アマチュア・アーティスト・コンテスト「RO69JACK 2011」で優勝し、『ROCK IN JAPAN FES.2011』への出演を果たしたThe モラトリアムスパゲッチーズは、今年の7/4、JACKMAN RECORDSから初の全国流通盤となるミニ・アルバム『ひらがなで、もらすぱ。』(プロデュースはthe chef cooks meのシモリョー)を発表。全12公演というスケジュールで2ヶ月強に渡って繰り広げられて来た同作のリリース・ツアーを締め括るのは、自主企画『The モラトリアムスパゲッチーズpresents“さいぼうぶんれつ 下北沢編”』である。以前から交流のある、同世代の若いバンドを招いた3マン・ライヴで、下北沢ERAのフロアは見事に盛況であった。
奇しくもモラスパと同日にミニ・アルバム『メトロナポリタン』をリリースしたというnicotenは、とぼけているようで異様な目力を発揮するフロントマン・宮田航輔が等身大の悲喜こもごもを歌い上げ、やたらにファンキーかつ力強いバンド演奏がそれをブースト・アップする。2番手に登場したSuck a Stew Dryは、内省的な詩情の爆発を5人のメンバーががっちりと共有し、美しくも狂ったギター音響の暴風圏と化したステージを見せてくれた。彼らは10/17に2作目となるミニ・アルバム『ラブレスレター』をリリース予定であり、レコ初ライヴではモラスパとの共演も予定しているそう。三者三様の個性がくっきりとしたイヴェントとなっていることも素晴らしかった。
そしてモラスパの登場だ。ステージを覆い隠していたプロジェクターが上昇すると、そこには将太(Vo./G.)ひとりの姿が。唐突に、切々とした弾き語りで“溺没魚”を披露する。気怠さを滲ませたその歌声は、今にも壊れそうな危うい少年性のインパクトがある。そこに他のメンバーが入り、迫力のアンサンブルへと展開。今回はサポート・ギタリストのヒロミチを加えた5人編成だ。立ち位置としては彼の影に隠れてしまっているけれど、アンラッキー☆五十嵐(Ba.)の真っ赤なジャージ上下の姿が目立つ。
ツアー・ファイナルへとかける意気込みを一息に解放するように、“ああ”から勢い良く転がり出すバンド・サウンド。予想を気持ち良く裏切ってゆくソングライティングは一筋縄ではいかないが、それを補って余りあるフックの強さと中毒性が、モラスパの楽曲にはある。どこからともなく溢れ出す加速感に、メンバーそれぞれが食らいついてゆくような、生々しくスリリングな演奏も映える。そんな中でステージ下手に陣取る航は、ギターにキーボードにと忙しなくパートをスイッチしながらサウンドを彩ってみせる。続く“スキヤキスーパースター”ではパーカッションまで叩いてファンキーに楽曲を演出。将太はハンド・マイクで目を引ん剥きながら「今日一番のハンド・クラップを! 後ろまで!」と煽り立てるのだった。
ここで改めて、息を切らしながらリリースとツアー・ファイナル到達を報告する将太は、「アルバムに入っていない曲を続けてやります。楽しんでやります」と更に前のめりになってゆく。リズムを切り替えながら突き進む新曲のダンス・ナンバーにミラーボールが回り、クリスピーな節回しがフラストレーション完全燃焼のロックンロールとして炸裂する“ぐっどないともーにんぐ”へと連なっていった。作曲もコンビネーションも実に厄介で人間臭いバンドだが、それをがっちりと支える小野(Dr.)もすごい。歪んだキーボード・フレーズを巻いて脱臼グルーヴが構築されてしまうというナンバーも、モラスパの冒険的/野心的なふてぶてしさが表れていて最高だ。終演後にアンラッキー☆五十嵐に訊いたところに依れば、この辺りの新曲群はまだタイトルすら決まっていないそうだが。
そして来た、3本のギターのドリーミーなフレーズが絡み合ってスタートする名曲“深爪”だ。《深爪は君のためだよ/深爪は僕のためだよ》。この一節が分からない者の愛の言葉など何ひとつ信用ならないという点で、パーフェクトなロック言語。パーフェクトなラヴ・ソングである。そこからシームレスに将太のギター・カッティングが弾けて“くせに”。この曲も《自分さえ変えられない奴が/世界を変えるとか言うなよ》という批評的なフレーズがズバリ突き刺さるナンバーなのだけれど、オーディエンスがしっかり聴き取れるような演奏の工夫が施されるともっと素晴らしくなると思う。実にもったいない気がするので。
「MCとかは苦手なんで、いろいろ言いたいことはあるけど、これから音楽を続けていく中で、伝えていきたいと思います。優しい音楽に包まれて、なかなか吐き出せない思いに共感できた一日だったと思います。あとは、それぞれに楽しさを表現するだけです!」と、昂ぶる思いにぶるぶると頭を震わせる将太。本編最後は“ひらがなで、まいわーるど。”を思うさま叩き付け、「ありがとうございました! アンコール待ってます!」という言葉には笑い声が広がるのだった。
メンバー自らもアンコールの拍子を取って再登場すると、「新曲やります……バキバキうっせえんだよ! あ、おれでしたすみません」と将太。誤解のとばっちりを受けた可哀想な人は航だが、モラスパは本当に楽しそうなバンドだ。そこから巨大なスケール感で描き出されるエモーショナルな美曲も素晴らしかった。最後は将太のギター機材がトラブった上に“「オーマイゴッド!」”の入りで小野がトチって仕切り直していたが、もはやそれぐらいで熱が冷めるようなステージではない。将太はフロアの真ん中まで来て、オーディエンス全員によるしゃがみ込んだ状態からの一斉ジャンプを仕切り、上半身裸になっていたサポートのヒロミチがドラム・セットに飛び込んでフィニッシュ。「今日はホントありがとうございました! まだまだモラトリアムで行きたいと思います!」と将太は告げていた。(小池宏和)
The モラトリアムスパゲッチーズ セットリスト
01: 溺没魚
02: ああ
03: スキヤキスーパースター
04: (新曲)
05: ぐっどないともーにんぐ
06: (新曲)
07: 深爪
08: くせに
09: ひらがなで、まいわーるど。
EN1: (新曲)
EN2: 「オーマイゴッド!」