【インタビュー】THE ORAL CIGARETTES、今こそロックバンドシーンを背負う──最高傑作『AlterGeist0000』への道程を4人全員で語る!

デビュー以降、「もっと上へ、もっと大きなところへ」という気概たっぷりに突き進んできたTHE ORAL CIGARETTES。しかし2020年のアルバム『SUCK MY WORLD』リリースがコロナ禍とぶつかり、「これまで通り」を大きく見つめ直すこととなった。
パンデミックの間に何を想い、どう行動するかはアーティストによって様々だったが、この期間を経てのオーラルの変化は、傍から見ても顕著だったように思う。対バンを積極的に行い、それまでの規模感からしたら小さすぎるほどのライブハウスを細かく回る。シーンの仲間と、フロアのオーディエンスと、目と目を合わせる。誰よりも抜きん出ることによってではなく、仲間と連帯し、その中心となるという在り方で、シーンを牽引する──。
オーラルはこの数年をもって、野心のバンドではなく、愛のバンドになったのだ。しかも、4人がそう変化したことで、求心力はさらに上がった。コロナ禍の閉塞感を味わったバンドキッズたちにとって、その振る舞いは縋りたくなるほどに希望だっただろう。カリスマなんて言葉は薄っぺらいかもしれないが、今のオーラルにはそういう風格がある。

そんなオーラルによる4年半ぶりのアルバム『AlterGeist0000』は、大げさではなく彼らにとって最高傑作と言える作品になった。以下では、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2025年2月号の表紙巻頭インタビューの中から、アルバムについての話題を抜粋してお届けする。本誌では、アルバムに向かう道程にあった「PARASITE DEJAVU」についてや、山中拓也が生い立ちから現在までを語った2万字インタビューも掲載している。4人の「ロックバンドシーン」への誠実で熱い想いを改めて知ることができる特集の全文も、ぜひ合わせて確認してもらえたら嬉しい。

インタビュー=安田季那子 撮影=アミタマリ


『AlterGeist0000』には、自分たちのエゴも、やりたい音楽も詰めたうえで、絶対におまえらをこの曲で楽しませるっていう気持ちも入れている(山中)

──アルバム『AlterGeist0000』がいよいよリリースされます。『SUCK MY WORLD』から4年半も経ったんですよね。

山中拓也(Vo・G) そうなんです。

──4年半空いたのは、コロナ禍含めていろんな理由があったんでしょうけど……このアルバムの始まりは、どういうところだったんですか?

山中 始まりは、正直あんま覚えていなくって。っていうか、始まりってあったんか?っていう。 

あきらかにあきら(B・Cho) たぶん、コロナ禍でなくなってしまったんですよね。前のアルバムを作り終わったタイミングで「次はパンクやから!」みたいなことは言っていたんですよ(笑)。で、いざ前のアルバムをリリースしたと思ったらコロナ禍どん被りで、パンクどころじゃなくなったというか。

山中 パンクから、『MARBLES』のテンション感に変わっちゃったんですよね。その間に“Red Criminal”、“MACHINEGUN”みたいな激しい系の曲から、“ENEMY feat.Kamui”、“BUG”みたいな流れは生まれていて──俺らの中では、『MARBLES』のツアーが終わったぐらいから、次のアルバムをどう世に出していこうかって考え始めた感じやったと思います。

あきら 俺はずっと拓也に、もっかい『FIXION』(2016年)を作りませんかって言っていて。あの感じを頭のすみっこに入れながら今のオーラルがアルバムを作ったらどうなるか、個人的に気になっていたので。

山中 『SUCK MY WORLD』は、「今はこのモードや」っていうのを全力で出したアルバムで。あの時って、言い方が難しいんですけど、精神が……ちょっとだけ変やったんですよね(笑)。

あきら スピってたよね(笑)。

山中 (笑)ちょっと変な現象とかが自分の周りで起こりすぎていて。自分の人生ってこういうことやとか、運命って定められてるみたいに思ってて。で、『SUCK MY WORLD』を作り終えて、アリーナツアーをやって完結!って感じで切り替えようと思っていたんですけど、ツアーができへんくて。だから、コロナ禍が明けて、周りのバンドマンのシーンの作り方、空気感を見て、次のモード決めようっていうのがあったんですよね。その頃にあきらからもう一回『FIXION』作らないかって言われて──確かにロックバンドってものを見せつけるには、その方向性はめちゃくちゃアリだなって思った。最終的にできあがったものは、今のオーラルにおける『FIXION』を作った感覚に、かなり近いと思っていますね。

──今振り返って、『FIXION』はどういうアルバムだったと捉えていますか?

