インタビュー=小池宏和
編み物のような感覚で、感情の糸を並べるだけではなく、しっかり編んで一枚の形にするみたいに、曲を作っています
――最新アルバム『A』はとても洗練されたポップアルバムで、作曲やサウンドプロダクションもそうなんだけれど、Guianoさんの内面にある声がしっかり歌になっているという点で、優れたシンガーソングライター作品だと思いました。「ありがとうございます。以前は、インプットしては出す、ということの繰り返しだったんですけど、今回はインプットしてきたものをすべて振り返って、自分の作品を作るということを意識しました」
――風通しの良い作品でありながら、1曲1曲に膨大なアイデアが注ぎ込まれているのを感じます。“I love you (self cover)”は、もともとボーカロイド曲として制作されたんですが、やっぱりGuianoさんの内面に渦巻く感情が綴られているんですよね。
「僕が音楽を作り始めた背景としては、昔いじめとかがあって。人に直接言えないことがあるから、音楽なら言える、というところで歌詞を書いたりしていたんです。だから、人に聴いてもらうことを強く意識しているのかな、と思いますね。編み物のような感覚で、感情の糸を並べるだけではなく、しっかり編んで一枚の形にするみたいな」
――ボーカロイドの表現だったら、自分とは異なる人格を作り上げて、自分とは違う物語を描くこともできると思うんです。でも、Guianoさんの曲はボカロ表現であっても、やっぱりGuianoさん自身の思いであり、声になっていたんじゃないですか。
「そうですね。Guianoというアーティストを確立させたいという気持ちが、常に頭にあって。自分で歌うことは最初から考えていたわけではないんですけど、ボーカロイドで曲を作るにつれて、肉声の表現もしたいという感情が湧いてきました。ボーカロイドは親からのクリスマスプレゼントで貰ったんですけど、初めて“千本桜”を聴いた時に、音楽っていいものだなと思って。音楽といえばボーカロイド、というぐらい好きですね。中学1年の時に、とにかく勉強が嫌いで、勉強をせずに生きていきたいと思っていたんです。最初は『けいおん!』とかにハマってアコースティックギターを始めたんですけど、三日坊主でやめちゃって。引きこもりになってから、特技を身につけないとヤバいな、と思って。あらためてDTMに取り組んだり、ギターを弾いたりしました。目標になるアーティストたちとも出会って、ニコニコ動画に初めて“ペルヴェルセ”を投稿したのが、中学2年の冬ですね。今でも割と衝動的にやっているところがあって、セルフボーカルでやっていくというガッチリした意識があるわけではなく、今はやりたいからやっている、という」
歌詞の意味と響きが両方うまくいかないとすべてダメというくらい、そこに懸けています
――では、ソングライティングについてもう少し伺いたいんですけど、聴き手の胸にスッと入ってくる言葉選びも、Guianoさんの持ち味ですよね。さっきは編み物に喩えてくれましたけど、聴き手に受け入れてもらうために言葉を編む意識というのは、どのくらい重要ですか。「それはもう、いちばん重要ですかね。僕は、歌詞とメロディ作りは同義だと思っているんですけど、ここがこうならないとすべてダメ、っていうぐらい(笑)、そこに懸けてますね。『ここはこっちの言葉のほうがいいけど、音楽的な響きを優先して、次で補う』という過程を踏んだりもします。やっぱり意味が通っていないと、気持ち悪くなっちゃうというか。僕としては、もうちょっと意味のないものを作ってもいいかな、とは思っているんですけど」
――でも、やっぱり補うんですね。意味が保たれるように整合性を取って、胸の内にあるものを可能な限り正確に伝えようとする。
「そうですね。洋楽とかに触れていても、意味はわからないけどいいな、みたいなことはありますし。意味より響きを優先することに抵抗があるわけではないんですけど、自分がやるとなると、なんか違うなあ、と思っちゃいますね」
――そんなふうに、意味と響きの両方を大切にした日本語ポップスとしての強みがある一方で、トラックでは海外発のフューチャーベースやヒップホップの影響が見てとれます。それも、ちょっと真似事でやってみたレベルじゃなく、ものすごくこだわりを感じるんだけど、その点についてはどうですか?
