R&Bやソウルなどのブラックミュージック、ジャンルレスでクロスオーバーな80’s的なニューウェーブ感覚、さらにはラフなロックサウンドまで、FIVE NEW OLDほど、ひとつのカテゴリーで語るのが難しいバンドもいないだろう。滑らかな英語ボーカルが、洋楽か邦楽かという枠さえも無効にする。そんな彼らが最新作『BY YOUR SIDE EP』でついにメジャーデビュー。80’sのディスコサウンドを取り入れた軽快なドライブミュージックからメロウなミドルテンポのバラードまで、様々な魅力を感じさせてくれる全4曲。中でもリード曲“By Your Side”は出色の出来だ。ゴスペルとハンドクラップをフィーチャーしながら、彼らの背景にある音楽がすべてこの1曲に詰め込まれているようでもある。この自由で洗練されたサウンドがどのように生まれたのか、フロントマンのHIROSHI NAKAHARA(Vo・G)に話を訊く。
インタビュー=杉浦美恵
規模感がどんなに大きくなっても、お客さんとひとつになれるような曲を書きたい
──『BY YOUR SIDE EP』、4曲それぞれの楽曲が心地好くて、ついずっとループして聴いてしまいますね。今作がメジャーデビュー作ということで、これまでと気持ちの上での変化はありますか?
「バンドとして『メジャーだ』っていう感覚はそんなに強くなくて、まわりに『おめでとう』とか言われることで自覚したりしてます(笑)。それにともなって、『音楽を仕事にしていくんだな』っていう感覚が強くなったというか──仕事と言っても割り切った感覚ではなくて、これでごはんを食べていくんだなあっていう感じですね」
──制作に関しての変化は?
「プロセス的に大きな変化はないんですけど、リードトラックの“By Your Side”では、アレンジャーでしゅんくん(Shunsuke Kasuga)が入ってくれたりとか、これまでやったことのないことに挑戦するっていうのはありました」
──今回、“By Your Side”でKasugaさんが共同プロデュースとして入ったのはどういう経緯だったんですか?
「この曲を作る時にすごく悩んで、スランプって言うのかな──書きたいものに迷いが生じている時があって、『ちょっと書けないです』ってディレクターさんに言ったら『じゃあ、ごはん食べにいこうか』って言ってもらえて、その時ちょうどしゅんくんが来てたから、『紹介するよー』っていう流れでした。最初は飲みながら、『曲ができない時はどうしたらいいですか?』とか、相談してただけなんですけど、その後、少し曲作りが波に乗り出した時に、それでもまだ確実な何かをつかみ取れてなかったので、一緒にやってみたら何か新しい発見があるかもしれないなと」
──リード曲を作る時に悩んでいたんですか。それはどういう部分で?
「この曲を書く時に、ひとつ新しいことにチャレンジしてみようというテーマがあって、リズムは4つ打ちとか、わかりやすいものじゃなくても、今後僕たちが、より大きなステージに立たせてもらえるようになって、1000人、2000人、10000人と規模感がどんなに大きくなったとしても、どこでもお客さんとひとつになれるような曲を書きたいという思いがありました。だったらゴスペルかなとか、どんなタイプの曲がいいのか探りながら曲作りに挑んだんですけど、やりたいことが多すぎてまとまりがつかなくなって、どう終着点を見つければいいのか迷ってしまっていたんです。どんどんのめりこんで、わからなくなってしまったから、客観的に意見を言ってくれて、ソングライティングのできる人にアドバイスをもらいたいなあっていう話になって。結果としては、このタイトルにあるように、僕たちの音楽によって、お互いが近づけるような曲になったんじゃないかなと思っています」
──なるほど。HIROSHIさんの中で、とっ散らかってしまっていた思考を整理する必要があったんですね。
「もう、かなり散らかっていましたね。この曲に対して7〜8パターンくらいアレンジを考えていたんですけど、考えすぎて頭でっかちな状態が続いていたんです。それを、『じゃあこのパターンのここはいいと思う』とか『こことここはつなげられそう』とか、しゅんくんが客観的にまとめてくれたのを聴いて、ああ確かになと思う部分がいっぱいあって。僕自身が、この曲に対して一歩引く時間を与えてもらえたのでよかったですね。良いはずなのに良いと思えていなかったことにも、ちゃんと『これはありだ』と思えるような時間を与えてもらったという感じ」
蓋を開けてみたら7年間自分たちが作ってきた楽曲の集大成になっていた
──FIVE NEW OLDにしても、HIROSHIさん個人にしても、やりたいこと、トライしてみたいことが本当にたくさんあるからこそ、そういう迷いに直面したと思うんですけど、この曲ができたから、今回のEPのコンセプトも固まったという感じですか?
