで、コラボレーターの衝動や個性を緩急豊かなリズムとして具現化し得るその才気は、ロックの歴史の重要なファクターとして今なお凛々しい輝きを放っている。
最初にテリー・ボジオの名前を広く知らしめたのが、フランク・ザッパ・バンドでの約3年間の活躍だった。その3年間は同時に、アート・ロック/フリー・ジャズ/ハード・ロック/R&B/前衛音楽など多彩なエッセンスに、批評性とウィットとユーモアを過積載したザッパの楽曲世界が、テリー・ボジオのドラムと共鳴し合うことで、その妖気をひときわ鮮明に響かせていた時期でもあった。
ジャズとサイケとロックンロールが暗黒の淵めがけてチキン・レースを繰り広げる“シティー・オブ・タイニー・ライツ”から一転、狂気と陽気が弾け回る“ダンシング・フール”の躍動の極致へ、といった『シーク・ヤブーティ』の展開は、リズムで呼吸しリズムでコミュニケートするボジオのスタイルを何より克明に伝えている。
その後U.K.に2代目ドラマーとして加入したボジオ。“シーザーズ・パレス・ブルース”や“ランデブー6:02”をはじめ、プログレッシブ・ロックの趣とアーバンな憂いを兼ね備えたジョン・ウェットンの歌の世界観を、驚くほど高精細な景色とともに立体化させている。前任者でもある名匠ビル・ブルーフォードのタイトなリズム運びとはまったく異なるしなやかなアプローチのプレイを通して、『デンジャー・マネー』を70年代プログレ後期の名盤として結実させてみせた。
自身のリーダー・バンド=ミッシング・パーソンズの活動や、ジェフ・ベックのグラミー受賞作『ギター・ショップ』への参加、デュラン・デュランやKOЯNのサポートなども行ってきたボジオだが、90年代以降はその軸足を「ソロ・ドラマー」としての音楽探求に置き多数の作品を発表。ドラム融通無碍とでも呼ぶべき次元を目指し続ける姿勢は、2020年の今こそ魅力的に映る。(高橋智樹)
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