山中 『FIXION』は、お客さん8、自分たち2ぐらいの割合で考えたアルバムなんですよ。フェスにめっちゃ呼んでもらえるようになった時期だったので、そこに応えな!って気持ちと、のし上がらないとっていう気持ちで。自分たちのエゴよりも、フェスでどういう景色を作るか、どうお客さんに楽しんでもらえるか、よりキャッチーにポップに遊びやすく……みたいな。その感覚は『UNOFFICIAL』(2017年)、『KK(Kisses and Kills)』(2018年)っていう流れでだんだん薄くなっていって、『SUCK MY WORLD』で、自分の今の精神性を伝えるアルバムを作りたいってなって。そういう流れを経て、今の感覚で『FIXION』を作ったらどうなるんだろうなっていうことですよね。あの時の自分の感覚と今の自分の感覚は違うし、今の自分たちとお客さんとの関係性では、エゴを出していい割合も変わっている。ここまでは受け入れてもらえるっていう信頼関係があるから。で、結果めっちゃエゴ出したんです。めっちゃやりたいことを詰めて。前は8:2でしかバランス取れなかったものが、今は5:5、下手したら4:6みたいな感じ。自分たちのエゴも、やりたい音楽も詰めたうえで、絶対におまえらをこの曲で楽しませるっていう気持ちも入れています。

──エゴ6でこの開けたモードになったというのは驚きました。お客さんとのシンクロ率が上がってるってことなんですかね。

山中 『FIXION』の時は、対象が不特定多数やったと思うんですよね。グレーゾーン、ホワイトゾーンまで含めて楽しませようとしてて、ちゃんと顔が見えてなかった。でも、自分たちのメンタルも変わってきて、今はすごくフロアが見えている状態というか。そこが4:6になっている理由だと思います。

男らしいバンド感が出ている楽曲もあって、それこそ、「PARASITE DEJAVU」のバンド同士の関係値が楽曲にも落とし込まれたアルバムだなって感覚もある(鈴木)

──みなさんの手応えはどうですか?

鈴木重伸(G) 男らしいバンド感が出ている楽曲もあって、それこそ、「PARASITE DEJAVU」のバンド同士の関係値が楽曲にも落とし込まれたアルバムだなって感覚もありますね。“ENEMY”とか“DUNK feat.Masato (coldrain)”みたいなフィーチャリングの楽曲も浮いていない。あとは楽曲を作る時に、アレンジとかを人に任せることも増えてきて。結果、そんなフレーズ思いつかへんわっていうものが出てきたり……そうやっていろんな関係値を作ってきた数年間があるからこそ、すべてがまとまったんだと思いますね。

中西雅哉(Dr) 全曲、マジでパンチえぐ!みたいな。アッパーな曲はもちろんですけど、ミドルな曲も説得力あるし。アルバム単位でも曲単体でも重厚感がすごいのに、でも、ずっと聴けちゃう。間口が広くなさそうで、入ったら広いみたいな。聴けば聴くほど全部表情が違うんですよね。でも、この曲とこの曲の空気感は揃ってんなとか……まとまっているんですよね。

──確かに、“UNDER and OVER”と“OD”は曲の雰囲気は全然違うけど、実はリズムが繋がってます、とかもありますよね。そして、どれがリード曲になってもおかしくない。

あきら リードにしたい曲たくさんあったんですけど、拓也が強烈な歌詞を入れている曲が多くって(笑)。でも、そのぐらいどの曲にも強いメッセージがあったし。前作はイントロや語り、インストも入れてたんですけど、今回はそういうのがないから、ギュッと詰まってる感じもあって。アルバムを通して、飽きさせずに楽しませられるんじゃないかなって思ってます。しかも、全体通して1時間もないし。すごい聴きやすいですね。理想の形になった印象があります。


今まで形成してきた偏見やズルい部分が、見方を歪めてる感覚があって。フラットに見るためには、自分がゼロに、ピュアに戻ることが大事やなって思った。それってロックバンドの根底にあることやなって(山中)

──タイトルの『AlterGeist0000』は、手元の資料には「オルタナティブ」と「ポルターガイスト」を組み合わせた造語だとありますけど。このタイトルをもって掲げたテーマは、どんなものだったんでしょうか。

