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彼らにとってはCDとして初めての音源である『Free Throw』の“真空”で始まり、代表曲を経て、再び『Free Throw』の曲“翌日”で終わったライヴ。突然、セットリストの大部分を聴衆の知らない新曲で固めるようなことがある彼らが、ここまでベスト的選曲でライヴをやることはほとんどない。そして、それに応えるようにライヴの内容も実に素晴らしいものだった。3人の顔を照らす僅かな照明を除いて、まったくの暗闇から始まった“真空”。その後もメンバーの後ろや横からの僅かな光だけで2曲目の“空をなくす”に入っていく。全編とにかく通常でのライヴではあり得ない照明の暗さ。でも、彼らの音は少しずつ闇の色を変え、場の温度を上げていく。暗がりのなかを揺れる観客の影。どんどんと強くなっていく五十嵐の声。そして、それが見事に表れていたのが、初めて色のある照明が照らされたニューシングル“My Song”だった。五十嵐の歌が描く世界は決して喉越しのよいものじゃない。この世界の暗部を彼は暴き出し、こちらに向けて差し出してくる。でも、それは誠実さがゆえなのだ。そして、このニューシングルは、その誠実さをどうにかポジティヴな形で鳴らす。その後の“夢”や“パープルムカデ”はネガティヴな世界を描いた曲だが、でも“My Song”で鳴らしたポジティヴな表現の残響はずっと続いていた。彼らの照明と同じく、暗闇の中の僅かな光のように彼らはこの世界の僅かな肯定的なものを紡いでいくのだ。そして、最後に鳴らされた初期の名曲“翌日”。「明日」とは簡単に言えない彼らが描いたもの。そのコーラスは、最初とは完全に変わった闇の中で、大きく大きく響いていた。(古川琢也)
JAPAN CIRCUITのツアーはほぼ全制覇。シロップのライヴはもう通算30回目に近いという、筋金入りのシロップ・ファンの2人組。「もう言葉にできない」「五十嵐さんの手の動きをずっと見てました」とのことでした。