バンドの表現にはまだまだ無限の可能性がある――と感じさせてくれる3ピースの精鋭・été(エテ)。オキタユウキのハイトーンボイスが綴るポエトリーリーディングと鋭利なギターロックサウンドとのせめぎ合い越しに、緊迫と覚醒の新次元を切り開くようなその音楽世界は、昨年12月リリースのミニアルバム『Burden』にも鮮やかに結実していた。が、そこからわずか4ヶ月足らずで届いた全10曲の新作フルアルバム『Apathy』は、生演奏も打ち込みもオートチューンも自在に越境するソングライター=オキタの制約なきクリエイティビティと、それを具現化するバンドのポテンシャルの高さを、改めて雄弁に伝えている。内面世界と真摯に向き合う詞世界も含め、2019年という時代に痛快なまでの異彩を放つétéという音楽の核心に、メンバー全員インタビューで迫った。
インタビュー=高橋智樹
今までにないフォーマットを僕たちが作ろうとしている自覚はあって。それを既存のジャンル名にたとえるのは……毎回苦労してます(笑)(オキタユウキ)
――前作ミニアルバム『Burden』もサブスクリプションサービスで配信されているんですけど、そこでは「ROCK」というざっくりしたジャンル区分の中にétéはあって。たとえば50年後・100年後の人がétéの音楽に出会った時のために、何か適切なジャンル分け、タグ付けはできないかな?と。
オキタユウキ(Vo・G) ああ、確かに。
――そう思っていろいろ考えて、音に関して/言葉に関して、そのふたつの側面で全然違う言葉に行き当たったんですね。言葉や歌詞に関しては「subconscious」(潜在意識)、consciousの下の潜在的な部分に向き合って切り込んでくる表現であるっていうこと。で、音楽的には「cutting edge」、「切っ先」とか「先端」ですね。その両面を備えていることによって訴求力を持っている音楽だなあ、と聴いてて思ったんですが……みなさん、何か他に思いつくコピーはありますか?
全員 (笑)。
オキタ コピーというか、バンドのカテゴライズが難しいなとは思っていて。今までにないフォーマットを僕たちが作ろうとしている自覚はあって。それを既存のジャンル名にたとえるのは……毎回苦労してます(笑)。ジャンル名を訊かれがちというか――それは観てくれる人によって違うなっていう意識もあるし、僕たちも「自分たちはこうだ」って定義するのが難しいし。それを今はざっくり「ROCK」っていうフォーマットにパッケージしているっていう意識は、3人ともあるんですけどね。
ヤマダナオト(B) 帯に書いてある「暴力的なオルタナ」って結構好きだけどね(笑)。今は「オルタナ」っていう音楽のイメージがついちゃってますけど、言葉の意味としては本当にオルタナだなって。
――そうですね。王道・主流のものに対してのオルタナティブっていう。
オキタ でも、今言っていただいた「conscious」であることは、自分も常に意識しているので。あらゆる物事に対してconsciousであることっていう。それを他の人から言われたのは初めてだったので、ちょっとハッとしました。
――今回の『Apathy』も、エクストリームなアンサンブルもあり、打ち込みっぽいアプローチもあり、3人のバンド表現ではあるんだけど、本当に枠に囚われない、不思議なバランス感ですよね。
オキタ 確かに。前作の『Burden』で、枠を踏み越えた先というか――落ちてしまうか、そこに留まって新しく足場を固めるか、みたいなところを明確に意識できるようになったので。そのバランス感覚を保ったまま、どこまで拡張できるか?っていうのが今回のアルバムですね。
ヤマダ 土台になったよね、『Burden』が。
――それだけ発想が広がる分、要求されるポテンシャルも多いですよね、ドラムとベースを担うおふたりは――特にこのバンドのドラムは難しい!っていうのは、ミュージックビデオを観れば誰でも一発でわかると思います。
小室響(Dr) 情報量が多いですからね。
僕の強みはそういうルーディメンツ系だと思っているので。最近の日本のロックシーンで多用してる人はあんまりいないんだろうなって。「ちゃんと考えよう」と思って(小室響)
――情報量もそうですし、ちゃんとルーディメンツとか基本ができてないと――それこそシングルストローク一辺倒では叩けないドラムパートですよね。
小室 結構、僕の強みはそういうルーディメンツ系だと思っているので。最近の日本のロックシーンで多用してる人はあんまりいないんだろうなって。「ちゃんと考えよう」と思って(笑)。僕もヤマダもオキタも、根底にはちゃんと音楽的な基礎があると思っていて。ちゃんと練習してきてるから……ね?