「めちゃくちゃこだわってますね。このアルバムで特に意識しているのが、間奏のドロップの部分だと思います。洋楽って、Bメロだと思っていたものがサビだったり、プレコーラスだと思っていたものがサビだったり、日本人の耳にはわかりにくいこともあるんですけど、それを日本語のわかりやすいポップスにしようというのが、狙いとしてありました。アヴィーチーやザ・チェインスモーカーズといったEDMが好きなんですよね」
たぶん、今の若い世代は飽き性な人が多くて、YouTubeも10秒ぐらいで区切りをつけて関連動画に飛んでしまうんです
――“最低だ”はフォーキーな曲かと思いきや拘りのシンセベースが入ってくるし、“アイスクリーム feat. 花譜”はロックな曲かと思いきや、エモラップ的な展開をみせるっていう。「隙のない曲を作りたいんですよね。自分でもSpotifyとかで音楽を聴いている時に、ちょっと甘いところがあるとすぐ次の曲に行っちゃうし。今の若い世代の人って、たぶんそういう人が多いんですよ。飽き性で。YouTubeでも関連動画がいっぱい並んでるから、10秒ぐらいで区切りをつけてもっと面白いものを観ちゃうっていう。そういう中で、いろんな箇所でインパクトを与え続けていきたいな、という気持ちがあります」
――そういう気持ちは、ボカロ育ちとして直接リスナーと向き合い続けてきたからこそ生まれたのかもしれないし、ある種の強迫観念として働いているのかも知れないけど、今回の『A』というアルバムは強迫観念にまみれて音がゴチャゴチャした作品にはなっていないんですよね。スッキリと整理されている。それはなぜなんだろう?
「ちょっと大きいことを話すんですけど、『A』というタイトルは『コンセプトを置かずにアルバムを作ることがコンセプト』なんです。意味はないから、適当に『A』でいいや、みたいな。コンセプトなしに進める過程で、頭を空っぽにしなきゃいけなくて。リスナーのこととか消極的なことを一旦切り離して、今やりたいこととか、今まで自分が得てきたものに集中できたことが、うまく纏まった要因かな、と思います」
――僕が好きな収録曲の話をさせてもらうと、もともとは理芽さんへの提供曲だった“法螺話”のセルフカバーや、“風の吹くまま”で。このあたりの曲は、音数が少ないんですよ。でも、とても説得力がある。隙を作りたくないと言いながら、この音数なのがすごい。
「ありがとうございます。“法螺話”なんて、めちゃくちゃトラックが少ないんですよね。なんというか、やっぱり小手先だけじゃダメなんだと思います。この曲は明らかにビリー・アイリッシュとかを意識しているんですけど、音数が少なくてもイケるという前例があったからこそ、できた曲だと思いますね。音数を多くして満足するんじゃなく、曲によってちょうどいい音数にするという、引き算の感覚です。“風の吹くまま”なんて、バカでかいシンセを入れたらそれでいい、みたいにもなっちゃうから。リスナーに聴かせるんじゃなくて、聴いてもらう余地を残すというか」
――そうそう、聴き手が惹きつけられる感じがする。“法螺話 (self cover)”は、オリジナルバージョンも儚い曲調に理芽さんの歌声がハマっていて素晴らしかったんけど、それに負けず劣らずのセルフカバーになっていると思います。
「理芽ちゃんのレコーディングの時に、僕の仮歌をみんなに聴いてもらったんですけど、仮歌がいいって言ってもらえて。それでセルフカバーする流れになった感じですね」
このアルバムはGuianoっぽくないから嫌、とかではなく、これはまた違うGuianoという目線で見てもらえたらいいなって
――で、“アイスクリーム feat. 花譜”なんですが、これはもともと花譜さんに歌ってもらうつもりで作った曲なんですか?「これは、CeVIO AI『可不(KAFU)』という、花譜ちゃんをモデルにした音声合成ソフトが発売されるんですけど、それのために書いた曲をリアレンジして、あらためて花譜ちゃん本人に歌ってもらいました。『可不(KAFU)』のほうはフューチャーベースっぽい感じなんですが、こっちではグッとロック風にして。でも、作った時から花譜ちゃんのことは意識していて、本人が歌ったらどうなるかなって。邪な話なんですけど、この曲はなんとしても本人に歌ってもらおう、と思っていました」
――《心さえいらない いらない 感情なんて/いらない いらない この歌詞でさえ/夏空がとても綺麗だ》っていう歌詞とメロディが、もろに花譜さんなんですよ。彼女が歌うカンザキイオリさんの作品っぽい、ということなんだけど。
