宇宙まお @ SHIBUYA BOXX

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宇宙まお @ SHIBUYA BOXX
「2nd mini album『ワンダーポップ』発売記念・無料招待ライブ」

宇宙まおは、RO69で連載している期間限定ブログで、しばしば「並べられた椅子が蟹に見える」(http://ro69.jp/blog/uchumao/74103)とか、「マッシュルームが笑っている」(http://ro69.jp/blog/uchumao/74104)とか、ケーブル類から毛根やターバンを連想してみたりとか(http://ro69.jp/blog/uchumao/74900)・(http://ro69.jp/blog/uchumao/75004)、彼女の独特の視点と発想を伝えてくれている。はじめのうちは、美大卒の人の目ってのはそういうものなのかな、と思っていたのだけれど、記事が更新されるうちに彼女の才能の大きさが凄味を帯びて感じられるようになった。彼女の視点や発想は独特だが、それらはことごとく「分かる」「共有できる」ものなのだ。つまり、ポップなのである。

自身初のワンマンにして、オフィシャルHPで参加者を募集した無料招待制のスペシャル・ライヴ。SHIBUYA BOXXのフロアは来場者でみっちりと埋め尽くされていた。6色の巨大な風船が浮かべられたステージに姿を見せた宇宙まおは、さすがに初のワンマンだからということなのか、以前観たときよりも緊張している面持ちだった(あくまでも彼女にしては、のレヴェルだが)。バンマスにキタダマキ(Ba.)、中畑大樹(Dr.)、草刈浩司(G.)、サニー(Key.)という辣腕バンド・メンバーのアンサンブルを一歩ずつ慎重に踏みしめるようにして、この11/7にリリースされたセカンド・ミニ・アルバム『ワンダーポップ』のオープニングを飾っていた“ブルーナ”と、昭和歌謡風メロディが印象的な“穴だらけ”を歌う。

宇宙まお @ SHIBUYA BOXX
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そして「この曲は振り付けがあるんですけど、膝を曲げるだけなんで、皆さんも良かったら」とオーディエンスを誘って“1234”へ。瑞々しく弾けるロックンロールと、メンバーが順繰りに膝を曲げて腰を落とす(ドラマー中畑も立ち上がってやっている)ユーモラスなアクションが効いたのか、ここで宇宙まおが抱えた緊張は一気に解れた印象があった。サニーのピアノと草刈のギター・ノイズがスリリングに交錯してライヴ仕様の迫力アレンジを演出する“逢瀬”では、彼女のモノローグのパートも自然な熱を帯びてゆく。歯を見せて爽やかに笑う、虚勢もポーズも不要な宇宙まおの本領が、いよいよ発揮されていった。

せっかく時間があるからということで、この4月まで学生であったこと、学生時代はThe宇宙人sというバンドをやっていたこと、そこからソロのミュージシャンとして宇宙まおと名乗るようになったこと、以前は主にギターと作曲を担当していたが「作曲をしていると歌いたくなる」こと、音楽を諦められなかったことなど、4月のソロ・デビューに至るまでの経緯を改めて振り返る。その後に繰り出されるのは、平熱のフレーズが異様な中毒性を纏うキラー・チューン“あの子がすき“だ。オーディエンスの手拍子を巻いて進む。“みじめちゃん”は宇宙まおの原点を確認するという意味合いを込めて弾き語りで披露されたが、キタダのタンバリンと“あの子がすき”から続くオーディエンスの手拍子が歌を支え、サニーの鍵盤ハーモニカなどバンドも控え目ながら絶妙なサポートを加えていった。

宇宙まお @ SHIBUYA BOXX
それにしても、宇宙まおの楽曲の中毒性というのは凄い。プライヴェートな視界から生み出されるラヴ・ソングを歌っているだけなのに、その歌はメロディと共に胸の内に留まり、自分でも気付かないうちに反芻されている。宇宙まおという個性と視界が、いつしか自分の中で息づいている。それはポップ・ミュージックの最も大切な、魔法のような力だ。宇宙まおの登場と同時にロック・ファンとしての道を歩み出すことが出来る若いリスナーを、僕は心底羨ましいと思う。それこそ、リアルタイムでザ・ビートルズに触れてきた人たちと同じくらい、羨ましいと思う。ポップ・ミュージックに纏わり付く知識や経験をリセットして、すべてはここにあるし、すべてはここから始められると確信させる力が、宇宙まおの楽曲にはあるからだ。

「汗に濡れ、雨に濡れたあの夜を、私は忘れません!」と告げてスタートしたエモーショナルなナンバー“雨の予感”も、一筋の光とシンクロするようなキーボード・サウンドに彩られた荘厳なナンバー“夜よ”も、初めて耳にしてからたいした時間が過ぎているわけではないのに、まるで歴史的な名曲みたいな顔をして胸の内に留まっていることに気付く。「今日は皆さん、宇宙まおってどんなやつなんだろうって、いろんなことを想像しながらここまで来てくれたと思うんですけど、私も、私たちも、今日来てくれる人たちはどんな人たちなんだろうと想像していて。あ、私が想像していたのはこの人たちだったのかって感激しながら、今、一人一人の顔を拝見しています。今日は本当にありがとうございました!」と彼女は語り、本編最後のナンバーを披露する。いつしかどの曲も歴史的名曲みたいな顔をしているものだから、僕は「あ、“ロックの神様”、まだやってなかったっけ」と間抜けなことを思ってしまった。

宇宙まお @ SHIBUYA BOXX
アンコールの催促に応じて両腕でガッツ・ポーズを決めながら再登場した宇宙まおは、やはり今回のワンマンでは緊張していて、「ストレスで鼻の下に2つ、ニキビが出来ました。マイクにぶつけて潰れそう」と、本編を終えて肩の荷が下りたのかナチュラルな笑顔を見せている。一度目のアンコールでは『ワンダーポップ』を締め括っていたナンバー“君が死ぬまで終わらない物語”を、二度目のアンコールでは「やりたかったことがある」とバンド・メンバーと列になって手を繋ぎ礼をして、一人で弾き語りヴァージョンの“あの子がすき”を披露した。もはやバンドには頼れないからか、オーディエンスの手拍子の中で、クリスピーな歌の節回しがこの日の一度目の演奏よりも歯切れ良く決まっていた。

宇宙まお @ SHIBUYA BOXX
『風とどこかへ』と『ワンダーポップ』、2作のミニ・アルバムに収録された楽曲群の大半が披露される、1時間半の初ワンマン。宇宙まおの物語はまだ始まったばかりだが、彼女の魅力が詰め込まれた濃密なライヴだった。更なる成長を続けるはずのキャリアの中で、一人でも多くの人がこの才能に出会うことを願う。宇宙まおは12/30に、幕張メッセで行われる『COUNTDOWN JAPAN 12/13』への出演を予定している。(小池宏和)


セット・リスト

01: ブルーナ
02: 穴だらけ
03: 1234
04: 逢瀬
05: あの子がすき
06: みじめちゃん(弾き語り)
07: 満月の夜
08: 雨の予感
09: バイバイ
10: 夜よ
11: ロックの神様

EN1: 君が死ぬまで終わらない物語

EN2: あの子がすき(弾き語り)
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