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太陽は頭の真上にやってきた午後1時。GRASS STAGEは強い日差しで、じっくりこんがり焼かれているような暑さ。そこに、キーボーディストとともに、静かに登場した森山直太朗。拍手がこぼれるなか、“さくら”のピアノの伴奏がソフトに鳴り響いた。彼がそっと息を吸い込み歌いだすと、オーディエンスが静寂に包まれた。存在感のある、力強い歌声。そして、言葉はすくないものの、やさしいビブラートやファルセット、深いひだのある声が、歌詞の奥にある心、心のうちに広がる景色をゆっくりと目の前に広げてみせる。さくらの季節ではもちろんないけれど、はらはらと花びらが風に舞うような、懐かしくて切ない感覚が湧き上がってくるような気分にさせる。一瞬、暑さが遠のいて、クライマックスとともに、それまで息を飲んで聴いていたオーディエンスから大きな拍手と歓声とがおきた。 続く、“知らないことが多すぎる”からは、バンド編成へ。ゆったりとしたビートに、ストリングスの音色がじわりと広がって、オーディエンスは心地よくリズムに体をゆだねていく。エヴァーグリーンのメロディに、ポップな歌詞が映える“どうしてそのシャツ選んだの”、そしてわがままな男の心情を歌いながら、徐々にどきりと胸を突くシリアスなテーマへと踏み込んでいく“することないからセックスしよう”――。フレンドリーなメロディで酔わせ、ときにおちゃらけたような語り口だったり、シニカルな言葉を投げかけたりするけれど、彼がその歌にこめた真意は確実に聴き手の胸のど真ん中を射抜いて、思いがけない感情をあふれ出させる。「歌う」とはそういうことなんだろう。  彼がROCK IN JAPANに出演するのは、じつに久々のこと。その当時と同じ、“さくら”でスタートした今回のステージだったが、こちらが「おかえりなさい」となんていうのはとてもおこがましいくらい、静かな力強さと圧倒的なスケール感、深い歌声でGRASS STAGEを魅了し、感動を残していった。(吉羽さおり)