「本当ですか。ずっと花譜ちゃんのこと考えていて、彼女には心の中に闇を抱えていてほしいっていうイメージがあって。もう、こうであってくれ、嫌なことで一杯であってくれ、その中で強く歌っていてくれ、みたいな。でも、花譜ちゃんには会ったことないんですけどね。今回のレコーディングも、コロナ禍だったから宅録で。話したことも顔を見たこともない、幻の存在、妖精です」
――ははははは! Guianoさんの中の花譜さん像に、寄せているんですね。《心さえいらない》という歌詞を歌う声が、めちゃくちゃエモいっていう。字面以上の意味が生まれている。花譜さんのボーカルを信頼しているからこそ、書けるラインだと思います。
「本当にそうですね。ここには自分はないです。花譜ちゃん本人が歌うことで、そういうふうになるだろうというイメージで作ったんですけど、もう一段上の、思っていた以上の曲になりました」
――会ったことはないけど、素晴らしい化学反応です。こうして話してみると、やっぱり軽やかに響きながらもたくさんの思いやアイデアが詰め込まれたアルバムだと思います。4月29日には、有観客&配信のワンマンライブが行われますけど、そこに向けての意気込みはどうですか。
「1回目のワンマンが完全に無観客で、ほとんどライブをしたこともないので、お客さんの前でできるのは、本当に嬉しいですね」
――KAMITSUBAKI STUDIOは「YouTubeファースト」という理念を掲げていて、それはたとえば、国境をも軽々と越えてゆくクリエイティビティということだと思うんですけど、Guianoさんの新しくてユニークな和洋折衷の音楽表現は、そこでも活躍し得ると思うんです。
「僕もウェンブリーとかでやってみたいな、と思ってるんですけど、やっぱりスキル面でもまだまだだし、今ではないかなという気持ちのほうが強くて。自分のスキルを磨くことに力を注いでいきたいです。アメリカのでかいアーティストが、それぞれに影響を受けた音楽を自由に混ぜてやるみたいな、そういうのに憧れていて。型にとらわれない音楽をやりたいな、という意識があります。『このアルバムはGuianoっぽくないから嫌』とかではなく、『これはまた違うGuiano』という目線で見てもらえたらいいなって思いますね」
晴れるなら
法螺話 (self cover)
あの夏の記憶だけ
透過夏 feat. 理芽
優しい大人になりたい
アルバム『A』
●CD 盤(CD のみ)2,500円(tax in)/KTR-022-1
〈DISC1(CD)〉
01. 晴れるなら
02. どうもしようもない
03.I love you (self cover)
04. 法螺話 (self cover)
05. アイスクリーム feat. 花譜
06. 最低だ
07. あの夏の記憶だけ
08. ポップソング
09. 夜考
10. 風の吹くまま
11. 帰ってくるよ
12. 透過夏 feat. 理芽
13. 優しい大人になりたい
●BOX盤(CD+BD+PHOTO BOOK+LINER NOTES+ステッカー)
6,000円(tax in)/KTR-022
〈DISC2(Blu-ray)〉
1st ONE-MAN LIVE「あの夏の記憶だけ」
01. ミュージック
02. 夜、眠るため
03. 死んでしまったのだろうか
04. 凍るサマー
05. どうもしようもない
06. 波に飲まれる前に
07. スーパーヒーロー
08. I love you
09. シャナ
10. 無題
11. レイニー
12. 最低だ
13. I Don’t Wanna Know
14. Summer Dream
15. 透過夏
16. あの夏の記憶だけ
EN1. Love & Music
EN2. S.O.S
EN3. The World I See
〈PHOTO BOOK〉
LIVE PHOTO BOOK
1st ONE-MAN LIVE
「あの夏の記憶だけ」(全30P)
〈LINER NOTES〉
『A』SELF LINER NOTES(全22P)
〈ステッカー〉
ステッカーセット(2枚)
Guiano 2nd ONE-MAN LIVE「A」
4月29日(木)渋谷 WWW〈会場チケット〉
OPEN 18:00/START 19:00
チケット:オールスタンディング 4,500円(+ドリンク代)
〈有料配信チケット(Streaming+)〉
OPEN 18:30/START 19:00
チケット:3,000円(tax in)
提供:KAMITSUBAKI STUDIO
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部