「逆なんですよね。他の3曲は前からある曲で、去年『WIDE AWAKE EP』を作り終えた段階で、すでに書き始めていた曲なんです。その3曲に関しては、やりたいことが明確に見えていて、それぞれに違うタイプの曲なので、それをひとつにまとめあげるような1曲がほしいというところで、“By Your Side”に取り掛かったんです」
──今作はそれぞれに違った魅力の楽曲が並んでいながら、全体としては夏っぽくて、ブラックミュージックの心地好さや80’sっぽい自由さが漂っているような気がします。
「今やりたいのがこうだったというだけで、もしかしたら次の作品ではまた変わってる可能性もあると思います。スタンス的には、例えばレディオヘッドみたいに、やりきったことはもうやらない、みたいなところがあるので、自分の中でもうやりきったなと思えば変わっていくだろうし。だから今作は、自分たちが今やりたいと思った4曲を並べたっていう感じです」
──手応えというか、できあがってみてどんなことを感じましたか?
「やりたいことをやらせてもらったなあっていう感じがすごくあります。“By Your Side”は新しいことに挑戦させてもらったんですけど、出来上がって蓋を開けてみたら、7年間自分たちが作ってきた楽曲の集大成みたいになっていて、すごく面白いなあって思いました。ゴスペルやソウルのリズムがベースにありつつ、Cメロで表打ちに変わるところとか──もともとN.E.R.D.の“Sooner or Later”っていうサビが表打ちになる曲があって、その雰囲気をベースにして書いてたんですけど──それをやってみたら、自分的にはオアシス的な感じもあるなあって。そこだけすごくロック感が強かったり、でも基本的にはグルーヴ感があったり。自分たちのルーツを1つの曲に詰めることができたなあと思います。意図せず作っていても、やっぱり自分の中に今まで蓄積されたものが自然と出てきて、曲から教えられることって多いなあといつも思います。自分のことって実は自分では全然わかってなくて、アウトプットしたものに自分自身のことを教えられているような気がしますね」
──無意識のうちに、自分の中にあるものが溢れ出して、すべてアウトプットしたかったんでしょうね。だからまとまりがつかなくて悩んでしまったというか。
「バンドとして自然に出てきた結果なんだなあって思います。あんなにまとめるのに苦労してたはずなのに、出来上がってみれば、すごくFIVE NEW OLDっぽいなあって」
──FIVE NEW OLDのアンセムとして今後も大切にされるような曲だと思います。これを完成させたことは、ひとつ新たな自信にもなったのでは?
「そうですね。もっともっと面白いことができるっていうか。自分の中で『こうじゃなきゃいけない』って思っていた固定観念を壊せるんじゃないかなって。このグルーヴだからこのリズムは違うとか、そういうのをもっと取っ払ってやれそうな気がしました」
アニソンには、自由で尖った精神でやってる印象を僕は受けたんです
──“By Your Side”を作っていく段階で、縛りのようなものにもがいていた部分もあったんですか?
「けっこう自分の中で『スタンダードなものが好き』っていうところがあって、曲を作っていても『これはストレートにこのままいったほうが気持ちいいな』とか『混ざると気持ち悪くなっちゃうかも』って思ったりすることがあるんですよ」
──そこが面白いですよね。いろんな音楽が好きでありながら、そこを無闇に混ぜるのは躊躇してしまうっていう(笑)。
「そうなんです。そこはためらうくせに、音楽はなんでも好きで聴いてるから、作り手としての自分と聴き手としての自分のギャップみたいなものがあったりするんですけど、それを取っ払って──。まあ、完全に取っ払ったわけではないんですけど、そのバランスを自分はもうちょっとうまく持ちながら、これからはやっていけそうな気がしています」
──『BY YOUR SIDE EP』はHIROSHIさんがひとつ殻を破って出来上がった、「成熟」という言葉がふさわしい作品になりました。一方でFIVE NEW OLDにはロックサウンドで聴かせる魅力的な楽曲もあるわけで。これからどんな方向性に向かうのか、作品ごとに楽しみだったりもします。
「ロックサウンドの楽曲を今後はもうやらないってことは全然なくて、ジーザス&メリー・チェインとかキュアーとか、あのあたりの歪んでて、きらびやかな曲も好きだし、シューゲイザーも好きなので、そういう意味ではまた歪んだ音に帰ってくることもあるだろうし。今はトム・ミッシュとかを自分のモードで聴いてたりするんですけど」
──ほんとに多様な音楽を聴いてますよね。HIROSHIさんのその良い意味での雑食性って、どうやって培われたんですか?
「幼い頃、うちはけっこうローテクな家で、ネット環境も整ってなかったし、僕はオフラインの環境で音楽を聴きあさっていたんです。だから知識的に検索して何か情報を得るっていう経験が少なかったんですよね。例えばCDを1枚、家にあるものをぱっと聴いた時に、これがロックなのかソウルなのかっていう判別は自分でもつかないし、誰も教えてくれないし、よくわからなかったんです。だからデフ・レパードを聴いて『メタルだ!』って思ったし、ブラックミュージックにしても、聴いてみてこれがヒップホップかそうじゃないかっていうのはさすがにわかるけど、じゃあR&Bとファンクの違いって何だと言われたら全然わかってない──そういう状況で音楽に触れていたから、逆にいろんな音楽を聴けたのかなって思います。自分の中でカテゴライズしてないから」
──それで今でもジャンルレスに音楽を聴いていて、実際、FIVE NEW OLDのサウンドにも、それが反映されるという。
「ひとつ、雑食じゃなかったところがあるとしたら、家にはすごく洋楽のCDが多かったので、日本の歌謡曲やJ-POPに触れる機会があまりなかったっていうのはありますね。聴く機会がなかったからなのか、自分の中にすっと入ってこない部分があったんです。最近のほうがよく聴くようになりました。高校くらいから、友達が『アニソンはいいよ』って言うから、なぜかアニソンをよく聴くようになって」
──洋楽をずっと聴いていて、いきなりアニソンのように情報量の多い楽曲に触れると、音楽に対して逆にカルチャーショックのようなものを感じませんでしたか?
