こんなバンドを待っていた

ザ・ヴァクシーンズ『ワット・ディジュー・エクスペクト・フロム・ザ・ヴァクシーンズ?』
2011年05月11日発売
ALBUM
なんといったってこのタイトルだ。「何を期待してたの?」という、半ばやけっぱちのような問いかけへの答えは、すべての聴き手に委ねられている。「これが聴きたかった」と答えるかどうか、すなわち、このレコードを気に入るか気に入らないかは君の自由――ブラザーと並びこのヴァクシーンズがUKギター・ロック復興の当事者である所以は、ひとえにそんな潔さである。

はっきりいってしまえばヴァクシーンズの4人は何も新しいことはしていない。サウンド面であえて引き合いに出すとすればC86、クリエイション初期ということになるだろう。むしろめちゃくちゃノスタルジックだ。しかしながらそのノスタルジアが、サウンドスタイルの振り返りによってもたらされたものではなく、「歌」にとっての必然だったというのが大事なところだ。ひたすらシンプルなスリー・コード、渋すぎないバリトン・ボーカル、削ぎ落とされたドラム・ビート。そんなサウンドに乗せて、彼らはどこにでもある、でも音楽がなくては成立しないような日常の風景や感情を、極めてまっすぐに、喜びと哀愁をごちゃ混ぜにしながらぶつけていくのだ。このアルバムを『イズ・ディス・イット』になぞらえて、ストロークスの再来がついに英国から!とイギリスのメディアは騒いでいるが、たしかに、真夜中にパーティーに連れ出してくれないかな、と、まるで冗談半分みたいに歌った彼らと同じようなリアリティがここにはある。キッズはもちろん、かつてキッズだった大人の心もぎゅっと掴んで離さない。こんなロック・ミュージックが聴きたかった、それだけで十分だ。(羽鳥麻美)