LiSA、気高きポップの野性と覚醒、雄大な物語と希望の風景――。『LEO-NiNE』&『炎』が拓く「LiSA新次元」に迫るロングレビュー

LiSA『LEO-NiNE』『炎』
2020年10月14日発売
ALBUM & SINGLE
『LEO-NiNE』通常盤
『炎』通常盤
《誰かのために強くなれるなら/ありがとう 悲しみよ》(“紅蓮華”)
シングルリリースから1年以上を経てもなお“紅蓮華”は『鬼滅の刃』の象徴的楽曲としてのみならず「LiSAの新たな代表曲」としての凄味と輝度を放ち続けている。それは取りも直さず、己の運命と対峙する竈門炭治郎ら『鬼滅~』登場人物への「共感」では到底収まらない《ありがとう 悲しみよ》のパンチラインを生み出すに至ったLiSAの、身を焦がすほどに奮い立つ変革への意志の発露に他ならない。
「『鬼滅~』のタイアップによってLiSAは国民的レベルの存在になった」のではない。よりいっそうの強さと包容力を備えた歌を求めるLiSAの想いが、触れる者すべてを震わせるほどの訴求力を“紅蓮華”に宿らせずにおかなかったし、その想いの強さこそ“紅蓮華”をこの時代のマスターピースにした原動力だった。そういうことだと思う。
そして――その燃え盛る冒険心はそのままニューアルバム『LEO-NiNE』にも熱く息づいている。

前作『LiTTLE DEViL PARADE』から約3年半ぶり・5作目のフルアルバムとなる『LEO-NiNE』。“紅蓮華”をはじめ“unlasting”“赤い罠(who loves it?)”“ADAMAS”“ハウル”といった既発曲群を含め、LiSAのアンテナの感度と表現の深度を自ら証明するようなスケール感に満ちた名盤である。
《愛し抜くと決めたよ/そして愛される覚悟も決めたんだ》と高々と掲げる決意が、エピックロックの音像とともにスタジアム級の幕開けの景色を描く“play the world! feat. PABLO”。《鉛のように重いパンチ食らうたびに/誰かの想いの強さを知った》という凄絶な感情の奔流をインダストリアルなヘヴィロックに重ねた“cancellation”。静謐なピアノバラードの風景を《愛してしまえば 地獄で/離れてしまえば 孤独だ/もう戻れない》の一節で業火に包んでみせる“愛錠”。“晴レ舞台”や“1センチ”といったワイルドなロックンロールの加速感をさらに強烈に煽り立てていく、LiSAの熱唱のドライブ感……。しかし、今作をLiSAにとって金字塔的な1枚にしているポイントはまさに、多彩な13の楽曲が乱反射し合いながら「その先」に指し示す「愛される覚悟」にこそある。
音楽シーンに痛快な一撃を放ち続けるカウンターとしてではなく、リスナー/オーディエンスの心の闇をも真っ向から抱き止めて巨大なポップの絶景へと導こうとする、揺るぎないバイタリティ。自らの苦悩や葛藤を歌の推進力としてフィードバックしてきたLiSAだからこそ、《世界に打ちのめされて負ける意味を知った/紅蓮の華よ咲き誇れ! 運命を照らして》(“紅蓮華”)の言葉を突き上げることが可能だったし、その音楽を愛する僕らと魂のギアを強靭に噛み合わせて時代を揺り動かすことができた、ということだ。
《愛されたくて その愛に応えたくて/騒がしい世界で最高な今を駆け出してる》――最終曲の“BEAUTIFUL WORLD”で歌われるフレーズは、そんな彼女のさらなる「時代との共鳴」への希求をリアルに伝えている。

そして、『LEO-NiNE』と同時発売されるシングル『炎』。10月16日公開予定の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』主題歌として、“from the edge”(『鬼滅~』TVシリーズのEDテーマ)に続き梶浦由記とタッグを組んだ楽曲だ。
悲壮な宿命が幾重にも交錯する『鬼滅~』の物語性にしなやかに寄り添いながら、その刹那のひとつひとつを包み込むような、悠久のボーカリゼーション。緻密な転調を繰り返し唯一無二のドラマ性を展開する梶浦の楽曲世界を全身で伸びやかに呼吸しながら、その歌声は凛とした美しさと、悲しみに屈することなく前へ先へと踏み出す人間の生命力を、どこまでも鮮明に体現している。これまでLiSAが歌ってきたタイアップ曲のどれとも異なる奥深さと切迫感を持ったこの楽曲は、『LEO-NiNE』とはまた別の角度から、シンガー/表現者としてのLiSAの真価をくっきりと浮かび上がらせている。

「もう自分を大きく見せなくていいって思ったというか、今の自分のラインを知った感覚があって。やっと自分の心と身体が同じ線に立った感じ」(本誌2019年9月号より)
『紅蓮華』リリース時のインタビューで、自らの新たなモードをそんなふうに語っていたLiSAの発言が印象的だった。「別人格を借りた非日常のパフォーマンス」というポップアイコンとしての在り方を刷新し、「シーン最前線で闘うアーティストとしての意味性」すらも自身の日常的なファイティングポーズとして受け入れたLiSAの現在地を、その言葉は如実に物語っていたからだ。LiSAは紛れもなく今、新たな次元に立っている――。そんな確信を、『LEO-NiNE』と『炎』というふたつの作品は与えてくれるはずだ。(高橋智樹)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2020年11月号より)

【JAPAN最新号】LiSA、最高傑作『LEO-NiNE』のすべて&新曲“炎”最速インタビュー――無敵のロックヒロインが今見ている景色とは?
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