ローマ教皇フランシスコが4月21日に亡くなった後、その過程を「かなり正確に描かれた」と話題になった『教皇選挙』のアメリカでのストリーミング視聴数が急増。前週比3200%、亡くなる前日比では283%の上昇を記録したと、The WarpやVarietyが報じている。アメリカでは亡くなった翌日、アマゾンプライムでの配信がスタートしたこともこの数字に大きく影響している。
https://www.thewrap.com/conclave-movie-viewership-pope-francis-death/
1)スコセッシ監督の追悼メッセージ
宗教的テーマに深く関わってきたマーティン・スコセッシ監督も、いち早く追悼コメントを発表した。
「教皇フランシスコが世界に、教会に、教皇職にもたらした意義は、語り尽くせないほど大きいものです。しかし、その詳細は他方々に委ねたいと思います。彼はあらゆる意味で並外れた存在でした。自らの過ちを認め、知恵と善意を放ち、善きものへの揺るぎない献身を貫いた人です。人間にとって無知が恐ろしい災厄であることを魂で理解していました。そのため、学び続け、啓蒙し続けたのです。そして普遍的で絶え間ない許しを受け入れ、説き、実践した人でもありました。
私にとって彼を失った悲しみは非常に大きなものです。幸運にも知り合うことができた私は、彼の存在とその温かさを心から恋しく思うでしょう。世界にとっての喪失は、計り知れません。しかし、彼が残した光は、決して消えることはありません」
2)『教皇選挙』日本でも公開中
今年のアカデミー賞で8部門にノミネートされた『教皇選挙』は、日本では3月20日から劇場公開。現在も一部の劇場で上映されている。観ていない方はぜひ。予告編はこちら。
3)今作について、監督のエドワード・ベルガーと、主演のイザベラ・ロッセリーニがトロント映画祭で語っていたこと。
監督エドワード・ベルガー
ーー撮影はローマですが、バチカン内の撮影は不可能です。セットの再現について?
「まず、システィーナ礼拝堂を建築しました(笑)。7mの高さまで。
ローマのチネチッタ(スタジオ)にセットを建てたのだけど、そこはフェデリコ・フェリーニや、イザベラ(・ロッセリーニ)の父であり、伝説のロベルト・ロッセリーニも撮影した場所だ。そんな歴史が感じられる場所でイザベラと撮影できて本当に光栄だった。
バチカンも何度も見学したけど、映画だからこそ少しだけ自由に再現した。古い教会を舞台にしながら、現代的なコントラストも入れたかった。例えば枢機卿たちが、電子タバコを吸っていたり、iPhoneを持っていたり。彼らも神ではなく、僕たちと同じ存在なのだと示したかった。
また、枢機卿が宿泊するサン・マルタ館は、現代的で、刑務所のような狭く閉塞感のあるセットにした。レイフ(・ファインズ)演じる主人公が閉じ込められている感覚を強く出したかった。彼が部屋にいる時聞こえてくるのはネオンライトが発するノイズと彼の息だけ。だから、彼が最後にカーテンを開けて日の光が差し込むシーンで、やっと解放が訪れる。生命が蘇り、女性の笑い声も聴こえ、教皇選挙から解放され、未来が始まる」
ーー映像表現が非常に印象的でした。意識したことは?
「1970年代のアラン・J・パクラ監督の政治スリラーに影響を受けた。『パララックス・ビュー』や『大統領の陰謀』のような。緻密に作られた映像のすべてが物語を語っている、そんな映画を目指した。編集の切り替えも最小限にして、レイフの表情を中心に捉えた。観客が俳優の感情の変化をじっくり感じ取れるようにしたかったんだ」
ーー脚本はあなたが書いていないですが物語の何に惹かれたのですか?
「ピーター・ストローハンの脚本には魂がある。物語が幾重になっているしね。レイフが抱く“疑い”を軸にしたスリラーでもあり、さらに、『西部戦線異常なし』では、パウル・ボイマーの視点を通して観客が映画を体験したのと同様に、レイフの内面的な旅に観客が共感できると思った。自分の決断や、自分の過去に疑いを持つことは、誰でもあるからね。また、登場人物一人ひとりが、僕ら自身の内面の象徴にもなっていると思う。政治や選挙、民主主義への疑いは、世界中の人が持っていると思うから。ただこれはワシントンD.C.の物語ではなくバチカンだ。あまりに知られていない世界を舞台にしてる点も魅力的だった」
ーー権力争いについて描きつつ最後には希望があるようにも思えます。
「僕自身、未来に希望を持っているからね。この世界一古い教会の家父長制度には、ひびが入っていて、そこから希望の光が差し込んでくる。レイフが見る光は、未来の希望の象徴なんだ」
イザベラ・ロッセリーニのコメント
彼女は、2月24日の俳優協会賞の際に、スピーチで、ローマ教皇の回復を祈っていた。
「まず第一に、教皇フランシスコの一日も早い回復を心よりお祈り申し上げます。私たちは教皇のことを本当に本当に心配しています。私たちは、教皇フランシスコを愛しています。彼のご回復を心から願っています」
シスター・アグネス役を演じ、オスカー助演女優賞に初ノミネートされたイザベラ・ロッセリーニ。出演時間は短いながら、トロント映画祭では彼女の台詞に大きな拍手が湧き起こった。
⚫︎男性社会における女性の声を象徴している役柄について。
「脚本を読んでいるとき、この役を、ほとんど影のような存在だと想像していました。常にそこにいるけれど、常に後ろに残り、そして常に見守っている存在。でも、誰かの影であっても、声を発しないからといって、従順である必要はないんです。私は修道女の学校に通っていましたが、彼女たちは決して従順ではありませんでした(笑)。
カトリック教会では、男女の役割が顕著ですが、そういう構造はどこにでもあります。私の家でも、母や祖母が、ただ一瞥するだけで子供たちを黙らせました(笑)。だから、シスター・アグネスにも、沈黙の中にあっても、そんな権威を持たせたかったのです」
⚫︎修道女たちのコミュニティについて。
「私はローマ出身で、カトリック系の学校に通っていました。祖母はとても信心深かったですが、家族全体はそこまででもありませんでした。でも、ローマに育ったならバチカンについては自然と知っていますし、修道女もあちこちにいるので、馴染みがありました。そして、友人たちと一緒に再びローマに戻ることができたのは本当に嬉しい経験でした。ジョン・リスゴーやスタンリー・トゥッチとはとても親しい仲で、彼らとローマを再発見し、カルロス・ディエスとも一緒にその喜びを分かち合えたのは、特別なことでした」
⚫︎有名なイタリアのスタジオ、チネチッタで撮影したことについて。
「伝説的な監督たち、フェリーニや、私の父などが絵描きや大工、電気技師といった素晴らしい職人たちをたくさん残してくれました。おかげで、今もチネチッタには、素晴らしい職人たちがそろっています。だから、『もちろんシスティーナ礼拝堂も再現もできます』と言ってくれました(笑)」
4)『2人のローマ教皇』も視聴数417%上昇。
また、2019年の映画『2人のローマ教皇』(Netflixで配信中)の視聴数も417%増加。教皇ベネディクト16世が教皇フランシスコに座を譲る過程を描き、ジョナサン・プライス(助演男優賞)、アンソニー・ホプキンス(助演男優賞)、脚本家アンソニー・マクカーテン(脚色賞)がアカデミー賞にノミネートされた。
予告編はこちら。