山中 メジャーデビューの時からずっと、自分はいつ、日本の現状や、世界の現状がどうだとかいうところまでを書けるようになるんやろうな、みたいなことを、期待しながら書き続けていて。で、『SUCK MY WORLD』を経て、めっちゃ単純に言うと、日本危な!って思ったんです。日本、このままやとまずいなって。そこに対して生きづらいと思う自分たちの感覚もあったし、バンド活動やりづらいなっていう感覚もあったりして。そこを隠してみんなハッピーに、っていう曲やアルバムを作ることもできたんですけど、それも自分の中での線引きで、そこを隠したらロックバンドじゃなくね?っていう。じゃあ、6割皮肉、4割ハッピーみたいなのがちょうどいいんかなとか、考えながら作っていったんですよね。で、バンド活動外で感じることとか、私生活の中でこういうことあるよねとか、今の日本情勢の中で思うこととかをたくさん書き続けて。

──なるほど。

山中 『AlterGeist0000』っていうタイトルの、『0000』は絶対に入れたいと思ってたんです。これはメンバー一人ひとりのことを表現してるんですけど──俺ら自身がもう一回ゼロになって、フラットな目線で見られるところに戻ろうっていうのを込めていて。なんでそう思ったかっていうと、自分が今まで形成してきた偏見やズルい部分が、ひとつの事象に対しての見方を歪めてるなっていう感覚があって。フラットに見るためには、もう一回自分がゼロに、ピュアに戻ることが大事やなって思ったんです。それってロックバンドの根底にあることやなって感じて。冷静に自分の周りの世界、生きている環境を見ようっていう。そう考えた時に、みんな、もうひとりの代わりの人間を用意してるよなってすごい思っちゃって。ほんまの自分はいつでも逃げられるっていう……めっちゃわかりやすく言うと、匿名ってまさにそうじゃないですか。自分の代役を立てて、ほんまの自分は隠していて。昔って、極端に言えば殴り合いをして友情が深まったり、そいつ対そいつでしかなかったんですよね。でも今は、どんどん歪んだ、誰が誰なのかわからない世界になっていて。っていうのを考えていく中で、いちばんいいタイトル何かなっていうので、ポルターガイストを引っ張ってきて。あとは、音楽的なオルタナティブを追求したいっていうのもあったので、オルタナティブとポルターガイストをくっつけて、「オルターガイスト」。響きもいいなっていうので、このタイトルにした感じです。

──オルターガイストという概念について、みなさんはどう捉えていますか?

鈴木 すごくしっくりくる、ほんまにロックバンドのメンタル的に必要なピースやなって思います。

中西 僕たちは表に立つ職業ではあるけれど、とはいえ自分の代わりって探せばいるなあって思う時もあるし、でも人に対しては「あなたの代わりはいないよ」って思っている自分もいて。それってすごい矛盾してるんですよね。そういうことをタイトルとかから再確認して、自分に落とし込んで考えるきっかけにもなりました。造語であることで、そうやって考えるきっかけをもらえるのかなって。そういう思考でアルバムの中に入っていくと、どう感じるかも違うと思うし。ジャケット、タイトル、収録曲、どれをとっても作品だなって思いますね。俺は、このジャケットを逆さにして見てみたりもしたし(笑)。そうやって考えるきっかけを与えるタイトルやなと思いますね。

あきら このタイトル、字面もかっこいいし。拓也とは人生の半分以上一緒にいて、背伸びしちゃうこともあったけど、今はお互い等身大で生きてるなって思うんですよね。背伸びせず、かっこいい自分であればかっこつくとも最近は思っていて。僕らは別に裏アカみたいなのもやってなくて、常に自分として発信している。その責任感もそうだし、社会風刺も含めたタイトルだと思ってます。こういう場所でしかタイトルの意味までは伝えないかもしれないので、これを読んでくれている人にはわかってもらえたら嬉しいですね。


──今のお話を聞いてなるほどと思ったんですけど、このアルバムには、「忘れない」って言葉を使っている曲が多いですよね。本当の自分を見失わないことを大事にされているのかなって。

山中 まったく意識してなかった(笑)。でも、そういうことが潜在意識に入っているのかもしれないですね。

──最後の“See you again”でもそういう言葉を使ってますし。曲順も、そういうメッセージが伝わりやすい流れになっているなと感じます。このままライブのセトリにしてもいいくらい。

山中 みんなで曲順を決めた時に、このままライブでやっても違和感ないようにとは思っていました。あと、アルバムを作る時は毎回そうですけど、サブスクとかで単体で曲を聴けちゃうからこそ、アルバムの曲順通りに聴いた人に、ちゃんとストーリーが伝わるように意識したほうがいいなってのもあって。そこはこだわって作ろうって話してましたね。あとは、キー問題も考えて作りました。このキーからこのキーは耳ざわりがいいね、とか。

──オーラルの音楽って、違和感を個性として捉えていたり、気持ち悪いフレーズを使うことを意識していた時期もあったじゃないですか。でもそうではなく、耳ざわりがいいものにしようと考えるようになった理由というと?

