おいしくるメロンパン/Zepp Shinjuku(TOKYO)

photo by 郡元菜摘、橋本歩

昨年、『cubism』のリリースツアーでも、新曲のポップネスがバンドサウンドを鮮やかに更新していく瞬間を明確に見せつけたおいしくるメロンパンだったが、今年4月にリリースされた7thミニアルバム『answer』を引っ提げてのツアー「回る日傘の方程式」は、彼らの楽曲のテーマのひとつでもある「夏」を、過去最高レベルで鮮烈に表現してみせた素晴らしいライブツアーだった。ツアーファイナル(その後、振替公演を残してはいたが)である東京公演、Zepp Shinjukuでのライブを観て、新作『answer』の楽曲たちが、これまでおいしくるメロンパンが表現してきた「夏」に新たな「答え」をもたらしていくのを体感した。

ライブはタイトなアンサンブルでグッと引き込む“look at the sea”でスタート。そのバンドサウンドを受け取ってのフロアの反応もすごい。観客の声出しが解禁となったことも大きいが、バンドと観客との間にダイレクトなコミュニケーションが生まれる様は圧巻だった。フロアの熱がステージにも届き、ナカシマ(Vo・G)の歌声もいつも以上に力強さが感じられる。完全に外に向けて放つ、そういう意志を感じさせる歌声だった。続く“桜の木の下には”での爽やかな音像、そして“色水”での疾走感には観客の反応にもさらに拍車がかかり、ライブのテンションは相乗効果でぐいぐい上がっていく。この時点でもうこのライブが素晴らしいものになることは決まったようなものだった。長く続く歓声と拍手が止むのを待つことさえもどかしいかのように、いきなるナカシマのはじけるような歌声が響く“Utopia”がまた格別な熱さを放っていた。

ナカシマ(Vo・G)

「今日はついにホームに帰ってきました」と、ナカシマが「ただいま」を言えば、観客からは大きな「おかえり!」が返ってくる。こうした光景が過去になかったわけではないが、今のおいしくるメロンパンはステージ上のメンバーがオープンマインドな分、観客も安心して心を開けるようになっている。そしてナカシマは「新作『answer』は、今のおいしくるメロンパンはこれだ!と自信を持って言える作品。今回はその『answer』が加わったことで、僕たちの物語がどのように進んだのか──それを楽しんでいってください」と、今回のライブに込めた思いを客席に届けた。そして始まったのが『answer』のなかでもとびきりブライトなポップネスを放つ“ベルベット”。ドラムンベース的に疾走感を生み出す原駿太郎(Dr)のドラムがシームレスに8ビートへと展開すると楽曲がさらに躍動する。ナカシマのファルセットも爽やかに響く。夏の抜けのいい青空を思わせるような音像。さらにギターの甘いアルペジオが誘う“トロイメライ”へ。ブルーの照明に青さを感じさせるメロディが溶けて、爽やかなコーラスワークがドリーミーな清涼感を連れてくる。ナカシマの弾くストラトキャスターのライトブルーさえもその景色に溶け込むようだった。


今回のライブは「ハイライト」と言いたくなる場面がいくつもあり、“nazca”から『answer』収録曲“garuda”への流れもそのひとつだった。ゆったりとした凪を感じさせるギターのコードストロークから突然鮮烈に歌い出された “nazca”は、どこか夏の喪失感や、取り戻せない過去を感じさせるエモーショナルな楽曲だが、それが“garuda”に続くことで、時を経てその痛みが癒されていくような、悲しみを懐かしさに変わるようなマジックを感じさせる。さっきナカシマが言った「『answer』が加わったことで、僕たちの物語がどのように進んだのか」を強く感じさせる流れがここにあった。そしてこの流れはここで終わらず、アンビエントなムードでインタールード的なジャムが始まると、アンサンブルは突然ジャジーでスリリングな展開へ。そのままなだれ込んだのは“シュガーサーフ”。ライブでも常に客席の温度を上げる定番曲でありながら、この日の“シュガーサーフ”は強烈だった。圧巻は峯岸翔雪(B)が前に出るベースソロ。いつもより長めの尺の堂々たるプレイに大歓声が飛ぶ。おいしくるメロンパンの獰猛さが圧倒的な更新感で放たれ、破格の熱狂を生んでいた。

