アルバム『6番線の箱舟』を引っさげて全国8ヵ所で開催してきたGOOD ON THE REELの「8つの箱舟」ツアーのファイナルがEX THEATER ROPPONGIで行なわれた。ここ2～3年は様々なフェスやイベントに出演して急激にライブシーンでの知名度をあげてきたが、インディーズで派手なプロモーションもないまま、主にファンによる口コミによってキャパシティ1,700人超の会場を埋める実力は本物だった。

ステージを星空のような光が照らすなかメンバーが姿を現した。「こんばんは。GOOD ON THE REELです。最後の箱舟にようこそ」と、千野隆尋（Vo）があいさつをすると、『6番線の箱舟』のオープニングナンバーでもある“水中都市”からライヴはスタートした。刹那的でエモーショナルなGOOD ON THE REELのギターロックが、この場所に生きていると声高に叫ぶ。そして激しく明滅する光が昂揚感を煽るなか“存在証明書”へ。高橋誠（Dr）のタイトなドラムに、岡崎広平（G）が繰り出す存在感のあるリフ、それと対照的に伊丸岡亮太（G）はコーラス＆リズムギターで楽曲を支え、宇佐美友啓（B）は全身をバネのようにしてリズミカルに弦を弾く。その中央で、ときに地面を蹴り、両手を広げ、顔を手で覆い、頭を叩き、シャツの襟元を掴む、ボーカル千野が奔放に動き回っていた。

ベースの宇佐美が「ただいま帰りました」と、長いツアーから東京へと帰ってきた感慨に触れたあと、ギターの岡崎がツアー中に財布を落としたエピソードを千野が紹介。そして中盤は、80'sの香りがする爽やかなポップソング“トワイライト”、さらに初期作『世界分の一節』から3拍子～4拍子と揺れるリズムにのせた“202”など、わずか4年で7枚の作品を発表した豊富なディスコグラフィーが、バンドの過去と今を繋いでいく。

MCでは昨年12月にリリースした『6番線の箱舟』を引っさげたツアーということで、千野がそのタイトルの意味を語り出した。実家へと繋がる6番線のホームが自分を救い出してくれる箱舟のようだったから、と。そして、「当たり前になった痛み、苦しみを表現することで、救い出せたら」そんな願いを作品に込めたという。その言葉に続けたバラード曲“ゆれて”“花”の2曲は素晴らしかった。その表現すべき痛みや苦しみを一身に背負って、のたうちまわりながらマイクを握りしめる。ボーカリスト千野の表現力に息をのんだ。

微動だにせず聴き入っていた客席に向かって、「みんな元気？　笑顔で拍手してみよう」と、千野が空気を和ませると、ライブは後半戦へとなだれ込んでいった。現代社会特有の生きづらさに言及した“匿名”、《それでも生きていくから》と千野がこぶしを振り上げ、力強く空中を叩くようなアクションを見せた“素晴らしき今日の始まり”。このバンドが伝えるべきメッセージはとてもシンプルだ。そして、「箱舟という名前のツアーだったけど、救われたのは僕たちでした」と千野が言うと、ラストナンバーは“カルキニクハ”。登場と同じようにステージに星が瞬くなか、優しい曲調にのせて伊丸岡、岡崎、宇佐美の3声のコーラスと、ボーカル千野の渾身のハイトーンが響き渡り、どこか神聖なムードに包まれて本編は幕を閉じた。

「まだ今夜も続くんだよね。嬉しいよ」と、感慨深げに千野が言ってから始まったアンコール。“ゴースト”では伊丸岡が前へ出て手拍子を煽ると、「忘れないでいてほしいことがある」と、再び千野は語り出した。「僕たちには未来があるってこと。すげぇ幸せなことに明日からの日々があるってことを！」。それだけ聞けば青臭いメッセージかもしれないが、それをすんなりと受け入れられる土壌をGOOD ON THE REELは2時間かけて作り上げてきたのだ。さらに、“ハッピーエンド”を会場が一体となって歌うと、鳴りやまない拍手に応えたダブルアンコールで披露したのは“コトノトコ”だった。最後の最後まで「生きることの意味」を歌い続けたGOOD ON THE REELの箱舟は、きっとこの先も行く道を見失わないだろう。（秦理絵）

■セットリスト

01.水中都市
02.存在証明書
03.ユリイカ
04.それは彼女の部屋で二人
05.トワイライト
06.迷走
07.202
08.ゆれて
09.花
10.夕映
11.匿名
12.ホワイトライン
13.素晴らしき今日の始まり
14.シャワー
15.せい歌
16.カルキニクハ

（encore）
17.ゴースト
18.ハッピーエンド

（encore 2）
19.コトノトコ