Phoho by タンベミサキ物理的にも、気持ちの上でも、黒猫チェルシーがとても近い、そしてユニークなライヴであった。東京・大阪で繰り広げられる『猫 Pack 2』リリース・パーティの東京編。会場は、音楽だけでなく演劇やトーク・イヴェントなど、さまざまな用途に用いられる六本木のSuperDeluxe。趣のあるフロアの壁面には、黒猫チェルシーの写真を撮り続けていることでも知られるOhagiさんことタンベマサキの作品も展示されている。ロック・バンドのライヴでこんなの見たことない、という趣向も盛り込まれたステージだったが、5/20・心斎橋 OSAKA MUSEでの公演を控えているので、セット・リスト含め公演内容の詳細にはなるべく触れないようレポートを進めたい。
開演時間を迎えると、「Ladies and Gentlemen, Welcome to 猫 Party!!」のアナウンスが入ってメンバー登場。“GOOD JOE”の立ち上がるイントロに、さっそく前のめりで拳を突き上げながらOIコールを要求する渡辺大知(Vo.)である。黒煙を巻き上げるようなロックンロールはゴキゲンなまま、時間と金に追われる切迫感を描き出してゆく。澤竜次(G.)のギター・プレイも序盤から力強いドライヴ感を見せ、刺激的なフレーズを思うさま弾き倒すのだった。
好反応を見せて盛り上がるオーディエンスに「おまえら、大好きです! だから、もう少し下がろうか」と大知。ステージとフロアを隔てる柵がないこともあり、前方のエリアが少し危険な状態だったのだ。そもそもステージが割と低いので、後方からだとメンバーの姿が確認し難く、モッシュしているわけではないのだけれど、いつの間にか見よう見ようと前の人を押しやってしまうような、そういう状況なのである。メンバーは至近距離で盛り上がるオーディエンスに興奮している様子を見せながら、この後も時折、前線のオーディエンスを気遣う言葉を投げ掛けていた。
「俺たちもステージの上でお互いに気を使い合ってるからさ。今の時代、責任感を持てないってのは、俺は頂けないと思う。全力で気持ちをぶつけあってたら、自ずと責任感は生まれてくると思うから」。演奏中は目を引ん剥いて、正面のオーディエンスを睨め付けるようにしながら感情を叩き付けて来るあのヴォーカリストが、まだ若いのに随分大人びたMCをするようになった。それでも演奏が再開されればすぐさま熱は戻って来る。“風の又さぶろっく”では宮田岳(Ba.)のクールでありながらグイグイと牽引してゆくようなベースが楽曲の大きなうねりを生み出し、オーディエンスの体を揺らすのだった。この曲の《革ジャンなんか古くさいぜ》というやせ我慢なフレーズが、リアルで僕は好きだ。
艶やかなのにブルージー、という澤の深いギター・サウンドもキャリアの濃さを感じさせながらパフォーマンスが続き、レトロなミラーボールの煌めきもなんだかサマになっている。「ゴールデン・ウィーク最終日! もう、正月からこの5/6という日付が俺を睨みつけてて、ガチンコでぶつけたろ、と思ってたんで。え? うん、そう言って貰えると、なんと言うか、俺、伸びるタイプなんで」と大知。「なんだ東京、元気ないなあ! 俺らこの前、東北に行ってきたけど、めちゃめちゃ元気やったぞ! そんなんで日本、元気に出来るんかい!!」と挑発して「アー!!」「アー!!」「ニャー!!」「ニャー!!」とコール&レスポンスを敢行。この後には“マタタビ”のアコースティック・ヴァージョンも披露された。演奏がブレイクする箇所では女子オーディエンスの叫びも挟み込まれる。どこかストレンジな曲調と、会場の雰囲気がフィットしておもしろい。
そして大知は『猫 Pack 2』初回盤のドキュメンタリー映像に収められた山梨でのバンド合宿について振り返りながら、「間違いなく覚えて帰ってください!」とローザ・ルクセンブルグのカヴァー“まったくいかしたやつらだぜ”に繋ぐ。こういう歌詞の表現をカッコイイものとして選ぶことができる黒猫の感性はやっぱり素晴らしい。大知はブルース・ハープを吹き鳴らし、至近距離からのオーディエンスのシンガロングを受けるほどにバンド・サウンドも熱を帯びてゆく。
続けて“ボリュームノブ”をプレイすると岡本啓佑(Dr.)、「もう少しで終わりやから、最後まで楽しもう、そのためにもうちょっと下がろう」と再度注意を促す。大知が「啓ちゃんこういう気配りが出来る。中学の時、ゴールキーパーやから」とコメントしていてなるほどと思ったが、岡本のその語り口に真剣さがこもっていて、感動してしまった。今のロック・シーンは昔と違ってリズム・セクションも注目される傾向があるけれど、黒猫のリズム隊のように音も含めた「絶対的な信頼感が宿るタイプのカッコよさ」というのもやっぱりいいよな、としみじみ思うのである。
「『猫 Pack 2』、出して良かったあ。俺ら結成してから、初ライヴしてからか、5周年を迎えまして、東京に来てから3年で、もう東京の方が長いっていうね。この1年ぐらいはすごい濃くて、嫌なこともあるんだけど、そう、苦手なもんとか嫌なもんに打ち勝って行こうと、そういうことをしてました。俺なんて、六畳一間の部屋で考えてるだけなんだけど、うん。六本木なんてオシャレぶった奴いっぱい歩いてるけど、東京なんて六畳一間の部屋みたいなもんだよ。俺は東京に負けません。東京に押し潰されないようにしようと思う」。そんな、落ち着いたトーンでありながらも熱を孕んだ大知の言葉と、最後の熱唱が届けられ、今回のステージ本編は幕を閉じた。若いブルースが2012年の現実と取っ組み合って生きている姿を、至近距離で共有するライヴであった。
で、細かい所までは触れない方が良いのだけれど、この後もおもしろかった。普通のアンコールに突入するのではなくて、笑いや驚きがありながらバンドとファンの間に親密な、くつろいだ時間が流れる、そういうアイデアが盛り込まれていたのだ。最終的には、1曲のアンコールが行われる。そこに辿り着くまでの時間が楽しかったのだけれどユル過ぎて、バンドのテンションは大丈夫なのかと心配してしまうほどだった。ところが、いざ音を鳴らすというときの黒猫の瞬発力、とんでもなかった。一瞬で焦げつくようなロックンロールのど真ん中。この瞬間に立ち会うためにライヴを観に来たのかも、というほどだ。演奏時間が短くても満足できる濃密なライヴというのがあるが、極端な場合こういうことなのだろう。やっぱり凄いぞ、黒猫チェルシーというバンドは。(小池宏和)