峯岸翔雪(B)
原駿太郎(Dr)

ライブ後半はさらに新作『answer』からの“夜顔”。気だるさを携えた切な寂しい美メロが夏の空気を感じさせる。《あの日から僕だけが/大人になってしまった》と歌うこの楽曲が、《死んだ友達の命日も/思い出せなくなっていた》と歌った“命日”へと続いて、“夜顔”もまた、おいしくるメロンパンが過去に描いた景色のアザーサイドであることを悟る。その後の“水葬”からの“波打ち際のマーチ”もそうだ。“水葬”で描いた大切なものに対する喪失感と密やかな喪のムードは、“波打ち際のマーチ”で《終わりのない行進曲》として永遠の命を吹き込まれるようにポジティブなイメージへと変わる。そして確信する。おいしくるメロンパンが描いてきた「夏」にこれまでどこか暗い「影」を見ていたのは、その「影」を作り出す強い「光」があったからなのだと。その「光」が『answer』であり、それによって過去曲たちの本質が露わになったと言ってもいい。ともかく、今のおいしくるメロンパンが、その「光」を躊躇いなく放射できるバンドに進化したことを、このライブでは存分に感じ取ることができた。


そうした楽曲たちが描く「物語の変遷」は、本編ラストの“紫陽花”からの“マテリアル”の流れに止めを刺す。“紫陽花”のアウトロの衝動に満ちたバンドサウンドが知らぬ間に“マテリアル”のリフへと展開した時の、フロアの悲鳴のような歓声と高揚感は忘れられない。そして“紫陽花”が描いた初夏の喪失感を、“マテリアル”が《実態に価値なんてないことの/確かな証明》として、《永遠が確かにあったこと》としてポジティブに描き切り、鮮やかな夏の景色へと塗り替えていった。ツアータイトルにも冠した《回る日傘》の方程式とは、過去の出来事に「光」を当てることで失ったと思っていたものに新たな命を吹き込んだり、終わったと思ったものが実は連綿と続いているものであることを証明する「方程式」であったかと思い至る。確実にその「方程式」はオーディエンスにも届いて、どこまでも陽のバイブスが会場中を満たしていた。なぜ彼らが昨年の『cubism』から最新作の『answer』で衒いなくポップな楽曲を放ち続けるのか。その「答え」を明確に感じ取るライブだった。


アンコールでは8月2日にリリースされる新曲“シンメトリー”も披露された。まさに今のおいしくるメロンパンのモードで表現する新しい夏曲といった趣であり、この楽曲もまた、過去に見た風景にまた別の色を塗り加えるような、いつかの内省的な自分に語りかけるようなタイムレスな魅力を放つ楽曲だった。ラストはおなじみの“5月の呪い”。気持ち良く跳ねる軽快なリズムがエンディングを心地よく演出する。歓声と拍手とが波のように長くフロアに鳴り響いて、ライブは大団円。秋にはさらなる全国ツアー「結ぶリボンの方程式」の予定もすでに発表されているが、この日、2024年1月19日に東京、LINE CUBE SHIBUYAで追加公演が行われることも発表された。おいしくるメロンパンの快進撃に、さらなる期待が高まる。(杉浦美恵)



●セットリスト
01.look at the sea
02.桜の木の下には
03.色水
04.Utopia
05.ベルベット
06.トロイメライ
07.nazca
08.garuda
09.シュガーサーフ
10.夜顔
11.命日
12.epilogue
13.水葬
14.波打ち際のマーチ
15.透明造花
16.斜陽
17.紫陽花
18.マテリアル
(アンコール)
EN1.シンメトリー(新曲)
EN2.5月の呪い