ULTRA JAPAN 2014(2日目)@ TOKYO ODAIBA ULTRA PARK(お台場ULTRA JAPAN特設会場)

それは「夢の具現化」に他ならなかった。多様な人々の多様な夢をまとめて受け止める、巨大な器としてのダンス・ミュージック・フェスがそこにはあった。遂に遂に日本上陸を果たした、米マイアミ生まれの『ウルトラ・ミュージック・フェスティヴァル(以下UMF)』。本国では毎年3月に開催され、イビザやブエノスアイレス、サン・パウロ、ソウルやケープ・タウンなど各国諸地域においても熱狂を育んで来たUMFが、いよいよ東京に出現。まずはそのロケーションが圧巻で、ダイバーシティ東京前の広場、つまりお台場ガンダムが見下ろす先の視界一杯に特設会場が設けられ、道往く人々も「なんだなんだ」「何かすごい盛り上がっているな」といったふうに足を止めてしまう(隣接してオクトーバーフェストも行われていた)。初開催にしてこれがULTRA JAPANだという、強烈なスケール感と存在感を放っていた。公式チケットはもちろんソールド・アウト。2デイズ開催の2日目の模様をレポートしたい。

会場には主要3ステージが設けられ、まず入場ゲートをくぐると最も近い位置にテント型のUMF RADIOが、その先にはキャパ最大規模のMAIN STAGEがある。もうひとつのステージであるULTRA WORLDWIDE ARENAはZepp DiverCityをそっくりそのまま拝借した形になっており、こちらでは近年めきめきと頭角を現しているSEKITOVAや、ワールドワイドなEDM文法で攻め立てるスタイルのRYUKYUDISKOといった邦人勢、それにストイックな音像がクールだったNYの女流DJジナ・ターナーらが出演。一方、巨大なMAIN STAGEはというと、UMFレジデントDJであるMYKRISを皮切りに、DJ SHINTARO、RAIDEN、kzそしてm-floと日本発アクトがリレー。アジア系アメリカ人ユニットであるファーイースト・ムーヴメントの人気はさすがで、その後はサナリー・ジェイムズ&ライアン・マルシアーノによるファンキーなダッチDJコンビが活躍する。続いてもオランダのベテランDJで、ロック/ポップ・ファンにはマドンナやコールドプレイ、デジタリズムのリミキサーとしても知られるフェデ・ル・グランドが、煽りまくるサポートMCも迎え入れてステージ後半戦に向けてのスパートをかけていった。

何よりも、ULTRA JAPANの熱狂を象徴していたのは来場者たちの様子である。軽装でダンスすることを主目的に参加したと思しき人もいれば、華やかにドレスアップしたまま踊り跳ね回る人もいる。リオのカーニバルとハロウィンとコミケがまとめて行われているようなコスプレ勢も目に楽しい。夕方辺りにはすでにいい感じにアルコールが回り、車座で談笑する人たちもいる。ラウドなダンス・ミュージックが聴こえていて楽しみ方もまちまちなのに、そこにはとても混沌とした平和があった。ハレを求める人々のすべての夢が、ULTRA JAPANを形作る一要素として機能している。それはとても美しい光景だった。ジャンルを細分化しない、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)というカルチャーの思想が、そこには見事に反映されていた。

エレクトロ・ハウスやテクノ、ブレイクビーツ、ドラムンベース、ガラージ、ダブステップ、ヒップホップにトラップといった音楽ジャンルを内包するEDMという大雑把な用語が普及した背景には、ハレを求める夢の集積として機能した思想があったように思う。例えば、踊るんならパーカーにスニーカーといった程度の軽装がベストだよね(と筆者は思いがち)、といったスタイルの洗練は、着飾ったりコスプレしたりといった楽しみ方をする人にとっては抑圧的だ。音楽も同じことで、ジャンルの細分化や洗練は進歩にとって大切なものでもあるが、一方で抑圧的・排他的に機能することもある。ジャズはその歴史の中でソウルやロックや電子音楽とクロスオーヴァーしなければならなかったし、頭でっかちに膨張したロックにはパンクというリセット作業が必要だった。EDMとは、ポップ・ミュージック史上最新の、自由に多様な人々を受け入れることを目的としたカルチャーなのではないか。UMFの巨大な商業的成功も、そんな自由なハレの場を強く求めていた人々の夢の集積として、腑に落ちる手応えがあった。

早い時間帯には、少し強く吹く風に音が流されがちだったMAIN STAGEも、風が落ち着いてきたところに登場したアフロジャック。いきなり“テン・フィート・トール”で特大シンガロングを誘い、歌心とダンスする身体をがっちり掴まえるトラックで丁寧にプレイしてゆく。イギー・アゼリアの“ファンシー”やデヴィッド・ゲッタ“タイタニウム”も織り交ぜ、日没が近づくに連れて電飾衣装のダンサーが登場したり、長足ロボット着ぐるみがスモークや花火を発射したりと興奮必至のステージが形作られていった。もちろん自身の“イルミネイト”や“ウィー・ウィル・ビー・オーケー”も披露し新作『フォーゲット・ザ・ワールド』モードが全開。満足げな、何とも言えない表情で感謝の言葉を投げ掛けると、スクリーンに映っていた女子ファンはボロ泣きしてしまっていた。最後はスヌープ・ドッグをフィーチャーしたダブステップ“ダイナマイト”。まさに、EDMの総覧性を証明するような、幅広くドラマティックなDJプレイであった。

そしてクライマックスは、スウェディッシュDJ2組によるリレー。イケメンDJのアレッソは、華々しいメロディで高揚感を駆り立てるレイヴ感たっぷりのハウスで、もうひたすら絶頂感といったところ。大仰さもルックスとマッチして許されてしまう、そんな人柄も丸出しのステージになった。「またすぐ会おうぜ!」と約束を交わすように言葉を投げ掛けると、ニッキー・ロメロと組んだ“ハートビート”、それにカルヴィン・ハリスとのコラボ・チューン“アンダー・コントロール”もドロップしてみせる。アンカーには、元スウェディッシュ・ハウス・マフィアのアクスウェルとイングロッソによるツープラトンDJが登場。2013年のUMFを最後のステージに、絶頂期に解散したSHMは、言わば今のUMFにとって最新の伝説だ。やはりというか“アンチドート”を皮切りにSHM曲連発で、豪腕ダブステップやと熱いトライバルビートも絡めながらピーク・タイムを生み出してくれる。

“ドント・ユー・ウォーリー”、“トーキョー・バイ・ナイト”リミックスの流れは間違いなくULTRA JAPAN 2014のハイライトで、どうせなら前日出演の元SHM=スティーヴ・アンジェロも飛び入りすればいいのにと思ったが、一方その頃、本人ツイートによればスティーヴは餃子を堪能していたらしい。終盤の“ワン・モア・タイム”と“セイヴ・ザ・ワールド”のマッシュアップも見事で、歓喜のフィナーレを迎えていった。巨大なステージ全面がLEDスクリーン(てっぺんのウルトラのロゴまでがスクリーンだった)であり、火柱に花火、紙吹雪にリボンと、ゴージャスなこと極まりない演出もさすがUMFであった。あと、ULTRA WORLDWIDE ARENAのアンカーに出演したダレン・エマーソンもストロングスタイルの鋭角なテクノ~ブレイクビーツがやっぱり最高。世代的に、こういう音が身体に馴染んでしまうことは否めない。初開催にしてここまで、という大成功のULTRA JAPAN 2014を楽しむことが出来た。ぜひとも次回開催を望みたいし、より多くの声が寄せられることで、それは実現に近づいていくはずだ。(小池宏和)