METAMORPHOSE SPRING 12 @ 幕張メッセ国際展示場 9・10・11ホール
2012.05.13 13:20
今年で12回目の開催となるMETAMORPHOSE、2000年からの開催なので本来であれば今年は13回目となるはずなのだが、一つ少ないのは、昨年台風の影響で当日に中止を余儀なくされるという事態があったからだ。ツイッターなどを通してニュースが駆け巡ったのを昨日のことのように覚えている人も多いのではないか。今回は、会場も伊豆の自転車の国 サイクルスポーツセンターから幕張メッセ9・10・11ホールに移し、時期も例年の9月から5月に変更して「METAMORPHOSE SPRING 12」と銘打って開催されたのだが、METAMORPHOSEがついに帰ってきた、そんな開催と言える。会場に近づくと、Ebo Taylor & Afrobeat Academyの強靭なリズムが外にまで漏れ聴こえてくる。今回のMETAMORPHOSEは2ステージ制。フレーミング・リップスをヘッドライナーとして日中から夜までライヴが行なわれるJUPITER STAGEと、エイドリアン・シャーウッドやデリック・メイらを擁し、DJを中心に朝までプレイが続くSIRIUS STAGEという2つのステージ。ここではJUPITER STAGEを中心にレポートしていく。
会場に入って、最初に観ることができたライヴは、オマー・ロドリゲス・ロペス・グループ。ベースのホアン・アルデレッテが力強く拳を上げて、ステージに入ってくる。今回のオマー・グループは、基本的に3ピース体制。後で一人女性シンガーも加わったりするのだが、ライヴの大半はオマーとホアン、そしてドラムのディーントニ・パークスという編成で進行する。オマーの「Hello! Thank you」という一言から始まった1曲目から強烈。リフを主体としたジャムなのだが、オマーがギターを弾いて弾いて弾きまくる。ギター・ソロだけで5分近くあったのではないか。映像で観たコーチェラのアット・ザ・ドライヴ−インのステージでは淡々とした様子も見受けられた彼だが、今日は楽しそう。かなりディープなサイケ・ナンバーとなった2曲目ではオマー自らヴォーカルをとり、3曲目では絶叫と言えるシャウトでカタルシスを生み出してみせる。こうしたオマーを見ると、彼がパンクの人であることを改めて確認する。オマーでは珍しいブルース・バラード(正統派ナンバーでも彼のギターは冴えまくっていた)や女性ヴォ—カリストを迎えたナンバーを交えつつ、全10曲、最後はオマーならではの圧巻のクラウト・ロックを叩き付けて終了。まだ日の早い時間帯だったが、ディープさは相変わらず。オマーの顔からも笑顔がこぼれていた。
SIRIUS STAGEでムーディーマンの会場を揺るがすような極太のベースを体感した後、向かったのはゴリラズ・サウンド・システムのステージ。ゴリラズの楽曲と映像を受け継いで、独自にライヴ・スタイルでマッシュ・アップしてしまうユニットだが、これが思いのほか面白かった。まず映像からしてゴージャス。ステージ前にネットが張られていて、ステージのバックに映し出される映像とステージ前面のネットに映し出される映像という二つの映像が交錯するスタイル。そこにゴリラズのアニメーションがこれもかというぐらい映し出される。しかも、1曲目にゴリラズ最大とも言えるヒット曲“フィール・グッド・インク”を投下。デーモンの歌やデ・ラ・ソウルのラップはもちろん音源なのだが、パーカッションのレミとドラマーのパウリが魅せる。超絶的なテクニックで見事に観客を沸かしてみせる。必殺技を最初に出してしまって大丈夫かと思うが、ここからは“デア”“メランコリー・ヒル”“スタイロ”といったゴリラズの楽曲に留まらず、ジャクソン5からケイティ・ペリー、マイケル・ジャクソンまでを投下して盛り上げまくる。だけど、ここにデーモン・アルバーンの遺伝子を認めてしまうのは、ゴリラズの音楽が持つ構造――ヒップホップへのイギリス人の解答としてゴリラズという表現がいかに普遍性を持っていたか――がなければ成立しなかったであろうサウンド・システムとしての横断性があるからだ。正直、あまり期待していなかったのだけど、かなり楽しませてもらった。
1MCとダンサーを引き連れ、「楽しませることこそがヒップホップの神髄」とでも言わんばかりにいつも通りの大ネタ連発で盛り上げたアフリカ・バンバータ、東日本大震災の写真をスクリーンに映し出し、これだけメッセージ性の高いジャズ・サウンドでありながら洗練されたスタイルを持っているのに驚かされたアンダーグラウンド・レジスタンスことGalaxy 2 Galaxy(だからこそ彼らはデトロイト・テクノの黎明期ともつながることができたのかもしれない)、音源から期待していた通り80年代のエッセンスを取り入れながら繊細にフロアを作っていったリンドストロームを経て、JUPITER STAGEに姿を現したのはオービタルである。