山中 それを意識してた時って、自信がなかったと思うんですよ。そうすることで自分を納得させてたというか。でも『KK』あたりで大きく変わって、もっと音楽に向き合ったほうがいいぞっていう意識が生まれて。それがお客さんに評価されようが評価されなかろうが、自分たちが音楽としてかっこいいと思えるもの、納得いくものをしっかり作りたいっていう気持ちが最近は強いんですよね。ここの不協和音が気持ちいいから残しましょうとかは未だにあるんですけど、それは、ほんとに俺らの感覚的なものでしかないから、わざわざ意識せずとも、根底に残ると思っていて。シゲのリフとか特にそうですよね。シゲがDTMで制作できるようになって、「この音楽かっこいいで」みたいなことを共有していくうちに、どっかでシゲが昔から持ってる気持ち悪さが外れてくるかもなって思ってたんですけど、未だに外れないので。

鈴木 (笑)。

山中 そういうことやなって。だから今は、意識的には美しいものを作ろう、特徴はそのあとからついてくるやろうってところに落ち着いてますね。

──アルバム発売の直後からはツアーが始まり、最終的にアリーナが控えています。アルバムを携えての2025年、どうなっていくと思いますか?

山中 このアルバムを鳴らした時にお客さんがどうなるかが楽しみというよりも、自分たちがどうなるかが楽しみという感覚が俺にはあって。『FIXION』みたいに、お客さん8、自分たち2ぐらいの割合で作ってた時は、フロアの感じだけじゃなく、自分の煽りまで想像できてたんですよ。でも今回は、フロアは見えているんですけど、自分の煽りはまったく見えてない。自分がどうお客さんにこれを投げるのかが見えてないんですよね。だからツアーにおいて、俺ら4人がどういうふうにフロアの空気を読んでパフォーマンスするのか、すごく楽しみです。またイチから4人でパフォーマンスを詰められるんちゃうかな。その中で、この楽曲たちがどういう位置に行ってくれるのかも楽しみなんですよね。“YELLOW”とか“BUG”も最初はどう捉えられるかわかんなかったんですけど、自分たちとお客さん、お互いにとって大切な楽曲になっている感覚があったり、お客さんの盛り上がりを見てパフォーマンスを変えたりとかしてきたから。このアルバムの曲をやるたびに、そういうことが高頻度で生まれてくいくんちゃうかなって思ってます。

鈴木 単純にやっと4人で一緒に鳴らせる!っていうのが嬉しいですね。コロナ禍の時も、久々にスタジオ入って、めっちゃ楽しい!みたいな再認識があったけど、今回もそうなると思うし。お客さんも、僕らのライブは久々になると思うので、改めて僕ら自身がライブに向き合い、お客さんが「これを待ってたよ!」って思えるものを作っていきたいですね。

中西 2025年は自分たちのツアーから始まるので。ライブを通していろんな土地に行けることも当たり前じゃないってことを考えさせられたこの3ヶ月でもあったから、一本一本、地に足つけてライブをやって。そこで待っててくれたみんなが、気持ちも含めて早く元のフロアに戻れるように、足並みを揃えて進んでいきたいと思いますね。それを、アルバムがいい意味で牽引してくれると思っているので、楽曲にケツ叩かれながら、ツアーを楽しんでいけたらと思いますね。

あきら ワンマンツアー自体久しぶりなのでワクワクしてますし、アリーナも、前回のアリーナツアーはコロナ禍でなくなっちゃって、5年ぶりぐらいになるので、楽しみですね。しっかり恩返しできるように活動できたらと思います。

──ツアーでこのアルバムが輝くのが楽しみです。ありがとうございました!

4人 ありがとうございました!


ヘア&メイク=鈴木智之


●MV
“DIKIDANDAN”

“愁”

“UNDER and OVER”

“DUNK feat.Masato (coldrain)”

●リリース情報

THE ORAL CIGARETTES 6thアルバム『AlterGeist0000』

発売中

●ツアー情報

THE ORAL CIGARETTES「AlterGeist0000 LIVE HOUSE TOUR 2025」


THE ORAL CIGARETTES「AlterGeist0000 ARENA TOUR 2025」



提供:PONYCANYON
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部