星野源、『ドラえもん』初回盤DVDに収録されている弾き語りの“恋”が素晴らしすぎる

星野源の最新シングル『ドラえもん』。すでに国民的作品の国民的主題歌として定着しつつあることを、毎日ふとした瞬間にサビを口ずさんでいる自分自身の身をもって感じている。今回は、このシングル作品の初回限定盤に付いている、かなりスペシャルなDVDについて語りたいと思う。星野源のフィジカル作品に付く初回限定の特典ディスクは、単なるおまけレベルではない、常に時間と手間をしっかりかけた「作品」として制作されたものばかりなのだが、今回の『ドラえもん』の初回限定特典DVDもまた、これまで以上のサービス精神でもって楽しませてくれる。


『ViVi Video』と題された今回の特典DVDには、まず星野源の友人であるところの、おなじみ「ニセ明」が登場し、自身の世界進出のためのPR映像を制作するという謎の企画が持ち上がるところから始まる(この時点ですでにおかしい)。この『ニセ明をスキーに連れてって』というドキュメンタリー(?)映像は、同DVDのコメンタリー内で星野源が「初回特典史上一番バカバカしくて、豪速球でくだらない」と言っていた通り、全ニセ明ファン(もちろん私もその1人)必見の脱力エンターテインメント作品に仕上がっている。もう最高。これだけでも完璧な「初回特典」なのに、今回はさらに、2016年10月に行われた「テレビ朝日ドリームフェスティバル」での、弾き語りライブの模様も収められているのである。何よりその選曲がスペシャルだった。

星野源の弾き語り、それ自体はさほど珍しいものではない。「星野源のひとりエッジ in 武道館」(2015年)や「星野源 横浜アリーナ 2Days『ツービート』」(2014年)での「弾き語りDAY」など、弾き語りをフィーチャーしたライブも行うし、通常のツアーでも弾き語りで歌を伝える時間をとても大切にしているアーティストだ。しかし、この「ドリフェス」では、ふだん弾き語りでは演奏しないであろう楽曲が披露された。そう、“恋”である。アコギのフィンガリングの音まで聴こえる剥き出しの演奏は、原曲よりもかなりゆったりとした静かなテンポで奏でられる。ポップミュージックとして完璧に練り上げられた名曲としての“恋”ではなく、まるで星野源がごく私的な思いを口にするかのような親密さで響く“恋”。あの名曲が生まれてきた瞬間のピュアな原点を垣間見るような、とてもとても温かい歌がそこにあった。

そういえば、“恋”がリリースされた当時、『ROCKIN'ON JAPAN』(2016年11月号)のインタビューで星野は、「実際この曲はもっと遅かったんです。ものすっごい遅かったんです」と語っていたことを思い出した。もしかしたら、生まれたばかりの“恋”は、こんなふうにゆっくりと穏やかに沁みていくような楽曲だったのかもしれない。大ヒットを記録した“恋”のあの速いテンポ感は、星野のひとつのひらめきであり、それこそが時代の流れに則したリズムであり、だからこそ多くの人のシンパシーを得たのだと思う。でもこうして「きっと生まれたばかりの“恋”はこんな感じだったのだろうな」と想像しながら、ある種、無防備なままで届けられる「歌」を聴くにつけ、はじめから“恋”は普遍的に感情を揺さぶる名曲になることが決まっていたのだと確信した。それくらい、この弾き語りの“恋”は素晴らしい。

“恋”のバラードバージョンでの演奏は、実は昨年『おげんさんといっしょ』の番組内でも披露されている。その時は、星野が敬愛してやまない細野晴臣がベースで参加してのセッションで、星野は今回の弾き語りを「その時のアレンジに近い」とコメンタリーで語っていた。しかし完全にソロで弾き語る姿は今DVDが初。本人も「気に入っております」と言っていた通り、“恋”の魅力を違った角度から再発見できる演奏だと思う。他にも“化物”、“地獄でなぜ悪い”、“SUN”の弾き語りが収録されていて、どの曲も、彼がなぜずっと「弾き語り」を大切にしているのか、改めて理解できるような気がした。歌が生まれてきた時の、あるいはそのメロディを初めて口ずさんだ時のプリミティブな感動、それ自体を共有するために、そして自身の中にいつでもその瞬間を呼び覚ませるように、星野源はアコースティックギターをかき鳴らしながら歌を届けるのである。(杉浦美恵)