オキタ (笑)。でも、本当に大事なんですよね。響は後から加入して、僕とヤマダはずっと一緒にバンドを組んでいて。もともと「楽器を弾くのが好きな人たちなんだな」っていうのは、会った時から思っていて。僕がétéを組んで進めていく上で、「めちゃめちゃ練習しろ」とかいうことは全然言ったことがなくて。ふたりともちゃんと音楽が好きだし、テクニックもそれに追いついて、それぞれがいろんな切り口から練習して、フレーズの幅を広げてくれるので。僕は安心していろんなことを投げられるというか。それは今回特に、今まで以上に感じました。
ヤマダ 大変ですけどね(笑)。「これやったことないよ!」っていうのが、今作でも何個かありましたけどね。3人ともルーツがバラバラだし、聴いてる音楽も好きなジャンルも違うんで。「それを持ってくると、僕弾けないなあ……」「じゃあどう弾こうかなあ……」っていうのは多いですね。
――もともとétéを始める時に、「こういう音楽をやろう」「こういうバンドを目指そう」みたいなコンセプトは、漠然とでもあったんですか?
オキタ ありませんでした(笑)。
ヤマダ もともとオキタとバンドをやってた時に――最初は違う女の子のボーカルがいて、残った3人で「どうしようか?」「じゃあオキタ歌うか」って始まっただけなので。音楽的なコンセプトみたいなものはゼロでしたね。
オキタ 音楽がやりたくてね(笑)。で、それからできた曲をやっていく中で、だんだん今の形になっていったという感じですね。ひとつ大きかったのは――2018年の3月の『I am』っていうシングルの前に、自主制作でミニアルバムを1枚作っていて、そこに入っている“眠れる街の中で”っていう曲がありまして(『Burden』にも収録)。それが今、僕らが提示している、ギターロックとポエトリーリーディングをしっかり掛け合わせた最初の曲だったんです。それが作れたことが結構大きいですね。そこからタームが切り替わったというか。
――トラック+ポエトリーリーディングでもなく、ラップとロックでもなく、違う温度の言葉とバンドサウンドがひとつの肉体性と質感に統合されているっていう……だから、言葉にしづらいんですよね。
オキタ (笑)。でもそれが、たとえばシンプルに「バンド演奏とラップ」とか、そういう出来じゃなかったっていうのが僕らの中でもあるんで。だからこそ、今でも根幹として続けていってるんじゃないかなって思いますね。自分の中で「表現としてハマった」っていうよりは、単純にあの楽曲としての完成度がちゃんと高かったので。そういうフォーマットの曲を、たぶんどんどん作っていけるんだろうな、っていう実感はありましたね。
(“手遅れ”のイントロは)「étéでこれをやるのか」っていう驚きもありました(ヤマダナオト)
――今回の『Apathy』は、最初の“crawl”で一気に異世界に連れていく感じですよね。
オキタ “crawl”は、étéがある種確立したフォーマットをより突き詰めた曲なので。短い中にどれだけ情報量を詰め込めるか、みたいな曲だし。1曲目に聴いた時にインパクトは強いと思います。
――“手遅れ”のイントロの、ギターとベースが瞬間ごとにスイッチされるようなアレンジも、最初からイメージがあったんですか?
オキタ そうですね、デモの段階からもうあの感じで。
ヤマダ 「étéでこれをやるのか」っていう驚きもありましたし、面白そうだなって。今までにない爽やかさというか――パンク要素はもともと好きだったのもあって、やり甲斐がありそうだなって。
小室 わりと王道ロックなアレンジだなと思ったんですけど。その中でやっぱり、僕たちがやったらこうなるんだ、っていうアレンジをするように考えましたね。
ヤマダ ちゃんとドラムソロもそうやって考えた?
オキタ 16小節ね。
ヤマダ 「ここはやっていいよ」って(笑)。
小室 ありがたいね(笑)。
――ポエトリーリーディングと激しいバンドサウンドっていうのはétéの特徴ではありますけど、何より、楽曲と演奏の中に常に場面転換と緊迫感が内包されているオキタさんのソングライティングが重要な鍵になってますよね。
オキタ 僕の曲はそれこそ、Aメロ/Bメロ/サビとかじゃない曲ばっかりなんですけど。意識してそうしてるわけじゃなくて……そういうものとしてアウトプットしてるのかなって(笑)。周りとそもそもが違うことは全員意識していて、その上で「より違うものになろう」っていうか。みんな「面白いことをしたい」っていう意識はあるし。デモがどれだけ逸脱していても、そこからさらにどんどん繰り返し研究して、アレンジを重ねて……っていう時間は結構長いよね?
ヤマダ 長いね。
――“ライフイズビューティフル”は、オキタさんの特徴的なボーカルにオートチューンが加わることで、どこかミステリアスな非日常感が生まれるのが面白いですよね。
オキタ もともとは打ち込みが基本にあった曲で、そこにヤマダが「こういうベースを乗せたい」って。じゃあ生ドラムも乗せよう、って。この曲はスタジオでアレンジしましたね。
ヤマダ もともとシンセベースと打ち込みのドラムしか入ってなくて、それでほとんど1曲できてる状態だったんですけど。「もっとこうしたい」って言ったら、「じゃあこう、こう……」ってやっていって……こうなっちゃいました(笑)。
オキタ 雑っ!(笑)。でも、ふたりが叩いて弾いて、っていうのが結構スッと入ってきたので。オートチューンは使ってみたいなと思っていて、自宅でデモを作る時にかけてみたら意外とよかったので。「あ、いけるな」って。
――曲を作ったりアレンジをしたりする上で、ご自分の声質は「得だな」と感じることはあります?
