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 今年から新たに増設されたMOON STAGE。そのトップを飾るのは魂の震えをそのまま変換したような壮絶な歌声で聴き手の心に揺さぶりをかける表現者、矢野絢子だ。迎え入れる拍手が鳴り止むか止まないかの内におもむろにピアノを弾き始め、歌い始めたのは“かなしみと呼ばれる人生の優しさよ”。聴く者の心の扉を強引に開いてしまいそうなほど圧倒的な歌声は、それだけで涙が出そうなくらい、胸を震わせる鋭い力に溢れている。続く“てろてろ”は君を想う気持ちをひたすら歌い上げる名曲。誰もがただただ立ち尽くして彼女の歌をただただ受け止めている。曲が進むに連れて自分を剥き出しにした歌声が鋭さを増していく濃密なライヴ。途中、「名前だけでも覚えてくれたら感動します」と言ったが、彼女の歌は決して忘れられぬ衝撃をフロアを埋めたすべての人の心に刻んだはずだ。

 そして、続くは東京60WATTS。1曲目の“昇天”からアッパーなビートに胸が弾む。フロアも先ほどまでとは一転、ピョンピョン飛び跳ねてノリまくる。腰の据わったグルーヴといい、ガンガン弾き倒して1曲の中で多彩な表情を見せるオルガンとギターといい、飛び回り拳を振り回しながら歌う大川の楽しげな姿といい、これで盛りあがらないはずがないし、実際歓声は増す一方。そして、四畳半一人暮らしみたいな生活臭に満ちている歌に込められたささやかな幸せは、会場を包み込んでしまいそうなくらい大きく、誰もが共有できる普遍性に溢れているのだ。オーディエンスを煽りに煽った“すべてのバカものへ”や、満場のハンドクラップを巻き起こした“東京60WATTSのテーマ”まで、一瞬の隙も無くハッピーな空気に満ちていた。

 そして、転換の間のマイクテストでも、中内(G/Cho)が「雪が好きだー!」と叫んだり、岩崎(Vo/G)がアカペラで歌ったりして楽しませてくれたセカイイチ。いつどこで観るライヴも衰え知らずのポジティヴィティに溢れている彼ら。もちろん今日も聴き手の心と繋がろうとするような力ある演奏が気持ちいい。優しいメロディをテンションの高まるままにかき鳴らした“シルクハット”も、しっとり聴かせた“三日月”も、どんな曲調の音楽も骨太なアンサンブルで響かせる。絶え間なくかき鳴らされるギターに乗って伸び伸びと歌う“石コロブ”と、ラストの “ふりだしの歌”が特に素晴らしかった。たくましいロックサウンドと優しい力に溢れたメロディを武器に、来年はさらなる進化を見せてくれるんじゃないか。そんな期待をせずにはいられない、胸の高鳴るライヴだった。(今若雄紀)





矢野絢子
1 かなしみと呼ばれる人生の優しさよ
2 てろてろ
3 闇の現
4 氷の世界
5 坊や
東京60WATTS セカイイチ
1 昇天
2 WATTS GOing on!
3 目白通りいつも通り
4 外は寒いから
5 すべてのバカものへ
6 東京60WATTSのテーマ
1 聞いてますか お月様?
2 シルクハット
3 三日月
4 石コロブ
5 神通力
6 ふりだしの歌