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トミー・リー(モトリー・クルー)
ジョン・ボーナムが亡くなり、80年代が本格的に幕を開け、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルのサウンドが多様化し始めると、バンド内のドラマーに要求される役割も、よりピンポイントな“個性”が求められるようになっていった。もっとパワフルに! いや、もっとスピードを! いやいや、もっとプログレ的テクニックを!――そうして必然的に「ドラマー戦国時代」と化した80年代にあって、ただひたすら「クレイジー」なエンターテインメント性を追求することでシーンの頂点を極めた伝説のドラマーがいた。そう、モトリー・クルーのトミー・リーである。
80年代の前半、ベースのニッキー・シックスらと共にモトリー・クルーを立ち上げたトミー・リーは、当時のLAハード・ロック・シーンの妖艶な“ワイルド・ライフ”をそっくりそのまま体現したようなキャラクターで人気を集めた。そして、当時のモトリー・クルーのライブでは、必ずと言っていいほど、彼による“スペシャル・ドラム・ソロ”のセットが組まれていた。
他のメンバーはすべて一旦ステージから捌け、登場するのはトミーのみ。ドラム・キットはステージのはるか上空にあり、電動式ワイヤーで吊るされている上に、上下左右にグルングルン回転できるようになっていた。ソロのクライマックスでは、トミーは天地が完全に180度逆さまの状態でワイルドなビートを叩きまくって、会場内のボルテージも最高潮の盛り上がりへと達する――。
と、ここまでを読んだ、当時を知らない若い人は、「その“無重力ドラム”って、見た目はともかく、音楽的にはどんなメリットがあったんですか?」と、純粋に不思議に思うかもしれない。正解は「メリットは特になし」である。右に90度傾こうが、上下が180度回転しようが、そのことによって新しいグルーヴが生まれたわけではない。あるわけないじゃん。でも、トミーのクレイジーな思いつきと、常識破りのスペクタクル・ショーは、世界中のドラマー少年たちの心をときめかせ、その開拓精神は、90年代以降、より多くのチャレンジャーたちによって引き継がれていくことになる――80年代、アリーナ・ロックにおけるドラム・ソロとは、人類の未来のための壮大な挑戦場であった。そして、そこで最強にワイルドな宇宙飛行士は、トミー・リーだった。(内瀬戸久司)
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