大喝采の中、ステージに現れたフィルとポールの2人。もちろん2人とも頭にはトレードマークであるヘッドライトを付けている。ライヴの幕開けを飾ったのは、新作『ウォンキー』から“One Big Moment”。最初の一音が発せられた時点で、電子音の気持ちよさを真に理解している人たちなのだと実感する。BPM的にはそこまで速くない楽曲だが、そのサウンドによってじっくりと会場をオービタルの色に染めていくような、そんな印象がある。だけど、こうしたフェスのフロアで何が求められているかも、しっかりと分かっているのがこの人たちである。彼らの代表曲の一つの言える“Halcyon+on+on”と共に、なんとベリンダ・カーライル“ヘブン・イズ・ア・プレイス・オン・アース”を投入。サウンドテクスチャーの高尚さとは別のところで、こうしたフロアの盛り上げ方という点でも如才ない。新作からの3連発“Straight Sun”〜“Beelzedub”〜“Never”という流れでもフロアの温度は下がることはない。むしろ、どんどんオービタルの手中にフロアが収められていく。そして、ここで大名曲“Belfast”“Impact”が投下され、フロアは沸騰。アンダーワールドの“レズ”のように、ケミカル・ブラザーズの“Song to the Siren”のように、どれだけ時が経とうと脊髄反射してしまう曲というのがあるが、この2曲もまさにそんな曲。後ろを振り返れば、JUPITER STAGEは後ろまで人が溢れ返っている。しかし、この日のライヴが幸福だったのは、最新作がちゃんとショウのハイライトになっていたこと。タイトル曲“Wonky”では引っ張って引っ張って盛り上げ倒し、“Stringy Acid”は極太のキックがフロアを貫く。そして、オービタルのライヴが素晴らしいと約束されている理由、“Chime”で会場は絶頂に。この曲を聴く度に、やっぱりこの人たちにはもっと来日してもらわなければと思わずにいられない。最後を新作からの“Where Is It Going”で締めるところも含めて完璧なショウだった。
そして、JUPITER STAGEの最後に登場するのはフレーミング・リップスである。ステージには例の巨大な半円状のスクリーンがとりつけられ、坂道も用意される。もう場内にいたほとんどの人が何は起こるかは分かっていただろう。詳しくは前回の来日公演のレポートを参照いただきたいが(http://ro69.jp/live/detail/43127)、例の全裸の女性の映像と共に、アソコからメンバーがステージに登場する。分かってはいるけれど、でもここで理性のタガが外れてしまう。それこそがフレーミング・リップスのライヴである。そして、一しきりメンバーが登場した後、ステージに現れるのは、まだ空気の入っていないスペース・バブルの中に入ったウェイン・コインその人だ。どんどん空気が入って膨らんでいくスペース・バブル、そして機に達すると、ウェインはスペース・バブルのまま客席へと歩み出す。もうフレーミング・リップスのライヴでは儀式となっているこの演出だが、今日は1.5倍増し。その後の曲になっても、紙吹雪と風船がこれでもかと投入され、尽きることがない。ステージの両袖では思い思いの格好に身を包んだサポーターたちがバンドを盛り上げる。圧倒的な祝祭感が場内を包む。けれど、鳴っている音自体は非常に退廃的なディストーション・サウンド、やっぱりこれがフレーミング・リップスだなと思う。3曲目には早くも“The Yeah Yeah Yeah Song (With All Your Power) ”が繰り出される。そして、次の曲に入る前にウェインは、昨年の中止の一件について触れ、ここに戻って来れたことを嬉しく誇りに思っていることを語る。そう、よくよく考えてみれば、サマーソニックへの出演を含めても、これまでで最も多い観客がフレーミング・リップスを目撃する機会、それがこの日だったのである。海外ではフェスのヘッドライナーも珍しくはないが、こうした形で日本で演奏するのは初めてのことなのだ。だからだろうか、“Yoshimi Battles the Pink Robots, Pt. 1”も、“See The Leaves”も、ウェインの表情には普段以上に慈愛が満ちている。“Laser Hands”では巨大な手から客席にレーザーを発射し、“The Ego's Last Stand”ではドラを打ち鳴らすウェイン。だけど、それが単なる祝祭ではなく、一人一人の個へのメッセージとならなければ何の意味もないことを徹底しているのがフレーミング・リップスであり、その究極とも言える楽曲が最後に演奏された“Do You Realize?”だろう。“Don't Look Back In Anger”のような大合唱ではない。でも、ささやかな声が寄り添い、集まることでフレーミング・リップスのシンガロングとは成立する。それを嬉しそうな顔で見つめるウェイン。ライヴが終わっても帰ろうとしない観客たちに、彼は3度も挨拶にやってきた。(古川琢也)