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フードを被った中村弘二の強烈なフィードバック・ノイズで始まったiLLのライヴ。昨年はステージ上に幕を張り、映像もふんだんに用いたステージだったが、今回はドラムの沼澤尚、ベースのナスノミツルの3人がステージに立つだけというシンプルなもの。けれど、音の情報量は当然のことながら減っていない。むしろ上がっていると言っていい。元々、iLLはエレクトロニック・インストゥルメンタル・ミュージックとして始まったプロジェクトだったが、現在は中村弘二が再び歌い始めている。そんな彼の歌がこの日は印象的だった。ときになににも関心がないような気だるさで、ときに目を剥いたような凶暴さで、ときに触れれば砕け散ってしまうような繊細さで、吐き出される言葉とメロディーは、どれも高い透明度をもって聴き手に語りかけてくる。音楽が、ロックがルールからまったく逃れたところから、歌を取り戻していくプロセスがそのままこの日のライヴになっていた。最後に演奏された“Ghost!”のイノセントなメロディーは、昔から中村弘二を見てきた人間として嬉しかった。(古川琢也)