OverTheDogs(＝オバ犬)が、昨年11月にリリースした2ndフルアルバム『プレゼント』を引っ提げた『プレゼントの降る街TOUR』のファイナルを赤坂BLITZで飾った。客電が落ちると、それまでスクリーンに映っていた絵が躍動をはじめ、雪が降り出す。すると、サポートを含めた楽器陣の5人が登場。鳴らし出した音は、次第に熱を帯びていき、ここで恒吉豊(Vo&G)が飛び出してくる。「行くぞ赤坂BLITZ!」と叫び、1曲目の“マインストール”へ。すぐさま、『良い曲、良い演奏』、『癖のある文学的な歌詞』に留まらない、ライヴバンドとしての魅力を見せ付けていく。というのも、恒吉、なかなか他に見ないほど、踊るように、パントマイムのように、全身を使うのだ。柔らかなハイトーン・ヴォイスは乱すことなく、しっかりと歌を伝え、その上で、飄々とした表情で演奏に身を委ねる。ポップセンスと独自の世界観とのバランスが絶妙だ。それに加えて、オーディエンスにマイクを向けたり、「飛ぶぞ!」と煽ったりもするものだから、ぐいぐいと引き込まれてしまった。“凡考性命紊”では、Co2が焚かれるステージで、拡声器を手にする。想像よりも、ずっとずっと危険な匂いに胸が高鳴る。

そういった振り切ったパフォーマンスの理由が、『プレゼントの降る街TOUR』というタイトルの意味を説明する恒吉のMCで、少しわかった気がした。テレビを点けても、新聞を見ても、空からいいものが降ってくるニュースはない。起こり得ないことっていっぱいあるわけで、空からいいものが降ってきてもいいんじゃないか。爆弾とか、放射能じゃなくて。――その話の後に演奏された“プレゼントの降る街”を聴きながら、現実を噛み締めながらも夢を見せる、その考え方は彼らの全ての表現に通じるのではないだろうか、と思えたのだ。会場全体も、どんどん一つになっていき、“普遍ソング”では、客席のみならずステージでもたくさんの小旗が振られ、恒吉は《君に作った　普遍ソングだ》と歌いながら客席のあちこちの《君》を指す。血が通ったコミュニケーションだ。

また、優れたフロントマンである恒吉を擁しながらも、他のメンバーも負けていないことがわかるのが、オバ犬のライヴの醍醐味。“気まぐれしりとり”では、佐藤ダイキ(B&Cho)がセンターに立ち、星英二郎(Key&Cho)と樋口三四郎(G&Cho)と3人でハンドマイクを持って歌う。さらに佐藤が「俺がプレゼントを降らしてきたわけですよ!」と言うと、各地でご当地ギャグを発してきた模様がスクリーンに流れる(個人的に心に残ったのは、福岡の「みずたきがわクリステル」だった・笑)。そしてこの赤坂の地のご当地ギャグは「ボリジョイ・木下・赤坂サーカス!」……ちょ、ちょっと上手い。恒吉まで「ボリジョイ・木下!」コールを起こすほどの盛り上がりを見せる(笑)。そして“チョコレート”、“ついで”と畳み掛けたものの、次のMCで再び思いっきり和む。というのも、恒吉曰く「福生と癒着している」福生出身のオバ犬が、福生のゆるキャラ『たっけー』をステージに呼びこんだからである。たっけー直々のオファーにより、たっけーの楽曲まで作って、オーディエンスと共にシンガロング……これは確かにスペシャルなプレゼントだが、ゆ、ゆるい!(笑)。

しかし、終盤に突入するとピリッとした空気に。“つきもの”では佐藤と樋口もステージ前方に出てきて、“なりみみ”では客席からコブシがいっせいにあがる。最後は、「プレゼントをもらっているのはこっち側なんだよ。僕はずっと音楽をやっていると思うから、いつでも来ていいからね」という恒吉の感謝と決意に満ちた言葉からはじまった“愛”。星のピアノだけでワンコーラス歌い、続いてバンドアレンジに雪崩れ込む。愛とは?　生きるとは?　そんな永遠の疑問に光を照らしてくれる希代の名曲に包まれて、本編は幕を閉じた。

アンコールは“みぎてひだりて”を、思いっきりマイクを客席に向けて歌わせる。そしてメンバーはステージを降り、客電も点いた……しかし止まらない拍手。それに応えて、何とダブルアンコール!　「最後でもさ、死ぬわけじゃないから」と恒吉らしいお別れの言葉からはじまったのは“ミスレル”。「オイ!　オイ!」と熱いコブシを振り上げて、万感のフィナーレとなった。

楽曲やインタヴューで只者ではないことはわかっていたが、ライヴで気付いたこともたくさんあった。折れそうに繊細かと思ったら、脱力するほどユーモラスで、それでいて毒々しく攻撃的。その全てをすこぶるポップに昇華してしまうんだから、オバ犬、恐るべし。もっともっと多くの人にライヴを目撃して欲しい。(高橋美穂)