オキタ うーん……自分の声はもうこれなんで、あんまりそこに対する意識は……どう?
ヤマダ 得だなとは思うね。やっぱり、他には出せない声があって、レコーディングしてる時も「いい声だな」って思いますし。バンドの根幹にもなってますね、声が。
僕は表現として音楽を選んでいて。それを作るにあたって、僕は自分のことをとことん書いている自覚があるんですよ(オキタ)
――“Apathy”(「無感動」「無関心」の意)という曲も収録されていますけども、このタイトルをアルバム全体のキーワードとして据えたのは?
オキタ 僕の中ではふたつアパシーがあって。ひとつは自分の中の症状としてのアパシーというか、擦り減らしてしまったがゆえに鈍くなってくる感情というか。もうひとつはやっぱり、自分から見た他者のアパシーで――自分で思考をやめてしまった人だったり、簡単に流されてしまう人だったり。そういう思考が自分のものとして染み付いてしまっていて、明確なその人が見えない人が多いなと思っていて。自分の中の葛藤と、批判的な部分との両面性が、10曲通して詰め込まれていると思うので。アルバムタイトルとしても、この言葉を選びました。
――歌詞の世界観の面で見ると――シリアスに内面に迫る音楽を作るアーティストには、「そうしないと自分を維持できない」という生命維持装置として表現を位置付けている人と、自分自身をある種の探求や研究の対象としているふた通りの方がいると思っていて。オキタさんの音楽は一見すると前者のようなナイーブな質感を持っていながら、実は後者の側面が強いようにも感じるんですけど?
オキタ やっぱり今、僕は表現として音楽を選んでいて。それを作るにあたって、僕は自分のことをとことん書いている自覚があるんですよ。自分に焦点を当てることによって、より周りが浮き彫りになる感覚があって。自分のことを見続けた結果、他の人たちの生き方への言及みたいなものが感じられたりするのかなと思います。
ヤマダ でも、たぶんどっちもあるよね。歌詞にも《これはぼくにとって必要最小限の自己表現》(“reflection”)ってあるし、リード曲は“ruminator”(「思想家」の意)だし。
――そうやって自分の奥底にフォーカスを合わせるパーソナルな表現ではあるんだけど、それによって誰も到達できない袋小路に入り込むんじゃなくて、逆に他の人も共鳴する訴求力を持っていくというか、先鋭の先に広がりを持っているというか。不思議なサイクルを持っている音楽ですよね。
オキタ 僕は他人に「ああしてほしい、こうしてほしい」とはあまり思っていなくて。ただ、自分のことをとことんしゃべり尽くした後に「じゃあ君はどうなんだ?」っていう余白を残している意識があるので……それがたぶん、そういうふうに感じてもらえるところなんだと思いますね。
―― 今作を作ったことで、音楽的にはさらにどこにでも広がっていけると思うし。「バンドの表現はまだまだ広がりがある」ということを、現実として見せてくれる人たちであることは間違いないと思っていますので。
オキタ ありがとうございます。
ヤマダ そうありたいね。
オキタ ちょっと思想の話が増えちゃいましたけど、やっぱり一番は、バンドをやって面白いことがしたいし、カッコいい楽曲を作りたいし。ギター/ベース/ドラムでドカーン! ジャーン!っていうのはバンドにしかない表現の気持ちよさなんで。かつ、そこに踏み留まっているつもりもないので。そういう意味で、どんどん広げていけたらなと思います。
“ruminator” Official MusicVideo
リリース情報
1stフルアルバム『Apathy』 発売中【収録内容】
01. crawl
02. 手遅れ
03. ruminator
04. とおくなるのは、
05. Apathy
06. 灯
07. ライフイズビューティフル
08. reflection
09. 泡立つ夜半
10. シネマ
ライブ情報
été全国7都市ツアー「Apacity tour 2019」4月20日(土) 今池・GROW
4月21日(日) 北堀江・club vijon
4月27日(土) 仙台・enn3rd
4月29日(月・祝) 前橋・DYVER
5月4日 (土・祝) 札幌・COLONY
5月11日(土) 福岡・Queblick
5月19日(日) 下北沢・SHELTER(ワンマンLIVE)
全公演共通:開場 18:30 / 開演 19:00
チケット(全公演共通):前売り 2,500円 / 当日3,000円(別途1D)
提供:コドモメンタルINC.
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部