18年の『Tha Carter V』以来となる、リル・ウェインの新作。ウェインは古巣のキャッシュ・マネーと4年越しで対立が続き、すでに出来ていた『Tha Carter V』のリリースを拒み続けていたが、ウェインから起こしていた訴訟が示談で落着し、キャッシュ・マネーからも契約解除となり、晴れて同作をリリースした。この『Tha Carter』シリーズは、ウェインの一番正規のリリースとみなされるものなので、かなり手堅い楽曲で構成されることになるし、統一感も強い。特に『Tha Carter V』については4年越しで手元に取っておいたものだったので、実は今作が独立後に制作してリリースする初のアルバムということになる。
ただ、今回は『Tha Carter』の冠がつかないので、自由なアプローチで臨んでくるのは予想されたし、実際、誰にも干渉されない状態で思いつくままに制作したトラック集となっている。『フューネラル』、つまり、「葬儀」というタイトルは、契約解除以前の自身をめぐる状況を弔うという意味での呼びかけになっていて、それはまた、今現在のウェイン自身の自由さを堪能する作品だということでもあるのだ。
いずれにしても、手当り次第トラックをピックアップしては、ウェイン独特の節回しのラップを聴かせていくところが醍醐味で、曲によっては自身のテクニックとスキルもみせつけてみせる。オープナーの“Funeral”でもその技をたたきつけており、特定の相手を想定したものではないだろうが、《いつも通り棺の蓋は閉めたまま》というのは、死者が惨殺されたため見るに堪えないという意味合いで、それだけ激しい決別を表明してみせているのだ。
収録曲は24曲と相当にあり、思いつくままに制作された感が強いので、とっ散らかった印象もあるが、曲に合わせて抑揚をつけては自身のスキルを思ったままに披露していくところが本アルバムの魅力だし、00年代には文句なしに最強MCのひとりだっただけに聴きどころは多い。楽曲によっては自身の内面の深層を垣間見せるものもあり、無一文になった悪夢にうなされ、目を覚まして絶叫したという“Dreams”の強烈さとポップさは見事。地元ニューオーリンズ風のビートの“Clap For Em”は純粋に楽しいトラックで、こうした原点回帰もこの作品の目的のひとつのはずだ。母にDVを働いた父親の非道さゆえ自分もサタンなのだとうそぶく“Bastard (Satan’s Kid)”などもウェインのスキルの真骨頂。もうちょっと整理した方がよかったのだろうが、聴きどころは探せばいくらでもある力作。 (高見展)
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