【コラム】9mm、4人の個性炸裂のニューアルバムがあぶり出す、そのカオスな「現在地」


武道館2DAYS公演とその映像作品/初のベスト盤/シングル『生命のワルツ』と10周年アニバーサリーの祝砲を自ら打上げまくった2014年。メンバー四者四様の楽曲をコンパイルした「クアトロA面シングル」こと『反逆のマーチ/ダークホース/誰も知らない/Mad Pierrot』のリリースとツアー「カオスの百年TOUR」に沸いた2015年。さらに、『Dawning』リリース直後の新事務所設立(2013年)、自主レーベル「Sazanga Records」設立(2014年)、メジャーデビュー以来所属したユニバーサルミュージック(旧:東芝EMI〜EMIミュージック・ジャパン)を離れて「Sazanga Records」へ活動拠点を移行&『Waltz on Life Line』はTHE YELLOW MONKEY、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTなどでお馴染みの名門レーベル「TRIAD」と「Sazanga Records」がタッグを組む形でリリースすることを発表(2016年)——。

前作『Dawning』から約3年、9mm Parabellum Bulletのニューアルバム『Waltz on Life Line』がついにリリースされた。9mmがアルバムのスパンを3年近く空けるのは初めてのことだが、『Dawning』が9mmの粋を集めた金字塔的アルバムだったことに加え、『Dawning』以降の約3年間は前述の環境の変化が一度に重なった激動の時期でもあったわけで、個人的な感覚としては「逆によく3年でアルバムに漕ぎつけたなあ」と言ったほうが近い。ヘヴィメタル/ハードコア/ロックンロール/歌謡/ダンスロックなど多彩な音像をカオティックでキャッチーなロックへと結実させる——という、2016年のシーンにあってはデフォルトとなった表現手法をいち早く発信しながら、ロック最前線へと躍り出た9mm。そんな彼らが、自らを取り巻くカオス丸ごとロックの燃料に変えるようなダイナミズムを炸裂させた「ゴールなき戦場」としての爆発力が、『Waltz on Life Line』には凝縮されている。

アルバムタイトルとも関わりの深いスラッシュワルツ“生命のワルツ”や、すでにライヴでもその即効性を発揮している“Lost!!”や“太陽が欲しいだけ”をはじめ、メインソングライター=滝 善充の楽曲は全15曲中6曲。そこへ、8ビートロックのロマンとソリッドな突破力に満ちた中村和彦の4曲(“迷宮のリビングデッド”では作詞も担当)、爆裂ドラミングや各種連載原稿の弾けっぷりとは真逆のイノセンスを漂わせる“Kaleidoscope”などかみじょうちひろ作詞作曲による3曲、9mmのロックに「うた」としての訴求力を与える菅原卓郎の“誰も知らない”“Lady Rainy”……過去5作のアルバムで提示してきたどの「9mm像」とも一致しない、それでいて9mm以外のどのバンドにも鳴らせないスリルとミステリーに満ちた作品だ。そして、音楽的サプライズを満載した楽曲に、単なる「音のジェットコースター」とは一線を画したロックの軸を貫き通してみせる9mmの核心は、4人の個性が乱反射し合っている今作の15曲からよりくっきりと浮かび上がってくる。

おそらく当初は「Sazanga Records」も——その名称から9mmに関連したレーベルであることは窺えたものの——「新たな9mmの本拠地」としての戦略的な位置づけまでは想定していなかったはずだし(もしそうであれば、レーベルとしての1stリリースにはjamming O.P.ではなく9mmの作品を選んでいたと思う)、「Sazanga Records」へ活動の軸を移したタイミングも、さまざまな巡り合わせが一致したがゆえの「今」だったのだろう。それでも、自らのカオスと踊り制御不能なカオスを轟かせた『Waltz on Life Line』を経て、彼らの新たな戦闘態勢が整ったという実感が、その音からもリアルに伝わってくるのが嬉しい。6月から始まる約8年ぶり野音〜全国ツアーで、「9mm最新型」の真価が明らかになるはずだ。(高橋智樹)