「最初に思ったのは、アニソンはかっこつけてないなっていうことですね。あくまでも『萌え』というものを大事にしていて、それが伝わればいいという潔さがあって、その範疇の中であれば何をしてもいいという、ある種、自由で尖った精神でやってるという印象を僕は受けたんです。それが面白くて聴いていたのかもしれない。振り切ったものが好きっていうのもあると思いますけど」
まだまだ欲求不満です。毎回出し切ってはいるけど、それでもまだ満たされない
──ところで、今作はEPでのリリースで、次はそろそろフルアルバムにも期待してしまうんですが、次回作については、すでに何か考えていたりしますか?
「曲はほんとにいろいろあって、まだラフスケッチばかりですけど、わくわくするものを作りたいなと思っています。今は自分でも自分が作るものにわくわくしている感覚があるんですよ。インストの曲とか、アンビエントもやりたいし、アルバムならインタールードとかも入れられるなあとか、自分のやりたい音をどんどん表現したいですね。乾いた音でアコースティック1本の曲とか、ラップとか、とにかくやりたいことはいろいろあって(笑)」
──まだまだやれていないことがいっぱいあるんですね。
「全然出しきれてなくて、そういう意味ではまだまだ欲求不満です。常に不満は抱えているんだと思います。毎回出し切ってはいるけど、それでもまだ満たされないから、満たされようとしてまた作るみたいなところがありますね。それがエネルギーだったりもします」
──今作がメジャーデビューということで、これから名前を知る人も増えてくると思いますが、FIVE NEW OLDとして、今後どういうバンドになっていきたいですか?
「最近すごく思うのは、遊べるだけこのバンドで遊びたいなっていうこと。最初に言った『これが仕事になるんだな』っていう言葉と矛盾するかもしれないですけど、より多くの人に『FIVE NEW OLDの遊びは楽しい』ってことが伝わればいいなって。自分たちが作るカルチャーに触れて楽しんでもらえたらいいなと思います」
──カルチャーというのは、リスナーに対して、もっとこんな音楽がある、もっとこんな音楽の楽しみ方があるよっていうような?
「そうですね。個々が自由であっていいっていうか。自由でいることにもっと安心できるような空間というか、そういう空気作りができたらいいなと思っています」
──逆に言えば、今はそういう自由を感じられていないという思いが強いですか?
「そうですね。徐々にカウンターカルチャー的にそういう音楽が生まれてきているとは思うんですけど、もっともっと多くの人にそれが広まればいいなと思っています。例えば、ライブやフェスで4つ打ちの曲でみんなで同じところで手を上げて、一緒に踊るっていうのもすごく楽しいとは思うんですけど、それ以外は楽しくないみたいになると、それはすごく悲しいなあと思って。もっと多様に、もっと個々の楽しみ方を持っていることに誇りを持てるような空気感が生まれたらいいのになって思います」
──もっと、いろんな楽しみ方があっていいと。“By Your Side”なんて、まさにそれを表したような曲だなって思います。いろんな音楽の要素が詰まっていて、みんなが一緒に歌ってもいいし、ただ体を揺らしてるだけでも気持ちいいし。
「個々の自由の集まりが、最終的にひとつになる感覚っていうか。みんなバラバラなようでいて、ひとつにまとまってるっていうのがいいなと思います。なんて言うんだろうな……二元論なんだけど一元論みたいな、うまく言えないけど、個がそれぞれに成立しているから、集合した時にまた1個の強い個になるっていう感覚──そういう空気感を作り出せたらなと思います」
ミュージックビデオ
リリース情報
2017年6月21日(水)
TFCC-89619 / ¥1,300+税
収録曲:
1. Not Too Late
2. The Dream
3. By Your Side
4. Too Good To Be True
ライブ情報
2017年7月21日(金) 愛知・名古屋ell.FITSALL(with UNCHAIN)
2017年7月30日(日) 東京・新代田LIVE HOUSE FEVER(ONEMAN)
2017年8月6日(日) 宮城・仙台enn 2nd(with phatmans after school / RAMMELLS )
2017年8月18日(金) 石川・金沢vanvanV4(with phatmans after school / NOISEMAKER)
2017年8月25日(金) 福岡・福岡Queblick(with MAGiC OF LIFE)
2017年8月27日(日) 大阪・梅田Shangri-La(TOUR FINAL ONEMAN)
提供:TOY'S FACTORY
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部