Some Get Town Tour @ 恵比寿リキッドルーム
2008.11.29 00:00
サムゲタンってなんでよ?と怪訝に思った人もいるかもしれないが、これはスパルタローカルズ、そして元syrup16gのTakashi Igarashiこと五十嵐隆が所属する新しいプロダクション「Some Get Town」のこと。そこにthe telephonesを加えた3組で東名阪を回るツアー、その名も『Some Get Town Tour』の2本目、リキッドルーム恵比寿での東京公演(大阪公演を残しているのでセットリストは割愛)。今をときめくthe telephones、そして痙攣ダンス・ロックの雄=スパルタローカルズを擁したアクトとなれば、それはもう瞬間沸騰必至の大盛り上がり……と思うところだが、話はそう簡単ではなかった。何しろ五十嵐隆である。今年3月1日にsyrup16g解散ライブを武道館で行って以降、「犬が吠える」名義でのライブは9月のイベント『924』、今月27日の名古屋公演を含めまだ3本目。当然「犬が吠える」としての音源は出てないし、やってる曲に関しては曲名すら明らかになってない(五十嵐いわく「仮のものはあるんですけどねえ」)という有様。そんな五十嵐の超貴重なステージを一目見ようと、フロアは開演前から静かな気迫に満ちている。トップバッターはthe telephones。「サムゲタン! 東京! ウルトラ! ダンス、ダンス、ダンス!」というノブ(Key)の絶叫から、ハード・ロックとニューウェイブが正面衝突したような激烈ダンス・ビートが次々と叩き出されてくるし、AC/DCのTシャツを着た石毛(Vo/G)の爆音ギター・サウンドがリキッド狭しと暴れまくるし、「アイ・アム・ディスコ!」のコール&レスポンスもビシッと決まるし、関節壊れた操り人形が超高速で暗黒ダンスを踊っているようなノブのアクションはいやが上にもこっちの理性のタガを外しにくる。それでもフロア全体完全燃焼!とはいかなかったし、石毛もどこかやりにくそうだったが、異様な緊迫感を孕んだこの日のオーディエンスを前にしてよくやった、グッジョブ!と言うべきだろう。一方、続いてステージに登場したスパルタローカルズは、そんな空気を無理矢理蹴散らすように、1音ごとにサウンドのエッジを研ぎ澄ませていく。何よりコウセイ(Vo/G)が冴えまくっている。異常にきびきびしたダンスとともに登場したかと思えば、「今日もスパルターローカルズ、イジョーなしでいぃー感じです!」とオーバーヒート気味に叫び上げながら激しく歌い、跳ね、転がり、のたうち回り、「スパルタローカルズ渾身のパフォーマンス、いかがだったでしょうか?」と涼しげに言ってのけたかと思うと、チューニングの合間に♪もう恋なんてしないなんてー、となんちゃって槇原敬之になってみせる。コミカルなほど真摯なエモーションと、オーディエンスのハートの真芯を貫く理性とウィット――それがそのまま形になったようなアクトでもって、力ずくでフロアをアゲていく。そして19:47、いよいよトリの「犬が吠える」の面々が登場! ギター=kono(te’)、ベース=Joe-ko(apnea)、ドラム=yoko(oak)というメンバーとともにステージに現れた五十嵐。オーディエンスからの「いがらしー!」の絶叫のあまりの激しさに、「そうじゃない! おかしい!」と苦笑してみせてから、ひと呼吸置いて、歌い始めた――。どこかsyrup16g時代の“翌日”を彷彿とさせる曲調と「歩き出そう 薄目開けて」というフレーズが印象的な楽曲。「中央線が止まっても 最終に乗り遅れても この生活は終わらない」という灰色の世界観を光り輝くサビのサウンドで真っ白に染めるような楽曲。「赤いカラスが笑った」という歌い出しで始まるミドル・テンポの楽曲は“月になって”を漂白し尽くしたようにクリアに響くし、「一度は世界が崩れ落ちて すべてが終わった」「それでもなんかしら希望を捨てきれないのは どうかしてるね」とネガティブ/ポジティブの隙間をダッチロールするような歌詞は、目の前の世界を濾過して音楽に変える五十嵐なりのフィルターが錆びつくどころかますます精度と純度を上げていることを窺わせる。アレンジや楽曲の方向性としては、それこそ『HELL-SEE』期――超シンプルでありながら音楽の黄金律そのもののような名曲を量産して、しかも15曲1500円でパッケージして売り出していた頃――のモードを、憑き物がとれたように迷いなくやっている感じ、とでも言うのだろうか。まだまだ試行錯誤の途中なのだろうし、ここからまだ変わっていくのだろう。が、いずれにしても、この日の五十嵐の、身体の底から歌の限りを絞り出していくようなアグレッシブなアクトには、僕らの報われっこない希望を形にして空に放つようなマジックが確かに満ちあふれていた。(高橋智樹)