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「うわぁ、ありがとうございます。改めまして、溝渕 文です。嬉し過ぎて何を言おうか忘れたので、次の曲いきます」と、アッケラカンとステージをこなしてしまう素振りも、彼女の大物感を後押ししている気がする。フルートを交えての“Loophole”から、音数が一層ミニマルになって溝渕の歌唱力を引き立てる、メジャー・デビュー・アルバムのタイトル曲となった凛としたラブソング“アサガタノユメ”と、どんどん彼女の歌はその真価を露にしていく。
ファンキーなパーカッションが効いた“Color Color Color”でさえ溝渕はほぼ直立不動の姿勢で、ほんの気持ち程度にサウンドに合わせて身を揺する程度なのだが、その歌だけでもの凄い躍動感をもたらしてしまう。そしてこのアコースティック編成で、目一杯の元気を浴びせかけるようにロックなフィーリングで届けられる“CHARGE”だ。前線のオーディエンスの好意的な反応が何か可笑しかったのか、溝渕は歌いながら思わず吹き出したりしてしまう。このどこまでも自然体な部分と、歌いだした途端にコンマ数秒で到達してしまう途方もないスケールの表現力。このギャップこそが彼女の魅力だろう。
最後にサポート・メンバーの名前を順にコールし、あっという間に辿り着いた今回のステージの最終ナンバー“雨粒”を披露する。深いスウィング感に満ちた、新人なのにまるでベテラン・ジャズ・シンガーのように届けられるこの歌。余計なものは何もない、ただ特別な歌がある。今後、溝渕 文はもっともっと多くの人に知られるシンガーとなるはずだ。(小池宏和)
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溝渕 文 のROCK IN JAPAN FES.クイックレポートアーカイブ